第54話 海でのトラブルが多すぎるのですが?

 海からあがり、白崎さんと二人でパラソルまで帰ってくる。

 白崎さんの水着を持って行きかけたあのアホガニとは、あの後壮絶な鬼ごっこを繰り広げてなんとか水着を奪還した。なので、現在白崎さんはちゃんと水着を着た状態だ。

 人混みを避けて自分たちの場所へ。そこでは志乃さんと彩乃が並んでたこ焼きを頬張っていた。海の家なら焼きそばとかのイメージがあったけど、そうか。今時はたこ焼きもありなのか。

 俺たちも並んで座り、くつろぐ。泳ぎ疲れて横になった俺に、白崎さんから労いの言葉がかけられた。


「ありがとう翔馬くん。水着探してきてくれて」

「まあね。気にしないで」


 ふっ、白崎さんの笑顔のためならお安いぜ。ただまぁね、あのカニ無駄に速くて追いつくのに苦労したからかなり疲れた……。


「翔馬くん疲れてる? 私、なにか飲み物でも買ってこようか?」

「え、お願いできる?」

「うん。何を買ってこようか?」


 や、優しい……! なら、ここは好意に甘えて飲み物を買ってきてもらおう。なにをお願いしようかな? ここは、定番のメロンソーダでもお願いしようかな。


「じゃあ、メロンソーダを買ってきてくれる?」

「うん! 任せて」

「ごめんね沙耶香ちゃん、私にも同じのお願いできる? はいこれお金」


 志乃さんからお金を受け取った白崎さんがジュースを買いに海の家へ。すると、白崎さんが離れた途端に彩乃が話しかけてきた。


「翔くん、お疲れだけどなにかあったの?」

「水着泥棒のカニと鬼ごっこした」

「えっ!? 翔くんの水着を……!」

「俺じゃねぇ白崎さんのな。だから泳ぎ疲れたんだよ。カニに泳いで追いつくなんてやるもんじゃねぇよ」


 プロのスイマーでもない限りそういうのは単なる自殺行為だぜ。白崎さん以外には絶対やらない。

 しばらく、砂浜で寝転んで熱い日差しに肌を晒していたが、やがてふと思った。白崎さん、やけに帰り遅くね?

 そりゃまぁこの時期の海の家は繁盛してるし並んでるってのもあるかもだけど、それを踏まえても遅すぎる。なにかあったのだろうか?

 なんか急に心配になってきたな。ちょっと様子でも見に行くこととしよう。


「あれ? 翔くんどこかに行くの?」

「ああ。白崎さんの帰りが遅いから様子を見に」

「え、いいんじゃない? ほら、お母さんと翔くんと白崎の三人分のジュースだから持ち運びが大変なんだよ」

「なおさら手伝わないとダメだろう」


 妙に足止めしてくる彩乃を不審に思いながらも、俺は海の家へと歩き出す。

 そして、やって来た海の家で白崎さんが遅かった理由が判明した。どこの海にもこういう輩はいるもんだな。


「なぁなぁ君。俺と遊ぼうぜぇ~」

「私、今は友達と来てるので……」

「彼氏じゃないんでしょ~? なら、少しくらい大丈夫だって~」


 三人分のジュースが載ったトレイを持っているので自由に動けない白崎さんの肩に手を置いてナンパしているチャラそうな男。正直、こういうの嫌いなんだよな。てか、見過ごせないよな。

 男の手は、今にも白崎さんの水着の内側へと入りそうだった。少し、涙ぐんでいる白崎さんの瞳を見て、たまらず飛び出す。男の手を白崎さんから引き剥がし、悪いとは思いつつも彼女を抱き寄せる。


「この子、俺の友達なんでやめてもらえますか」

「はぁ? 何なの君? 俺は今彼女とお話ししてるんだからさぁ~」

「嫌がってるように見えましたが? あまりしつこいと警察呼びますよ」

「は? ……ったくよぉ、うるせえなぁ!」


 何が気に障ったのか、いきなり男が殴りかかってくる。突然のことだったので、避けることが出来ずにもろに拳を受けてしまった。白崎さんの口から声にならない悲鳴が聞こえる。


「ガキが調子乗るな! 黙って……」


 もう一度拳が飛んでくる。が、それが俺に届くことはなかった。

 俺と男の間に人影が割り込む。彼女は、伸ばされた男の腕を掴んで勢いそのままに前方へと放り捨てた。派手に体を打ち付け、大量の砂を被って男が気絶する。


「青山さん!?」

「彩乃……?」

「心配できてみたらこういうこと……。翔くん、白崎、大丈夫?」


 彩乃に助けられたな。まさか、男がここまで短気だとは思ってもみなかった。ここは素直にお礼を言っておこう。

 騒ぎを聞いた海の家の人とライフセーバーさんが駆けつけてくれる。ただ、近くに交番があるからと彩乃はそのまま男を引きずって行ってしまった。あれ、途中で襲われたりとかしないか心配だ。

 一緒に行きたかったが、頬を殴られたことの簡易治療として事務所に連れて行かれる。志乃さんには白崎さんが伝えてくれるらしい。

 ……正直、これって結構役得ではと思ってしまった。白崎さんのピンチに颯爽と駆けつける俺! ラブコメならこれでヒロイン攻略でしょ。

 でも、現実はそこまで甘くない。あーあ、少しでもこれで惚れてくれたら嬉しいんだけどなぁー。

 なんて、考えながら事務所の人に袋詰めの氷をもらう俺であったとさ。

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