第56話 バーベキューを楽しむのですが?
海での楽しい時間もあっという間で、夕暮れ時にさしかかってきたので俺たちは白崎さんの別荘に帰ることにする。
戻ってくると、親父たちがバーベキューの準備を進めていた。並ぶ生肉や野菜を見ていると、無性に心が踊り出す。
とりあえず水着から着替える。いつまでもこの姿でいると、さすがに夜は冷えるからね。風邪なんて引いたらせっかくの休みを完全に満喫できなくなる。
さっと着替え、私服で外に出る。俺も火起こしなんかを手伝っていると、彩乃と白崎さんが出てきた。白崎さんの姿に、思わずドキッとしてしまう。
可愛らしいサマードレスを着た白崎さん。夜と夕方――紺と紅蓮が入り交じる空を背景に立つ白い彼女は、現実離れした美しさだった。
「どう、かな? 翔真くん。これ、似合ってる?」
「え、あ、うん! すごく似合ってる!」
あっぶねぇ。呼吸することも忘れていたぜ……。あまりの可愛さに我を失うほどだった。
純白のサマードレスがここまで似合うとは恐るべし。さすがは天使様。
とりあえず俺は肉を焼くことにしよう。熱した金網に牛肉を並べていき、彩りを添えるために野菜を少しずつ乗せていく。
しばらく眺めて、絶好のタイミングを狙う。いい感じの匂いが漂ってきたここで……いく!
さっと金網から離して白崎さんと彩乃の皿に盛り付ける。適量のタレをかけて完成っ!
「ありがとう翔くん。いただきます」
「いただきます」
二人がお肉を頬張る。白崎さんのお父さんがいい肉を焼かせてくれたから、二人とも口に手を当てて驚きの表情を見せてくれた。
「美味しいっ!」
「すごい!」
「このお肉高そうなんだよな。白崎さんのお父さんに感謝しないと」
ふと親父たちを見ると、お酒を片手に晩酌モードだった。まぁ、たしかにお酒を飲みたくなる気持ちも分かる。お酒は飲んだことないからどういうときに飲みたくなるか分からんが。
俺は、彩りとして焼いたカボチャを食べる。堅さの中に甘味があり、噛むほどに甘さが感じられた。
さてさて、いよいよお肉を……。
「翔くん食べないの? じゃあ私がもらうね」
彩乃に肉を奪われた。……そうだった。焼き肉の時は戦争だということを忘れていた。肉の前に人は争う運命なのだ。
がっかりしながらタマネギとキャベツを皿に取る。すると、横からお肉が差し出された。
「どうぞ。翔くんお肉食べてないから」
「え、ありがとう!」
白崎さんがわざわざお肉を分けてくれた。争い、奪い合うはずのお肉をわざわざ分けてくれるとは、なんといい子なんだろうか。ありがたく頂戴しよう。
お皿を差し出す。けど、白崎さんはお皿にお肉を入れてくれない。
「あ、あれぇ?」
「はい、あーん」
まさかのあーん!? それは思春期の男の子には心臓に悪影響が出てしまいますってよ~。にやけ顔で言ってるから説得力は皆無だけどね。
いいかい? これは不可抗力だ。だからあーんで食べることは仕方がないんだ。そう言い訳し、口を開ける。
箸と肉が入ってくる。というかこれ、まさか間接キッ……!
「どう? いい感じでしょ?」
「うん。美味しいには美味しいけど……」
味が分からねぇ。衝撃が大きすぎてまともな味覚が働かなくなってる。
お肉を飲み込み、白崎さんにお礼を言う。彼女はにこやかに笑うと、俺が口を付けた箸のまま別のお肉を食べた。
めっちゃ美味しそうに顔をほころばせているけどそれ……いやまあ、本人が幸せそうならいいか。
さて、次のお肉を焼きますか。そう思って金網に今度は鶏肉を乗せる。すると、横から顔を引っ張られて何か柔らかいものが唇に押しつけられた。
無理矢理口がこじ開けられ、ちょっと暖かいものが入ってくる。
これ……まさか肉? とりあえず、密着してくる彩乃を引っぺがして冷静に状況を確認する。こいつ、噛んで柔らかくした肉を入れやがったな!
「はい翔くん。あーん」
「あーんはお箸でやるものであって、お前のそれは断じてあーんではない!」
隙を見せればこいつはすぐにこれだよ! 本当に困った幼なじみだ。
白崎さんを見ると、顔を真っ赤にしてフリーズしていた。俺の感覚が麻痺していたけど、これが普通の反応ってやつだよな。
とりあえず彩乃に釘を刺しつつ、残りのお肉を焼いていこう。肉はまだまだ残ってる。バーベキューはまだこれからだ!
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