第39話 スキーを始めるのですが?
夕食を終え、ホテルに移動し、何事もなく夜は過ぎた。
そして迎えた、運命の日。修学旅行三日目。
今晩、俺は白崎さんに告白する。一世一代の大勝負だ。高校受験よりも緊張している。
だが、その前に午前の活動だ。これから俺は、国際スキー場でスキーを楽しんでくるのだ。部屋でスキーウェアに着替えてバスに乗り込む。
……暑いな。え、待って? 本当に暑い。首筋に感じる風はバスのクーラーだとは思うけど、全然関係ない。背中から汗が流れ出す。
と、とりあえず座ろうか。俺は、クーラー真下の席を確保する。
「翔くーん! 暑いよー!」
同じくスキーウェアの彩乃がバスに乗り込んできて、俺に向かって飛び付き抱きついてくる。ちょ、馬鹿! 離れろ! 暑いに暑いを掛けてどうする!
五月の北海道で熱中症により病院に搬送されました。うん、まっっったく笑えねぇ。
「こら、離れろ彩乃!」
「え~、軽いスキンシップじゃーん」
「軽くてもこの状況だと余裕で死ぬの!」
彩乃を横の席に座らせる。スキンシップを主張するなら、最低限これくらいの距離は守れ。
ふと窓の外を見る。すると、分かりやすい女子が見えた。
白を基調としつつも、青いラインが入ったスキーウェア。一目で白崎さんだと分かる。
白崎さんも俺に気づいたようだ。控えめに手を振ってくれている。俺もそれに応え、手を振り返した。
白崎さんもこのバスに乗ろうとしている。近くの席だといいな。
「はい、バス満員なので二号車に移ってくださーい」
……直前で定員オーバー。ついてねぇ……。
仕方なく視線を前に戻す。横から彩乃が頬をつついてきた。
「外に何かあるの?」
「外のほうが涼しいのかなって思ってな」
「なーるほど。でも、確かに中は暑いね~」
彩乃がウェアの前を開けて風を送り込んでいる。動きに合わせて熱気が俺の体に当たるものだから、よほど蒸れていたのだろう。
何気に彩乃のほうを見て、すぐにさっと視線を窓に移した。見ちゃいけないものを見てしまった。
「なぁ彩乃? 下、どうした?」
「下? あっ、シャツしか着てないよ?」
「なんで!? 今は暑いけどスキー場は寒いぞ!?」
「大丈夫だって~」
汗で彩乃のシャツは濡れていた。その濡れたシャツは体に張り付き、肌の色を透過している。ということはもちろん、桜色のあれもうっすらと見えてしまったわけで……。
その後も風を送っていた彩乃だが、それに気づいたのだろう。悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を寄せてくる。
「なーに? もしかして興奮したの?」
「な、なんのことだかな~?」
「翔くんなら、いいよ? だって、私たちもう何度も裸なんて見せあったじゃん!」
うわっ、なんだ!? 急に温度が下がった気がするぞ?
これは、俺の冷や汗なのか、はたまたバスに乗っている男子連中の殺気なのか。どちらにしても恐ろしい。
先ほどまでは暑く感じていたバスの空気から一変、極端に冷え込んだ空気を乗せてバスが発進する。
これから一時間近くかぁ……大変だな。少し、眠るとしよう。
などと思っていると、彩乃がそっと膝枕をしてくれる。
「眠いんでしょ? ゆっくりおやすみ」
「あ、あぁ。そうさせてもらうよ」
目を閉じて休む。周囲のことに気を配らなくなれば、またしてもあの熱気に襲われた。
そのままバスに揺られ続けると、いきなり彩乃に体を揺すられる。
ふと目を開けて上体を起こし、窓の外を見る。そこには、都会ではなく雪山が広がっていた。一時間なんて、寝ていればあっという間だな。
「着いたよ翔くん」
「うん、起こしてくれてありがとう」
背伸びをしてバスを降りる。ヒヤリとした空気を全身に感じ、これからのスキーに心を踊らせる。
班が分けられる。やはり男子と女子は別で、彩乃が名残惜しそうに離れていった。ちなみに、俺と同じ班には、駿太がいる。彰はスノーボードだ。
そこから施設に移動して、スキー靴と装備を一式渡される。スキー靴なんて初めて履いたから、歩きづらいな。ボードとか付けて立っていられるかなぁ?
装備を受け取ったらロープウェイで山頂付近へ。外側のポケットにボードを預けて登っていく。
登る途中、駿太と話す。
「駿太はスキーやったことあるんだっけ?」
「うん。春休みには天音ともスキー場に行ったしね」
「マジか。いいなー」
「僕が心配なのは彰だよ。スノボできると思う?」
「……雪だるまになると思う」
二人で雪だるまになった彰を想像し、笑う。俺たちを巻き込まないようにしてほしいものだ。
山頂に着くと、ボードを持って降りる。地元じゃ絶対にあり得ないほど積もった雪に興奮する。これが北海道のスキー場!
インストラクターさんの元まで歩いていく。油断したら、滑ってしまいそうだ。
「わきゃあっ!?」
誰かが滑ったらしい。大変だな。
「翔馬危ない!」
「ん?」
駿太が警告してくれるが、少し遅かった。背後から誰かがぶつかってくる。
白っぽいウェアに青いライン。と、いうことは……。
「白崎さん、大丈夫?」
「あっ、うん。ごめんね、ありがとう」
倒れた白崎さんを引っ張り起こし、別れる。でも、大丈夫かな? 白崎さんも滑って雪だるまになってしまいそうだ。そうなったら、見分けつかないぞ……。
「翔馬ー? 揃ってるよー?」
「あっ、悪い!」
見れば、もうみんな揃っていた。迷惑をかけるわけにもいかないので、俺もインストラクターさんの元に急ぐ。
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