第49話 夏休みにはいるのですが?

「じゃあ、成績表を渡していくぞ~」


 修学旅行が終わり、苦難の中間、及び期末テストを乗り越えた俺たちは、一学期最後の日を迎えた。

 その間、白崎さんとは……なにもなかった!


 いや、ね? 一緒に遊びに行くとか関係は前となにも変わらなかったよ。ただ、お互いにどこか遠慮したような瞬間があったのも事実だし。

 そんなわけで、終業式を終えた。今は、HRの時間を使って成績表を返してもらっている。


「ぎゃああああぁぁぁぁっ!!」


 彰の悲鳴が聞こえる。赤点でもあったんだな……あいつ、期末でいくつか赤点取ってたし。数Ⅱなんて2点だぞ。なんだよ2点って。

 ちなみに、俺は赤点など取ってない。赤点だと七月いっぱい補習だ。そんなのごめんだね。


「翔くん、成績どうだった?」


 右隣の窓際の席から身を乗り出すように彩乃が訊いてくる。余談ではあるが、一学期の席替えは奇跡の連続だった。

 俺を真ん中に、左と右を常に彩乃と白崎さんが埋めていた。田中先生も何度か確認して、目を疑ったらしい。


「赤点はないよ。補習は受けなくて大丈夫」

「よかった~。私は不安だな」

「いや、絶対ないだろ」


 全教科8割越えがなにをほざくか。あれか、いやみなのか。


「ねえ、見せてよ~」

「帰ったらな。それより、もうすぐ呼ばれるぞ」

「あっ、じゃあ行ってくる」


 呼ばれる前に教卓付近で待機するため、彩乃が歩いて行く。背筋を伸ばしてゆっくりしていると、今度は右隣から白崎さんが声を掛けてきた。


「翔馬くん、赤点取っちゃった?」

「いや? どうして?」

「さっき、堀越くんが崩れ落ちたときの顔が気になって……」

「ああ、哀悼の意を表しますってね」


 そう言って、二人でくすくすと笑い合う。やっぱり、白崎さんの笑顔はとても眩しいな。あれを気にせず普通に接してくれて、ちょっと嬉しい。

 ……でも、やはり気になる。あれからかなり時間が経ったし、白崎さん、好きな人と付き合ってるのかな? てか、そんな話聞かないけど誰なんだろう?


「――くん、翔馬くん」

「え? あ! ごめん」

「ううん。急にボーッとするから驚いちゃった」

「ほんと、ごめんね」

「いいよ。でね、その、夏休み……」


 白崎さんがなにか言いかけたその時、彩乃が帰ってくる。


「翔くーん! どどど、どうしよう!」


 なんか、すごい慌ててる。え、まさか……?


「クラス順位3番だよ~、どうしよう!」

「うるせぇ! こちとら19位だ文句あるか、ああ!?」


 こいつ、俺を煽ってきやがった……! なんかイラッとくるわ~。

 あと、クラス連中の皆さんよぉ……聞こえてるからな? 誰が言ったかまでは知らないけど、夫婦げんかとか言った奴。とりあえずしばくから名乗り出ろ。

 全員の成績表が返ってくると、最後に休み期間中の注意について長々と話される。が、我らが田中先生の人気の理由はここにもあった。


「えー、夏休みの注意ねぇ……配布したプリントに書いてあるからいいよな。勉強や部活、思い出作りに励むように。来年は受験で忙しいから楽しめよ~。補習参加者は忘れないように。はい、下校」


 終わり。他のクラスはいろいろ話してるが、俺たちは帰れる。ひゃっほい!

 今日は彩乃が図書室の司書さんに呼ばれて用事があるため、帰るのは一人だ。鞄を背負い、教室を出ようとする。


「ま、待って!」


 白崎さんに呼び止められた。何事かと思い、思わず立ち止まる。


「翔馬くん、夏休みって予定ある?」

「あー、うん。でも、白崎さんとの予定なら優先するよ」

「そう? じゃあ、また連絡してもいいかな?」

「もちろん! 深夜2時頃までなら起きてると思うし」

「私が眠っているよ」


 そんな冗談めいた話をして、白崎さんと別れる。夏休みの楽しみがまた増えたぜ!

 さて、まぁ、七月は忙しいというか家にいないけどね。なぜかって?

 毎年我が家と青山家恒例、旅行だからだ!

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