第30話 ゴミ掃除も大変なのですが?

 あーあ。少し目を離すとこれだよ。私が間違ってたし甘かった。

 空港のあの女から殺す? 私ったらどうしてそんな馬鹿なことを言ったんだろう?

 先に、というか今すぐ殺さなくちゃいけないのはこいつ……白崎じゃない。昨日しっかり教えてあげたから大丈夫かと思ってたのに。許せない。

 朝のジョギングしてたんだろうけど、翔くんの邪魔になってるの。手なんか繋いでると、翔くんが思うように動けないじゃない。本当にうざいんだけど。

 あー、困ったな。慌てて飛び出してきたからナイフを部屋に置いてきちゃった。刺殺出来ないならどうしよう? 絞殺? 撲殺? 何があるかな?

 でも、とりあえずそんな光景を翔くんに見せるわけにはいかない。場所を変えますか。

 ゴミ虫の腕を掴んで連れていく。


「ほら、こっち来なよ白崎」

「や、やめて!」

「なぁ! 白崎さん嫌がってるしその辺でやめてやれよ!」


 どうして? どうして翔くんはこいつの肩をもつの? きっと迷惑に思ってるはずなのに……。

 あっ、そうか。何か脅されてそんなこと言わされてるんだ。本当に最悪よこの女。翔くんのためにもみんなのためにも、私が責任もって殺してあげないとね。


「やめて! 翔馬くん助けて!」

「うるさい。翔くんが迷惑してるでしょ? 分からないの?」

「違うんだ彩乃! 俺は、俺は白崎さんのことが……っ!」

「無理しなくていいんだよ翔くん。そんなこと言わなくていい。私がなんとかしてあげるから。ちょっと待っててね」


 翔くんから離れて人目につかない場所へ。

 やがて、誰にも見つからないような薄暗い場所を見つけた。ここなら、いいかな。近くにこの先熊注意とか看板があるから、後処理とかしなくても済みそうだし。

 おっとそうだ。クズの腕を掴んだままだったね。解放してあげるか。

 とりあえず、振り払うようにして捨てる。地面に倒せば、上を取れるからちょうどいい。倒れたクズに馬乗りになる。

 うわ汚いっ! 涙と鼻水駄々漏れじゃん! でも、自業自得だし仕方ないよね。

 どうせ熊が処理してくれるんだから指紋とか気にしても仕方ない。直接やっちゃいますか!

 暴れる白崎の首を両手で絞め上げる。あははっ! もがく姿は可愛いな~。


「やめっ……助け……ごめ……」

「黙って。翔くんに迷惑かけたことは本当に許せない。死んでよ。死ね。熊の餌にしてあげるから」


 絞める力を強くする。必死になって私の手を引き剥がそうとしちゃってまぁ……頑張るなぁ。

 でも、無理に決まってるでしょ? 私、万が一翔くんが動けなくなった時のために翔くんを運べるようになるほどは筋肉つけてるもん。無理無理。

 ……んー、でも、そろそろ飽きてきたな。腕というか手も疲れてきちゃうし。早く死んでくれないかなぁ?

 そうだ! 別に首なんて絞めなくても、首の骨を折っちゃえば終わりじゃん。私ってあったまいいー!

 そうと決まれば早速。ポキッといっちゃおう!

 確か……左手を引いて右手を押し込めば折れるっけ? やってみましょう!

 じゃあね白崎。最期くらいは気持ちいい音を鳴らして死んでね。翔くんごめんなさいって叫びながら死んで。

 ほら! 死ねよ!


――バキッ!

























 ……っつー。痛いな……っ!

 こいつ……いつの間に木の棒なんて拾ってやがったの……。


「はぁー……はぁー……ごほっけほっ! やめてよ……どうしてここまでするの…!?」


 どうしてかって? 決まってるじゃない。翔くんを守るためよ。


「翔くんは私が守らなくちゃ。あんたみたいな奴から守ってあげないと」

「そんなの間違ってるよ! 翔馬くんの気持ちを考えたことあるの!?」


 こいつ、随分饒舌じゃない。どうしたの?

 ……でも、そうね。翔くんの気持ちなんて考えたことなかった。私も酷いな。


「そう……よね。私、翔くんの気持ちなんて考えてなかったわ」

「青山さん…?」

「私じゃダメよね。翔くんがちゃんと殺さないと」


 そうよ。私が代わりに殺したらなんの意味もない。翔くんが自分の手で害虫を殺さないとダメよね。後片付けは私がする。警察に翔くんは逮捕させない。

 ……なによその目は? そんなに怯えるほど怖かったの? 翔くんと手を繋いで迷惑をかけるなんて、まるで自分から殺してくださいって言っているようなものなのに?

 分からないわ。なら、どうしてあんなことしたんだろう?


「壊れてる……壊れてるよ!」

「スマホ? そんなの直したらいいじゃん」

「青山さんだよ! 本当におかしいよ!」


 こいつ……っ! 失礼な……っ!

 私が壊れてる? 人に対して言ったらダメなことが分からないほど馬鹿なの?


「壊れてるわけないじゃん。私は翔くんが好き。そして、翔くんも私が好き。むしろ、両想いの私たちの間に入ってくるあんたたちみたいな女が壊れてるわよ」

「話が通じないの…!?」

「好きな人を守るためなら何でもしていい。そう、教えてもらったからね。翔くんを守るためならいくらでも殺す」


 そういう訳よ。さて、もうお喋りはいいかしら?

 もうすぐ朝食の時間だし、きっと熊さんもお腹を空かせているわ。早く殺して戻らないとね。

 ……でも、こいつ木の棒を持ってるし、意外と抵抗しそうね。短時間で仕留めるのは無理……かな?


「……やーめた。馬鹿馬鹿しくなっちゃった」

「……え?」

「今は見逃してあげる。戻ったらちゃんと翔くんに謝りなさいよ」

「うるさい! 青山さんなんて知らない!」


 木の棒を投げ捨てて走っていっちゃった。あーあ。出来ることなら仕留めたかったな。

 ……でも、いいよ。あいつを殺す機会なんてまだまだあるんだしね。

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