第28話 夜の自由時間にゲームを楽しむのですが?
缶に入ったおしるこを飲み、ほっと一息つく。自販機で買ったものだが、やはりおしるこは自分で作るやつに限るな。冬場になると彩乃がお鍋一杯に作って持ってくることもよくあるのだが、こういった自販機のものよりも格段に美味しい。
缶を潰してゴミ箱に捨てる。それから、ババ抜きを楽しんでいる彰と駿太の現状を確認してみた。
「ぐわーっ! また負ける!」
「さっきもそれでひっかけたよね!? 今度は意味がな……あれ? ジョーカー!?」
思ったよりも彰が強くてビックリなんだけど? こいつ、姑息な搦め手を使うのが本当に上手いな……。
まぁ、俺は引っ掛からなかったからこそ呑気におしるこ飲んでたんだけどな。
二人の対決を眺めていると、さっき呼び出したもう一人が階段を降りてきた。相変わらず早いやつめ。
「翔くーん!! ……ふべっ!?」
「はいはい。減速せずに突っ込むと危ないぞ」
俺に向かって抱きつくように飛びかかってきたので、避けてやると勢いそのままに壁へと突進した彩乃。痛そうに鼻頭を押さえている。
「ひどいよ……どうして避けるの?」
「じゃあ聞くぞ。どうして避けられないと思った?」
「私は翔くんに抱きつけて幸せ。翔くんも女の子に抱きつかれて幸せ。お互いに得するから……」
「それはお前だけな」
相手が彩乃だしなぁ……これが白崎さんとかなら自分から行くのに。あっ、ごめんなさい! 今のは俺が悪かったから引かないで!!
誰へともなく言い訳していると、彩乃が彰たちのババ抜きを見つけた。
「トランプ持ってきてたんだ?」
「おうよ。やる?」
「やる!」
と、いうわけで彩乃も加えた四人でもう一度。と、思ったのだが違った。
階段を田中先生が降りてくる。
「おー、トランプ持ってきてたのかー」
「あっ、先生!」
「面白そうだなー。僕も混ぜてよ。一位になると、先生がジュース買ってやるぞー」
「っしゃあ!」
彰が盛大なガッツポーズ。まっ、嬉しいのは俺も同じだけどね。また俺の勝ちだろうしさ。
早速カードが五人に配られる。割り当てられたカードを見て、確信した。
(勝った! ジュースもらい!)
などと思っていた。だがその予想は、すぐに裏切られることになる。
俺は、田中先生のカードを引くことになったのだが……。
「……え? なん……だと…!?」
ポーカーフェイスなんてものじゃねぇ。まだ、某映画に出てくる全身真っ黒のお化けみたいなアイツのほうが感情豊かに思えるほどに無表情だぞ!?
これ、田中先生がジョーカー持ってたら終わってるな。負けそうだ。
「あーっ! ジョーカー!? 彩乃ちゃんの表情難しいよ!」
……どうやら、ジョーカーは駿太の手に渡ったようだ。これで、ある態度は行方を掴めるので安心した。
彩乃が俺のカードを引き、捨てる。あと二枚。俺にも少しずつ焦りが出始めた。
続いて、俺が田中先生のカードを引く。逆転させてくれ! 頼む!
「これ! ……お?」
二枚揃って、捨てる。残りは……一枚だ! 俺の勝ち!
もうポーカーフェイスなんて知ったことか。ワクワク顔で彩乃の順番を待つ。いやー、一瞬焦ったけど勝てるものだなぁー。
彩乃の順番が回ってきて俺が勝つ。よしっ! これで田中先生の奢りジュース!!
と、俺から引いたカードで彩乃も残り一枚になった。彩乃も中々強いものだ。これで、彩乃が二位かな?
「上がり。僕は終わったよ」
おや。先に田中先生が上がりましたか。やっぱりジュースを奢ると宣言するだけあって強いな。
その後、彩乃もあがり、彰と駿太の一騎討ちは彰が制した。こいつ、こんなところは強いな。
さて、勝者の報酬であるオレンジジュースをいただこう。おしるこを飲んだばかりだけど、中身をぐいっと呷る。あーっ! 甘い小豆の後の爽やかなジュースは美味しいなーっ! これも甘いけど。
いつのまにか、消灯時間が近づいてきていた。まだ寝るつもりはないが、そろそろ部屋に帰らないと。
先生にお礼を言って部屋の前まで戻ってくる。
「ただいまー」
「帰ったよー」
「お邪魔しまーす」
はい、ストップ! なーにナチュラルに入ってきてるのかな彩乃ちゃん?
「お前は帰れ。女子の部屋は上だろ?」
「えー。私だって翔くんと寝たいもん。いつも、家では夜にいろいろやってるじゃん!」
「やってない事実を捏造するな! ここでは洒落にならないから!」
風紀委員の八坂くんがいるのだ。妙な噂を流されて睨まれてはたまったもんじゃない。
渋々といった様子で彩乃を帰らせる。女子部屋まで付いていってキャーキャー騒がれたときは本当に怖かった。変な噂とか流されないよな? 彩乃いわく、俺が来たから騒いでたらしいけど、なおさら傷つく。
そして、部屋に戻ると八坂くんが待っていた。
「家でも、学生の間は濃厚接触はよくありませんよ」
「してません……」
どうしてこうなった!?
なんともいえない気持ちのままベッドに沈む。まだ寝るまいと思っていたが、気づいたときには夢の中だった。
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