第50話 旅行の話が進んでいたのですが?
俺と駿太と天音の三人でカラオケに行ってきた。彩乃と白崎さんも誘ったのだが、二人とも用事があるとかで来れなかったのだ。残念。あ、彰は補習受けてること知ってるからはなから誘ってない。
それにしても……白崎さんはともかく彩乃が来なかったのは珍しいな。あいつのことだから用事放り出してくるかと思った。
さて、陽も傾いてきてるし今日はさよならだ。学校近くで二人と別れ、一人家に帰る。道中、ふと駿太たちとの会話を思い出した。
「駿太は九州、天音は沖縄かぁ……いいなぁ。今年はうち、どこ行くんだろう?」
毎年恒例夏休みの旅行。数ヶ月前に北海道旅行したばかりだが、まあいいじゃん。楽しいし。
てか、いまだに何の話も聞かないな。もしかして、今年はずっと家にいるのかな?
なんて、考えていると家に着いた。玄関を開けて中に入る。
「ただいま-」
「おかえりー」
出迎えてくれる彩乃の声に顔を上げ、そっと家の外に出て扉を閉める。ん? どゆこと?
なんか今、水着姿で肩組んで馬鹿みたいに踊っている親父と志乃さんと彩乃が見えた気がする。
もう一度中を確認してみる。やはり変わらなかった。馬鹿三人組が騒いでいる。
もしかしたら、家を間違えたのかな? ほら、この辺りって似たような家が多いから。GPSで確認っと……合ってた。
え、何してるんだろう? 毒キノコでも食べたのか?
いろいろ考えていると、玄関が開いた。蒼一さんが手招きしている。
「変なものは食べてないから安心して。話があるんだ」
おっと、思考を読まれた。たまに蒼一さんは考えを当ててくるからすごいんだよなぁ。って、それより気になる!
「変なもの食べてないのにこれ!? どういうこと!?」
「三人とも明日からの旅行で浮かれてるんだよ。気が早いんだから……」
「明日から旅行!?」
初耳! 聞いてないけど!?
「あれ? 彩乃から聞いてない?」
「聞いてない! あんにゃろ!」
理由は知らないが黙ってやがったな! 俺、まだなんの準備も出来てない!
とりあえず、踊っている彩乃を引っ張ってきて事情を説明させねば。
「おい。旅行のこと一言も言わなかったな?」
「だって、今年は海だよ! この水着でサプラーイズってね。どう? 感想」
「どう? じゃねぇんだよな。やってくれたな!」
去年の水着とか着れるかな? てか、海ってことは遠いのか?
考える俺に、親父が説明する。
「今年は遠出するぞ。穴場スポットで別荘に数日のお泊まりだ!」
「なんで!? いつも一泊二日だろ!? てか、別荘!?」
そんなのもってたか? いろいろ情報が多すぎてもうパニックになりそうだ。
このことは彩乃も知らなかったらしい。奇怪な踊りをやめて訊いている。
「いやな、今年の旅行計画を蒼一と話してたら専務に声かけられて。そんで誘われたんだよ」
「あれはびっくりだったな。てか、僕たち六人と専務の家族で使ってもまだ部屋があるってんだからすごいよ」
「娘さんが、翔馬たちのことを聞いてぜひ一緒に、だってさ。この色男~」
うわ、うぜぇ。変な声出しながら頬スリスリするな。剃った髭が地味にチクチクして痛いんだよ。
……でも、娘さんが俺たちの話を聞いて一緒に行きたい? 知り合いか何かか?
そこんところ気になるが、それより準備だ。このままだと俺だけ置いていかれてしまう……!
慌てて部屋に駆け上る。まずは、タンスの奥から去年の水着を引っ張り出してきて、数日分の着替えを用意して、移動中に食べるおやつを用意して……。
部屋に戻る。ベッドの上に置かれている鞄に気がついた。
「……まさかな」
一応、中身を確認してみるか。
鞄を開けると、まず見えたのが見たことない水着。猛烈に嫌な予感がしたので着替えてみる。ピッタリだった。
水着の下には、俺の着替えがぎっしりと詰まっている。その近くには、個包装されたお菓子がたくさん詰められていた。
まぁ、簡単に言うと旅行セットは揃っていた。誰がやったかなんて分かるだろう。
彩乃に文句とありがとうを伝えに行こうかと思い、振り返る。スマホを構えた彩乃と目が合った。
「あ、ばれた」
「スマホよこせ。録画は削除だ」
彩乃からスマホを取り上げ、着替えの盗撮を削除する。ついでに、人の寝顔なんかも撮ってたのでそれらも削除。ありがとうの代わりに拳骨をくれてやる。
涙目で抗議してくるが知らん。お前が悪い。
ま、それはさておきだ。
「ところで彩乃。お前、専務の娘さんって心当たりある?」
「委員長じゃないの? 委員長のお母さんって法務省の偉い人だよ。どうしてうちと旅行に行くなんて言い出したか知らないけど」
「一般企業に勤める親父たちとなんの接点もないな。とりあえず、委員長じゃなくて彩乃でも分からないってことは分かった」
階下から夕飯の準備が出来たと声がかかる。しゃあない、行くか。
その後、夕飯を食べて風呂に入る。明日は早いとのことなので、そのまま部家に帰って眠ることにした。
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