第29話 二日目の朝はジョギングで始めるのですが?
二日目。
俺は、もぞもぞとベッドから起きてくる。六時起床とのことだが、旅行に行ったらなぜか早く起きてしまう症候群のせいで、起床時刻よりも三十分早く目が覚めた。ぐーっと背伸びをする。
他の三人はまだ眠っている。俺は、ちょっと早いが朝食会場に降りてみることにした。
まだ、薄暗い廊下を歩いてエレベーターに乗る。そこから一気に一階まで降りて会場となる場所の前までやって来た。
ボーッと付近を歩いていると、何やら足音が聞こえてくる。振り返ると、田中先生と天音という珍しいペアがいた。
「おー! おはよう和田。眠れたか?」
「ええ。ぐっすりと」
「そうか。これから、榊と朝のジョギングに行くが、来るか?」
「翔馬も来なよ!」
天音から強く言われたので、俺も少し運動しよう。今日の午前はアドベンチャーパークというところで活動するのだ。早い段階から体を動かしておこう。
三人で外に出ようとすると、背後から声がかけられた。
「私も一緒に行っていいですか?」
優しいその声に反応する。後ろから話しかけてきたのは白崎さんだった。
田中先生が笑顔で迎え入れる。
「もちろんだ。白崎も来るといい」
「ありがとうございます!」
とことこと駆けてくる白崎さん。めっちゃ可愛いな~。小動物みたいなその動きは反則だって。
四人になったところでホテルから出た。さすがは北海道。五月だというのに雪がちらほら残り、銀世界を維持している。
吐く息も白く、まるで冬のようだった。
「さぶっ!」
「うん。寒いね」
白崎さんと俺がそう漏らすと、田中先生が大きく笑った。腕を振って元気よく歩き始める。
「体を動かせば少しは暖まるだろう。それに、ここで動いておけば朝食バイキング結構食べれるぞ」
「朝食もバイキングなんですか?」
また、戦争とか言って飢えた生徒の戦いが始まるのだろうか? ご苦労なことだ。
田中先生と一緒にホテルの周りを歩く。後ろからは、天音と白崎さんが付いてきていた。二人で仲良く会話を楽しんでいるっぽい。
でも、白崎さんの顔が赤いのは気になるなぁ。もしかして、熱とかあるのかな? だとしたら、安静にしておかないといけない。
元気よく歩いていると、田中先生がにやけた顔で聞いてきた。
「それで和田。好きな人とかいるのか?」
「はぶっ!? 何言ってるんですかなんの話ですか!?」
「あー悪かった悪かった。青山だよな? で、どこまで進んだんだ? 二人の関係や家庭事情は資料で大体は知ってるが……それでも今は避妊しろよ?」
「ぜんっぜん分かってねー!!」
田中先生はいきなり何を言い出したんだ!? 思春期の高校生か!? いくら二十代でもその話題はちょっと……違和感が……。
てか、本当に寒いな。手袋とか持ってくればよかった。
「あー、寒い。先生少し走りません?」
「ランニングがいいか? 僕はそれでもいいけど……」
俺が走り出そうと少し足を動かしていると、白崎さんが近づいてきた。……じゃないな。天音に背中を押されて近づかされてきた。
やっぱり顔を真っ赤にしたまま白崎さんがもじもじしている。最近、白崎さんの顔が赤いことが普通だと思えるようになってしまった。
「あ、えと、その、しょ……翔馬くん!」
「あっ、はい!」
なに? この告白でもされるみたいな雰囲気は。……少し期待しちゃう。
と、白崎さんは恥ずかしそうに手を差し出してきた。
「寒くない? 手、繋ご?」
「え? ……うん」
そっと白崎さんの手を包み込むように握る。ほのかに温かな体温と、柔らかくてすべすべした肌がダイレクトに手に伝わってきた。
鼓動が高鳴る。心臓の音が本当に聞こえるようだ。
白崎さんが指を絡めてくる。
「あの、さ。こっちのほうがあったかいよ」
「うん。そそそ、そうだね」
あー、緊張から上手く喋れない。今日辺り俺は死んでしまうのだろうか?
「……なるほど。両片想いなのか」
「うっはぁ。先生トーストとか持ってない? あたし、口から砂糖とかジャムとか吐きそうな気分なんですけど~?」
はいそこー! 二人で微笑みながらこちらを見るのはやめましょう! あと、空気を読みますみたいな雰囲気で足早に去っていくのもやめてよね!
先生と天音に完全に置き去りにされた俺たちは、手を繋いだままゆっくりと歩く。朝食まではまだまだ時間があるし、会話を盛り上げてみるかな。
「あのさ」
「あのね」
お互いに喋りだしてやめてしまう。どこからか「うぶか!」って声がした気がするけど?
どうにか会話を発展させようと頑張ってみようとする。だが、どうすればいいものか分からないね。
このまま白崎さんから話し始めるのを待ってみるけど……白崎さんも困り顔だ。
頭を悩ませていると、天音が戻ってきてくれた。何か、アドバイスかきっかけでもくれるのかな?
「翔馬、紗耶香。今すぐ手を離したほうがいいよ」
違った。でも、どういうことだろうか? 今すぐ手を離せって……、
「――翔くん? 白崎? これ、どういう状況かな?」
背筋が凍えた。冷たく、突き刺すような声が背中にかけられ、肩に誰かの手が置かれる。
ま、待って天音! 置いていかないでくれ! その、ごめんみたいに手を合わせなくていいから置いてかないで! 側にいてくれ!
「翔くん? 聞いてる?」
俺は、笑顔の彩乃に対してどうやって事情を説明すればよいのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます