第33話 油断したら事故を起こしたのですが?

 丸太コースを突破した俺たちは、次の浮かぶ台コースに移動する。ここは、さっきみたく失敗しないようにしないと。

 だが、そんな心配をする必要はなかった。さっきの丸太コースで慣れたのか、白崎さんが警戒に木の台を飛び越えていく。なんと軽やかな身のこなしか。

 俺も、白崎さんに続くように台を飛び越える。こちらも簡単だね。スッとコースを突破する。

 次の中間ポイントに二人立つと、下にカメラマンさんがやって来た。カメラを構えて手を振っている。


「写真撮るよー!」


 白崎さんがポーズを決める。顔の横でピースマークとか、俺を尊死させる気かよ。直視してると死にそうになるので目をそらそう。

 何枚か写真が撮られ、白崎さんが横に移動する。お? 俺も撮るのかな?

 下にいるカメラマンさんに向けてポーズを決める。ピースマークを思いきり突きだし、全力の笑顔で応える。


「か、格好いい……」


 ん? 誰か、何か言ったかな?

 周りを見ても白崎さんしかいない。今のはもしかして白崎さんが?

 二人で撮影を終える。すると、カメラマンさんが中々に面白い提案をしてきた。


「二人で一緒に撮っちゃいな!」


 二人一緒!?

 うーん……魅力的だけど、いいのかな?

 服の袖が引っ張られた。白崎さんが少しうつむき気味になりながらも、上目遣いで聞いてくる。


「ダメ、かな?」

「いいよ」


 即答。当たり前。

 美少女の上目遣いとは、世の男子どもを一発で落とすことのできる必殺技なのだ。

 と、いうわけで二人で写真を撮ることになった。何か、いいポーズでも決めないとな。どうしよう?

 考えていると、カメラマンさんが提案してくる。


「二人でハート形でも作るのはどうだい?」

「「ハート!?」」


 思わず声が重なってしまった。いや、恋人でもないのにそこまで大胆なポーズは……。

 おっと。白崎さんはやる気らしい。すでに腕を伸ばして準備していた。これは、良いのだろうか? うん、良いのだろう。

 俺も、腕を伸ばして白崎さんの指先に合わせる。カメラマンさんが親指を立てているから、うまい構図に収まったのだろう。

 何枚か写真を撮ってもらうと、カメラマンさんは次の人の撮影に向かった。

 撮影が終わると、どっと恥ずかしさが噴き出してくる。


「あの、その、本当にごめんね! 私、やってみたかったの……」

「いや、いいんだよ! こっちこそありがとう!」


 白崎さんとハートマーク。……ハートマークかぁ……いいものでした。

 どこか、フワフワした気持ちで次のコースを見る。次は、ロープを渡っていくあれかぁ。簡単だなぁ。

 ……なんて、思っていたのが間違いだったのかもしれない。

 先に動き始めた白崎さんの後ろで待機している。視線を横に向けると、中村先生が初心者コースのスライダーを滑っていくところだった。あの人、めちゃくちゃはっちゃけてんなー。


「きゃっ!?」


 白崎さんの声? 一体何が?

 前に視線を戻すと、白崎さんの体が宙に投げ出されようとしているところだった。安全フックは……付いてない!?

 咄嗟に体が反応した。腕を白崎さんの前に伸ばして引き戻すように力を込める。少し、胸に腕が当たってしまったが緊急事態だ。細かなことは許してほしい。

 そのまま一気に力を込めて白崎さんを引き戻す。良かった。落ちずにすん……


「翔馬くん!?」


 あっ、逆に俺がバランスを崩した……。雪解け水で滑る台から落ちる。

 簡単に落ちてたまるか! 慌てて左手を振り、コースに設置されていたロープを掴む。ちくしょう! こんなことなら俺も安全フック付けときゃよかった!

 事態に気がついたのか、スタッフの人たちがマットを用意してくれていた。でも、すいません。腕が限界です。

 左手の力が抜けて、ロープを離してしまった。まっ逆さまに地面へと落ちていく。


「いやあぁぁぁぁっ!!」


 白崎さんの悲鳴。少しは悲しんでくれて……背中に強い衝撃が走る。


「いっっってぇぇぇっ!!」


 落ちた場所は、雪がまだ残る場所だった。だが、雪により衝撃が緩和されたとはいえ、痛いものは痛い。こちとら四メートルの高さから落ちたんだぞ。

 まあ、落ちた場所はギリギリセーフだった。あと数センチずれてたら、後頭部をこの石材に強打して最悪死んでいただろうし。

 背中にひどい鈍痛が走る。だが、立てないほどではない。痛む腰を押さえながら、ふらふら立ち上がる。


「和田くん! 大丈夫ですか!?」


 中村先生が駆け寄ってくる。反対側からは、養護の先生と医療スタッフが小走りに駆けてきていた。

 あーあ。馬鹿やらかした。これ、どうしようか。

 いろんな人に迷惑かけたなと思いながら、俺はアドベンチャーパークの施設へと連れていかれた。

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