第37話 野郎と肉のパーティーなのですが?
白い煙が視界を遮る。肉が焼け、独特の香りが鼻腔をくすぐり、某消臭剤の香りと混ざってなんとも言えない匂いとなっている。
一階と二階に分かれた建物の一階からは、大人たちがビールジョッキを片手に談笑している様子が音で伝わってくる。騒々しいが、決して迷惑などではない、むしろ聞いてて気持ちのよい喧騒だ。
俺たちは今、札幌ビール園に来ていた。今日の夕食は、ここでジンギスカンの焼肉となっている。
机に並べられた肉、肉、肉! 野菜など目もくれずに、ジンギスカンを凝視する。
「いやっほーっ!! 宴だ宴ーっ!!」
テンション最高潮の彰が叫ぶ。気持ちは分からんでもない。
焼肉に行くと謎にテンションが上がるあれだ。やはり、机に肉が並べられているというのは全人類の憧れか。
早速席について、先生からの指示を待つ。挨拶をするのは、田中先生だ。
「集合は一時間半後な~。欲しければバスで消臭剤渡すから、申請するように~。じゃあ、肉を焼けー!」
「「「うぉーっ!!」」」
長々とした無駄話を覚悟していたが、やはり田中先生は分かってる。俺、あの人好きだわ。
熱せられた金網に肉を乗っけていき、炭酸ジュースの缶を開けて乾杯!
野菜? 何それ何語なの? の、精神でひたすら肉を焼いていき、いい感じになったものを各自の皿に取り分ける。
彰が特大のお肉を頬張り、ジュースで一気に流し込む。
「かぁー! うんめぇー!」
「おっさんかよ。落ち着いて食え」
「いいじゃんか! ほれ、翔馬も飲め飲め! 俺の酒が飲めねぇのか!」
「酒じゃなくてジュースだろ! もう少し鎮まれ!」
こいつ、割とすぐに調子に乗るなぁ……面白いけど。でも、本当の酔っぱらいみたいにめんどくさく絡んでくるのはやめてくれ。将来、大人になってもこいつとは飲み会に行かないかもな。
さて、俺もジンギスカンを楽しもう。タレに軽く浸けて、まだ熱いうちに肉を噛む。牛肉や豚肉、鶏肉とはまた違う独特な風味が広がる。これは、好き嫌いが別れるな。俺個人的には、鶏肉が好きだが。
その後、肉をあらかた焼いて仕方なく野菜にも手を付け、おかわりのお肉をお願いする。ジンギスカンは制限があるが、鶏肉は無制限らしいのでじゃんじゃん持ってこーい!
肉が焼ける網を囲む。ふと、駿太が俺の隣に移動してきた。
何だろうと思っていると、駿太が肩に手を回してくる。
「翔馬~、船での話、答え出た?」
「船での話?」
「彩乃ちゃんと紗耶香ちゃん、どっちが好きなんだって話~」
あぁ、あれか。まだ、完全には答えを出せている自信はないけど、一応の答えは用意できている。
俺は、白崎さんが……。
「恋バナか!? いいねー! 俺も交ざる!」
乱入者彰現る! なんともまぁ微妙なタイミングで登場したことで……。
炭酸ジュースをあおり、上機嫌で彰が大声を出す。
「やっぱな! 女子はいいもんだ! 誰でもいいから付き合いてぇー!」
「彰……そういうこと言うからドン引かれるんだよ……」
悪い彰、俺も駿太に同意見だ。さっき、一瞬だが女子たちから怨嗟の視線を飛ばされてたぞ。背筋がゾクッとしたもん。
「なんだと駿太! この彼女もちの勝ち組人生真っ只中の裏切り者が! 俺だって駿太や翔馬みたいに彼女ほしいんだよー!」
「ちょまっ! 俺にいつ彼女が!?」
「彩乃はもう彼女みたいなもんだろ! あれで幼なじみは無理があるぞ!」
「あっ、それは確かに」
「駿太!?」
周りからはそう見えていたのか。てか、あれくらいが幼なじみとして普通の距離だと思っていたのに。
少し驚く。が、彰が投下した爆弾発言にさらに驚かされた。
「よし決めた! 俺、勇気だして告白してくる!」
「は? 誰に?」
「白崎さんだよ! 同じ班だし、ワンチャンあるんじゃね?」
「「チッ」」
舌打ち!? 今、二人くらい舌打ちしたやついなかったか?
周囲を見渡すと、天音と視線が合った。にこやかな笑顔だが、青筋が額に浮かんでいる。
「彰……やめときなさい。あんたは紗耶香に拒絶されて終わりだから」
「はぁっ!? そんなの分から……」
「紗耶香、好きな人がいるのよ。だから絶対に無理」
「んなぁーっ!?」
がっくりと崩れ落ちる彰。が、同じくらい俺もショックだ。
白崎さん、好きな人がいるのか……。俺の恋は、ここで終わったな……。
「ねぇねぇ天音。翔馬のこの感じは絶対勘違いしてるよね」
「はぁ……アンタダッテノ……」
うるさいぞ二人とも。よく聞こえなかったが、悪口で追い討ちはやめてくれ。
うちひしがれている俺の耳元で、天音が囁く。
「あたしね、思うんだ。もういっそ、紗耶香に想いをぶつけてスッキリしちゃえば? ずっと引きずってても仕方ないでしょ?」
「ま、まぁ、確かに」
「それにさ、彰と違って翔馬はまだ可能性あるかもよ? あたし、紗耶香の好きな人知ってるけど、翔馬も近いもん」
「彰に対して失礼だけど、そんなもんか?」
「そんなもんよ」
天音が視線を合わせて、はっきりと言ってくる。
「紗耶香可愛いからさ。もたもたしてると、他の男に取られるよ?」
「うぐっ!」
それは……嫌だな。白崎さんが他の男と笑っている姿は、想像すると辛い。
よし、決めた。
「分かった。明日、告白してやるよ!!」
そう、女子席にも聞こえるほどの声で宣言してしまった。
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