第31話 二人の様子がおかしいのですが?
昨日の夜に激戦を繰り広げた食事会場。今朝もバイキングとのことなので、またしても戦争になるかと思われたがそうでもなかった。
人間、眠気の前には牙を抜かれるものだ。平和に並んで朝食のパンやジュース、ジャムやスープをテーブルに運んでいる。
俺も、クロワッサン三つとトーストを二枚、苺とオレンジのジャムをテーブルに持ってくる。飲み物は、やはり北海道といえば牛乳でしょ!
さて、豪華なパンにパンにパン! いっただきまーす!
……って、言いたいんだけどね。
彰にしては珍しく、弱々しく聞いてくる。
「なあ翔馬。あの二人、何かあったのか?」
「さ、さぁ?」
俺たちの視線の先で、というか、ほとんどの人の視線の先には、剣呑な雰囲気の彩乃と白崎さんが座っている。二人とも、パンにジャムを塗って黙々と食べていた。間に挟まれている天音が少し可哀想だ。
あの後、一体何があったんだ? 少し、聞いてみようかな?
そう思い、立ち上がろうとする俺の耳元に天使と悪魔が現れる。
『やめときなよ。きっと、聞かないほうがいいよ』
天使が必死に止めてくる。が、そんな天使を無視して悪魔が耳元で囁く。
『やめとけ。命は大事に』
おい!? 普通、こういう場合って悪魔が行動を促すものじゃないのか!? 悪魔のお前まで止めてどうする!
でも、これはそういうことだろう。俺の第六感が本気で危険だと知らせているのだ。この件に触れてはいけないんだと。
気にはなるが、俺は意識をパンに戻す。触らぬ神になんとやらってな。
香ばしいパンに甘いジャムを塗り、新鮮な牛乳で流し込んだ俺たちは食事を終える。この後は、アドベンチャーパークでの活動のために各自部屋で着替えをするのだ。
一足先に食べ終わった俺と松永くんで、八坂くんから鍵をもらい部屋へと帰る。ふっ、できる男というものは事前に準備をしておくものなのさ。
俺のベッドの上には、整理された体操服が。朝、起きてすぐに用意しておいたのさ。
すぐに着替えて下に降りる。まだ集合には早いので、スマホでも弄って時間を潰すとしよう。
人気動画投稿サービスのアプリを開いて、最近お気に入りの実況者の放送を見る。FPSゲームを、中々に面白い縛りでプレイするスタイルが面白い。
動画を二本見終え、三本目の途中になったときに肩を叩かれた。
「翔くん早いね。翔くんは何を選んだっけ?」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら。すっかり笑顔になった彩乃がそんなことを聞いてくる。
俺は、先ほどまでのことを聞こうかと一瞬迷うが、それをやめて会話に合わせる。
「俺はアドベンチャーパークでの活動。彩乃はなんだっけ?」
「あぁーっ! 違った! 私は森林散策だよぉ……ねえ? 今から先生に言ったら変えてくれないかな?」
「ダメだろ。諦めろ」
「無慈悲なぁ……」と、その場で崩れる彩乃の頭を撫でてやり、バスへと送り出す。そろそろ、俺も移動したほうが良さそうだ。
一時集合場所に行くと、三組の先生が待っていた。アドベンチャーパークの引率はこの人みたいだ。確か、中村先生だったかな?
「早いですね和田くん。……あれ? 青山さんは一緒じゃないんですね」
「あいつは森林散策に行きましたよ。俺とあいつがいつも一緒みたいに言わないでくださいよ」
「ごめんなさいね。田中先生から、仲のいい二人だと聞いていたものですから」
口元に手を添えて微笑む先生。この人、こういった何気ない仕草が可愛いと人気なんだよなぁ。野郎が選ぶ、高校の女性先生人気ランキングで、保健室の先生に次ぐ二位だ。
二人で少し喋っていると、他のアドベンチャーパーク参加組が続々とやって来た。俺と先生も話をやめ、先生が人数確認をする。
自分のクラスの列に並ぶと、前の女子が当たりだった。
「白崎さんもアドベンチャーパークなんだ」
声を掛けると、白崎さんが振り向いてきた。にっこりと微笑んで、右手で小さく丸を作って前へと向き直る。先生の確認の途中、ということでそんな対応なのかな?
やがて、先生の確認が終わってバスに移動する。
全員、身近な人と話をしていたので遠慮なく抜かせてもらう。席は早い者勝ち! とっとと選んでしまおう。
中村先生に続いて二番目に乗車。窓際の席を確保する。やっぱり、北海道の雄大な自然を見ないとね。
「隣、いいかな?」
白崎さんが遠慮深げにそう聞いてきた。そんなの、断る理由なんてないじゃないか。
「いいよ。大歓迎!」
隣の席に白崎さんが腰を下ろす。もうこれ、人生勝ち組っすわ。
通路を歩いて後ろの席に向かう男子が、舌打ちをして通りすぎていく。はっ、所詮は負け犬の遠吠えだ!
……ごめんなさい調子に乗りました。これ以上は背中を刺されそうなので止めときます。
俺と白崎さんが、これからの活動について話し合っていると、バスがゆっくりと発車した。
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