第40話 白崎さんと雪上を滑るのですが?
軽く一時間は講習を受け、それが終わるといよいよ本格的に滑り始める。
最初は慣れない雪上での移動で何度も転んだ。だが、それもすぐにコツを掴んで転ばなくなる。俺って割とすぐに慣れるんだな。
簡単なチェックを受け、インストラクターさんに合格をいただいた。コース内であれば自由に滑ってもいいらしい。
よっしゃ! 早速いこう!
そう考え、勢いよく滑り始めようと……、
「すいません! どいてくださーい!」
後ろから誰かに激突された。冗談抜きで痛い。俺と誰かが斜面を転がった。
畜生、スキー場に流れる音楽が見事にマッチしているのもムカつく。あれだよ。melonが流れてやがった。
「もうこれ以上傷つくことなどないだろう? そんなに何度も激突されてたまるか」
文句を言いながらギリッギリスキー板の刃を雪に刺して停止。ぶつかってきた人を起こしてあげる。
「大丈夫ですか?」
「はい、なんとか……あれ? 翔馬くん!?」
「ん? え、白崎さん!?」
なんと、ぶつかってきたのは白崎さんだった。スキーウェアを着ていたせいで本当に分からなかった。
「本当にごめんね! 私、また……」
「気にしないで。てか、白崎さんってスキー上手なんだと思っていたよ」
「実はあんまりなんだ。翔馬くんは?」
「どちらかというと滑れるほうかな?」
まあ、初心者に変わりないが。
だが、白崎さんはキラキラした目で俺を見てくる。そんな目で見られると、なんだか照れるな。
……ぶつかられたことを縁というのはおかしいかもしれないが、ここは積極的に! 聞きたいこともあるから、ちょうどいいかもしれない。
「ねぇ白崎さん。もし嫌じゃなければ一緒に滑らない?」
「え? 私と滑ってくれるの?」
「どうかな?」
「嬉しい……もちろん!」
白崎さんの許可を得た! これで、二人で滑れる。
白崎さんが横に立つ。が、そのフォームはやはりどこか不恰好だ。上手くバランスを取れないのか、足が小刻みに震えていた。
「白崎さん、ちょっと失礼するよ」
「え? あ、うん!」
「この足の角度はこうして……ここら辺に力をいれてみて」
「こう? ……あっ、立てた!」
無事、綺麗に立つことができた白崎さん。良かった、安心だ。
さて、ではいよいよ行こうか。二人で急斜面に移動し、思いっきり滑り出す。
人がいない所を狙い、ブレーキなどかけずに一気に滑る。音の様子からして、白崎さんも付いてこれているようだった。少し教えるとここまで変わるとは、本当にすごいなぁ。
風になれたのも一瞬で、すぐに頂上行きのロープウェイ乗り場まで着いてしまった。楽しい時間は、本当に一瞬なんだよな。
「翔馬くん速いね! 経験者?」
「初心者だよ。でも、白崎さんも速いじゃん」
「翔馬くんに追い付きたくて」
二人で笑って列に並ぶ。ロープウェイ、二つくらい作ればいいのに。
やがて、俺たちの順番が回ってきた。白崎さんと隣同士に並んで頂上に戻っていく。
「あっ、見て翔馬くん! 狐さんがいる!」
「ほんとだ。スキー場にはいないと思ってた」
「私も! すごいね!」
雪山の壮大な自然が眼下を流れていく。
……今しか、ないよな。白崎さんに聞きたいこと、確認したいことがある。
自然を見て興奮している白崎さんには悪いけど、ここはハッキリさせたい。
「あのさ、白崎さん!」
「うん? どうしたの?」
「えと、その、……と、友だちの話なんだけど!」
はいやった俺のバーカ! 友だちの話とかそんな古臭いものが通じるか! でもまぁ、このノリで話す。
「実はさ、その友だちには好きな人がいるらしいんだ」
「……うん。それで?」
「その友だちが好きな人はさ、どうも、誰かを好きらしいんだよ」
「うっ、……うん」
あれ? 今、白崎さんの声が少しおかしかったような。
ふと横を見て気がついた。白崎さんが涙目になってしまっていた。え、なんで!?
「ど、どうしたの!?」
「大丈夫。目にゴミが入っただけ……」
ゴーグル越しに? あり得ないだろうに。
でも、ここでそれを言うのは無粋だ。あえて流そう。
「それでさ、友だちはその子への想いを断ち切るために告白しようとしてるらしいんだよ」
「へ、へぇー……」
「それ、大丈夫だと思うかな? ずっと好きだったらしいから、振られたときのショックは相当なものだと思うけど……」
白崎さんは、真剣に俺の話を聞いてくれた。それから、慈愛に満ちた目で俺を見つめ、手を重ねてくれる。
「大丈夫だよ。その友だちに伝えてあげて。その人が好きなのは、きっと君だよって」
白崎さん……感謝!
なら、今夜の告白は予定どおり行う! だから……ちょっと待った。白崎さん……今、なんて?
え、これ、どう反応したらいいの? もしかして、白崎さんはお約束のお友達ネタを知らない? それとも、知ってて言ってる?
モヤモヤした気分のまま、ロープウェイが頂上に着いた。俺と白崎さんが無言で降りる。
ちょうどお昼の時間だったので、一度山を降りて昼食をとることになった。麓で、カレーが振る舞われるらしい。
だが、俺はカレーを食べても味をあまり感じなかった。脳が混乱しているのだから、仕方ないっちゃ仕方ない。
その後、俺が混乱したまま午後のスキーの時間へと突入するのだった。
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