第51話 白崎さんと旅行なのですが?
海辺で走る夢を見た。水着姿の白崎さんと一緒に、波が打ち寄せる浜辺をキャッキャウフフと走り回って――
「――起っきろー!!」
体に走る凄まじい衝撃。腹部が強烈に圧迫され、思わず吐きそうになってしまう。
せっかくの楽しい夢から半強制的に覚醒させられ、軽い怒りに身を焼いていると、不意に体が軽くなった。見上げると、志乃さんが彩乃の首根っこを掴んでぶら下げている。
「こら彩乃! 危ないでしょ!」
「うっ、翔くんごめん……」
珍しく素直に謝られる。まぁ、あれは下手したら普通に死ぬからな。よい子はまねしちゃダメだぞ。
さて、朝か。今日から旅行の我が家は、早起きをせねば。いつもは高速バスだけど、今年は専務さんが車を出してくれるとか。その分、いつもよりはゆっくり眠れたかな?
ベッドから抜け出し、カーテンを勢いよく引くと眩い太陽の輝きが――入ってくることなく、月の輝きが瞳に映える。お空は真っ暗。
……どことなく修学旅行の時みたいだ。暗いうちに叩き起こされるのは。
「……またか」
「はいはい翔くん、着替えて! もうすぐ専務さん来ちゃうから!」
早いな。遠くに移動するとみたぞ。
彩乃を部屋から出して着替え、一階へ。珍しく親父とおかんも起きていて、バカンス用の服を着ていた。沖縄で買ったやつだが、正直場違い感がはんぱねぇ。
とりあえず、菓子パンを口に放り込んでからスマホを弄る。ソシャゲのログボだけはもらっておくとしよう。
すべてのゲームにログインした頃、表で車が停まる音がした。どうやら来たらしい。
荷物を持って外に。そこには、見たことないような大型車が停まっていた。これ、絶対に特注品ってやつだろ。街中でも企業の宣伝でも見たことないし。
運転席の窓が開いて、いかにもハワイアンな服装の男性が挨拶をしてくれる。というか、なぜにこの人はアロハシャツなんて着ているんだ?
「おはようみんな。っと、君たちが翔馬くんと彩乃ちゃんだね。いつも蒼一くんと新一くんから話は聞いてるよ。娘と仲良くしてくれてありがとう」
「あ、いえ」
「こちらこそ」
ほんと、誰だろう? 仲良くしてるっけ?
親父が専務さんにお礼を言ってる。
「白崎さん、お誘いありがとうございますね」
おい。今、なんと?
隣では、彩乃がアホみたいに口を半開きにしている。多分、俺もアホみたいに口を半開きにしている。
三列ある座席のうち、一番後ろの座席側の窓が開いた。透き通る細い銀の糸みたいな髪は、月明かりのなかでも美しい。
「おはよう翔馬くん。あと、青山さん」
朝の挨拶をしてくれる。というか、本当に驚いた。まさか、白崎さんのお父さんが親父たちの会社の専務さんとはね。
ドアを開けてくれた。手招きで中に入れてくれる。
「ほら、乗って。青山さんも」
「うん、ありがとう」
「……ありがと」
なんでそんなに不機嫌そうなんだこいつは。楽しいだろうに。
俺たちが乗ったら出発だ。いざ、海辺の白崎さん家の別荘へ! そんなの持ってるとか、白崎さんってほんとお嬢様だよな。
道中、白崎さんの両親とも会話する。
「今日は俺も楽しみにしてたんだよ。来てくれてありがとうな」
「私もこの人も楽しみだったけど、一番は沙耶香よね」
「だな。行くって決まってからは、落ち着きなく動き回ってたもんな。水着も勝負だとかなんとか……」
「~~ッ!! お父さんお母さん! そのことは言わないで!!」
か、かわええぇ。普段見られない白崎さんの姿もそうだけど、そこまで楽しみにしてくれてたんだ……。感激で涙出そう。
……水着、気になるなぁ。男の子だし分かるだろ?
それに、これから数日……白崎さんと……お泊まり……。
「……あれ? 翔くん、もしかして眠い?」
ああ。彩乃の指摘通り、ちょっと眠い……。
「はは。目的地までは長いからゆっくりするといいよ。サービスエリアに着いたら起こしてあげるよ」
白崎さんのお父さんにも言われたから、ちょっと目を閉じる。が、ここで茶化すのが親父……かと思ってたのに蒼一さんだった。
「ハーレムいいねぇ。その体勢は辛いだろう? 彩乃、膝枕してあげたら?」
「いやいや蒼一くん。いくら幼なじみでも彩乃ちゃんにそれは……」
「分かった!」
「あれ!?」
思いっきり白崎さんのお父さんが驚いているが、こいつはこれが通常運転です。この前なんていつの間にか膝枕されてて、しかも顔の向きが言えないような方向にされてたし。
頭が優しく包まれ、横に倒される。……彩乃の手って、こんなに優しかったか? 眠気が限界だからそう感じてるだけか。
夢へと旅立つ途中、うっすらと会話が聞こえてくる。
「白崎……た、何し……の?」
「……膝枕してあげて……い……ゃない?」
「ご冗談を。ほら、……んを返して」
「私の……がきっと気持ちいい……」
「言うように……たわねあんた……それは私の……よ!」
なんか、体が引っ張られてる。でも、心地よい香りに包まれてちょうどいい揺れだから目覚めるどころかさらに眠気を誘発するぅ。
心地よく眠れます。おやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます