第44話 失敗はすごく落ち込むのですが?
終わった。何もかもが終わった。今まで、応援ありがとうございました。
俺は、ミルクキャラメルを口に放り込む。これ、甘いはずなんだけどなー……特に味を感じない。甘い煎餅を水でふやけさせたような味だ……。
空港の手荷物検査を終え、飛行機が到着するまで自由時間となる。俺は、少し一人になりたくて班のみんなに言ってお土産を買いに行った。
ただ、ひたすらに悲しかった。傲慢だけど、少しだけ、自信があったんだ。
どこの誰とも知れない男には負けない。どうしてだろう? そう、思い込んでしまったのは。
結局、白崎さんはその誰かを選んだ。それだけ、その人の存在が白崎さんの中で大きかったんだ。そこに、俺が入り込む隙なんてなかっただけ。
分かっていた。……いや、違う。分かっているつもりになっていた。だから、こうして拒否された時にこうも落ち込むんだ。
チラと一目白崎さんを見る。白崎さんも俺の視線に気づいたようで、視線が交錯するがそれも一瞬。すぐに気まずそうに目を逸らされてしまった。
もう、ずっとこんな調子だ。以前のように普通に接することも叶わない。それに、それだけじゃない。昨日から少し、みんなもおかしな空気になっていた。
彩乃は、無性に俺に優しくしてくれる。傷心旅行を提案してきたときはさすがに驚いたけど。でも、今はこの優しさが身に沁みる。
白崎さんは、さっき言ったとおりだ。お互いに話がしづらく、気まずい。
駿太は、なぜか俺以上に複雑な顔をしていた。本人曰く、「僕の責任だから……」とのことらしい。よく分からん。
天音は、険しい表情を崩すことがない。まるで、誰かへの怒りと困惑が入り交じったような顔だ。
……俺が悪いよな。俺が、勝手に告白なんてしたから……。
「――よぉっ! いつまでへこんでるんだよ!」
彰が、肩を強く叩いてくれる。こいつだけは、以前と変わらずに接してくれた。彩乃の優しさよりも、駿太たちの気遣いよりも、彰の行動と態度が俺にとってはなによりありがたい。
「そりゃあ、へこむさ」
「お前には不釣り合いだってことだよ! でも、ありがとな。お前が爆死したおかげで、俺が恥かかずにすんだわ」
普通の人が聞いたらキレるかもしれない彰の物言い。でも、これが俺たちのいつも。変わらない会話ってやつだ。
とりあえず、お返しとして肩を何回か叩き返して笑い合う。いつか、こんな風にみんなで笑い合えるといいんだけど。
彰が去っていく。俺も、少しは気が紛れたからお土産を見て回ろう。
手近な店に入る。適当にクッキーなんかを見ていると、声がかけられた。
「こーんにーちはっ」
「あっ、歩美さん」
何かと縁がある女の子、歩美さんだった。正直、俺、この子苦手なんだよねー……。
歩美さんは、変わらずちょっと恐い笑顔で話してくる。
「それで、どうでした? 告白」
「あー、うん。振られたよ」
「そう、ですか。それは残念です……」
悲しげな瞳をして俯く。そして、俺を優しく抱擁して背中を撫でてきた。
「辛かったですよね。苦しいですよね。……大丈夫。すぐ、あの女なんて忘れますから」
「な、なにを……?」
「飛行機まで、まだ、時間ありますよね? あっちに行きませんか? 誰もいない場所知ってるんで、シてもいいですから」
「ちょっ!? なにを!?」
「無理しないで。私に何もかもぶつけてください。何されても、君なら許せるから。ゴムなんていらない……ナマでいいから……」
そう、言った歩美さんは俺の頬に手を添える。そのままの流れで顔が近づいていき、歩美さんの吐息が感じられるくらいまで距離が縮まって……、
「何してるの!」
乾いた音が鳴った。
歩美さんが頬を押さえ、一歩下がって怨みが込められた目でビンタした相手を睨む。
「あ、彩乃!」
「翔くんから離れて! このビッチ!」
「……はぁ? あなた誰? 私と翔馬くんの邪魔しないでくれる?」
睨み合う彩乃と歩美さん。無限とも、短いともとれる果てしない無言の攻防が続く。
しばらくして、歩美さんが少し離れた。
「もう、時間か。……またね、翔馬くん」
「うるさい! もう翔くんに関わらないで!」
「うるさいなぁ。じゃあね、ストーカーさん」
歩美さんが離れていき、今度は彩乃が俺に詰め寄ってくる。
「翔くんもダメ! ちゃんと抵抗しないと! あんな悪い虫がくるんだからね!」
「あ、あぁ。気を付けるよ」
彩乃に助けられた……のか? どうも、正常な判断が困難になっているらしい。
彩乃と二人で待合所に戻る。時間一杯移動していた。お土産は買えなかったけど。
帰りの飛行機が到着した。田中先生の指示のもと、全員が乗り込んでいく。
さよなら北海道。いろいろあった修学旅行は、もう終わりに近づいていた。
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