第48話 好きな人を助けたいのですが?
運命ってあると思う? 私はあると思う。
GWにショッピングモールで出会った彼。すごくかっこよくて優しそうで……一目惚れだった。
今まで何人も男と付き合ってきた。体も何度も重ねた。でも、私を満たしてはくれなかった。
けど、彼は見ているだけで私を満たしてくれた。きっと私は、彼と一緒に生きるために生まれてきたんだ。彼を幸せにするためだけに生きてるんだ。
でも、彼の横にいたあいつ。やっぱり、あそこまでかっこいい人だと彼女もいるんだって悲しくなった。まあ、そんなの諦める理由にならないけど。
でもまさか、修学旅行で再会するなんて! これはきっと運命なのよ!
修学旅行を終え、私は家に帰ってくる。誰もいないアパートの一室の鍵を開け、誰もいない部屋に――違う。いなかった部屋に「ただいま」と言う。
以前は、この言葉が嫌いだった。だって、ひとりぼっちだって自覚させられるもん。
何が悪いのか、お母さんは自殺、お父さんは女作って出ていっちゃった。お父さんがアパートの家賃と最低限の生活費、お母さんのお母さん――つまりはお婆ちゃんがたまにくれるお小遣いとバイト代があるから生活には困ってないけど。
でも、普通こんな可愛い娘を残して自殺なんてする? 小学校の時に問題を起こしすぎたって皆は言うけど、ちょっとムカついた人の骨を折ったくらいじゃん。死んだわけじゃないんだしいいじゃんか。
おっと、話が脱線してる。まあ、つまり、私は一人だった。気づいた? あえて過去形にしたの。
だってね……。
「ふふっ。ただいま……翔馬くん」
部屋の明かりをつける。嗚呼、なんて幸せなんだろう。
壁一面、天井いっぱいの翔馬くんの写真が私の帰りを出迎えてくれる。これ以上の幸福なんてあるかなぁ?
本当は床にも貼りたいけど、翔馬くんの顔を踏むようでとてもじゃないけど出来なかった。代わりに別の写真を貼ってるけど。
荷物をおろして制服を脱ぐ。それから、下着もすべて脱いでベッドに飛び込む。
翔馬くんの身長と同じサイズの抱き枕。顔にはもちろん翔馬くんの写真を張り付けていて、それを力一杯抱き締める。
「疲れたよ~。慰めて~」
ちょっとした仕掛けをした抱き枕を抱き締めていると、ダメだ。濡れてきちゃう。
これ以上はおかしくなりそう。さっさとお風呂に浸からないと。
湯船にお湯を溜めてないから、今日はシャワーだけだ。防水加工した翔馬くんの視線が全方位から私を見てくる。少し、恥ずかしいな。
それにしても、我ながらすごいと思う。一目惚れから数日でこれだけの写真を集めたんだもん。二千枚くらいあったはず。
シャワーを止めて、浴室で一番目立つ壁に貼った写真を眺める。翔馬くんがお風呂に入って気持ち良さそうな顔をしている。ほんと、これが私の最高の癒しだなぁ~。
お風呂から上がってスマホを見る。無料通話アプリには、やっぱり翔馬くんからの着信はない。それもこれも……。
「全部、あの二人が悪いんだ……」
翔馬くんを誑かすあの二人が悪いんだ。白髪の女と黒髪の女。
私は、告白に失敗したらいつでも連絡ちょうだいって確かに言った。そして、失敗したって確かに聞いた。
でも、あの後黒髪の女に頬を叩かれた。あのストーカー……許さない。
翔馬くんを独占するストーカーに、翔馬くんを傷つけた白髪。ホント、ムカつく。
さっき話してた床の写真。あれね、あの二人の写真を貼ってるの。こいつらならいくら踏んでも罪悪感なんてないし。
でも、そろそろ外そうかな? さすがに包丁で切りすぎて足裏がチクチクする。燃やしちゃわないと。
「……違う。私は、こんなことしたいんじゃない」
そうよ。私、こんなことがしたいんじゃないのに。
写真なんかじゃなくて、生身を切り刻みたい。燃やして、翔馬くんに悪魔の悲鳴を聞かせてあげたい。翔馬くんを悪魔から解放してあげたい。一生私のものにしてあげたい。
幸い、全員の家は知っている。だから、いつでも殺れる。でも、やるなら翔馬くんの前で徹底的に、ね。
「うふふ。きっと、翔馬くん泣いて喜んでくれる。その後はこの部屋に案内して、翔馬くんのために一生尽くして、監禁して、危ない外の世界からも守ってあげて……」
嗚呼、妄想が止まらない。幸せな未来しか見えない。
「子供は十人くらい欲しいな。大丈夫。全員絶対に可愛いしカッコいいから。お金なら、私が外で稼いでくるから。翔馬くんはここに一生いてくれたらいいから……!」
でも、もし、もし万が一翔馬くんが嫌だって言ったら……。
「それでもいい。その時は、神経を潰して動けなくするだけだから。私抜きじゃ生きられない体にしてあげる……」
嗚呼、なんて素晴らしいの。いいわ、これ、いいわ!
そうと決まれば、まずは資金を用意しないと。翔馬くんと子供を養うためのお金を少しでも貯めないとね。バイト増やさなきゃ。
悪魔を殺すのは、その後でじっくりと……殺ってあげる……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます