第26話 ホテルの夕食は最高なのですが?

 ホテルに到着。早速、荷物を部屋に放り込んでベッドにダイブ! おぉすげえ! 体が反発で浮いたぞ!

 俺の横では、俺以上にテンションが上がっているやつがいた。クラス一のお調子者である松永くんだ。

 実は、ホテルの部屋割りはくじ引きなのだ。どうせなら同じ班でまとめてほしかったが。

 そんなわけで、四人部屋を当てられた俺たちではある。同じ部屋に彰がいるから、まだ少し話しやすい奴がいるのはありがたい。まあ別に? コミュ障とかじゃないから普通に話せるけどね。

 と、俺と彰と松永くん以外のもう一人のルームメイト、八坂くんが時計を確認している。……そうか。そろそろバイキングの時間だったな。

 ホテルのバイキングとかわくわくすること間違いなしじゃん! 急げ急げ。

 すると、松永くんが我先にと駆け出した。素早い。


「あっ、おい! 急げ翔馬!」

「ゆっくりでも大丈夫だろ。まだ時間はあるぞ」

「悠長なこと言ってんじゃねぇよ! バイキングってのは別名大戦争だって知らねぇのか!?」


 知りません。初耳です。

 俺は、全力で階段を駆け降りていく彰と松永くんを見ながらため息を吐いた。ふと、後ろからもため息が吐かれる。


「まったく……あの二人はここがホテルだと理解してるんでしょうか? 一般のお客様もいるというのに」


 そうだった。八坂くんは風紀委員だった。そりゃまあ、あの二人の行動は気になるわな。

 八坂くんが眼鏡を押し上げて俺を見る。俺も何かやったか?


「しかし、意外でした。君も走ると思ったのに」

「そんなことしないよ。あの猛牛二人と一緒にしないでくれ」

「女の子を侍らせている風紀を乱す最大の要因の君ですから、てっきり」


 おい待て!? 誰だそんなこと言ってる奴! 誰が女の子を侍らせてるだぁ?

 断じて違う! 単に彩乃に付きまとわれているだけなんだぁ!

 ぶつくさと文句を言いながらホールに降りる。早い人は早いもので、すでにちょっとした行列が出来ていた。すごいな。

 俺も、お皿を受け取って列に並ぶ。台に並んだたくさんの料理に目を奪われた。

 パン、ハンバーグ、ウィンナー、唐揚げ、豚を揚げた初めて見るもの、チャーハン、オムライス、ケーキ、ゼリー、オレンジ……などなど。

 豪華な料理を片っ端からお皿に盛っていく。多少味が混ざろうが知ったことか。おかわりのために列に並ぶくらいなら、先に確保しておけ。

 などと考え、料理で富士山を作った俺が席へと戻る。お皿をテーブルに置き、次は飲み物を取りに行こう。


「――あれ? 翔くんもう取ったの?」

「その声、我が幼なじみの彩乃ではないか?」

「……どうして山月記?」


 そこはほら、テンション高めになると訳の分からない言動を繰り出す時があるだろ? それだよ。

 ……え? 本当に分からないって顔をしてるんだけど? そんな経験ない?

 何だか妙に空気を沈めてしまったところ、彩乃の後ろから彩乃と同じ部屋の女子たちが歩いてきた。その中には、白崎さんも含まれている。

 白崎さんに声を掛けようとしたが、彩乃に遮られた。


「あっ、こら翔くん! 野菜は?」

「母親か! 食べたいもの食べればいいじゃん!」

「ダメ! 翔くん時々口内炎を起こすじゃない! 私がキスしたら滲みちゃうでしょ?」

「そもそもキスする事態なんてねぇよ!」

「はいそこ~、痴話喧嘩は外でやれ~」


 田中先生に注意された。俺も彩乃も引き下がる。周囲からの失笑が心に響く……。

 大人しくオレンジジュースを入れて席につくと、八坂くんが俺を視線で射抜いてきた。


「どうです? 風紀を乱すと言われた原因を自覚しました?」

「うん。ごめん」


 一応謝ったけどさぁ、俺じゃなくて彩乃も注意してくれない? 始めるのは大抵あいつだぞ。

 少しモヤモヤした気分で夕食を口に運ぶ。なんか、このモヤモヤを吹き飛ばすことは出来ないものだろうか?

 ……美味しい! このハンバーグめちゃくちゃ美味しい! モヤモヤなんて吹き飛んだ!

 富士山をあっという間に片付ける。このままおかわりもいこうかなと思ったが、さすがに食べきれないと思うのでデザートを持ってくる。ケーキにオレンジ、あとぶどうゼリー!

 さすがはリゾートホテル! メインもデザートも最高だ! これ、明日からもここに泊まれたらいいのにな。

 だが、明日からは札幌のホテルに移動なのだ。だから、悔いが残らないように食べておく。

 お腹を膨れさせた俺は、先に部屋に帰ることにする。同じタイミングで彰も終わったので、二人で部屋へと帰る。

 途中、お腹が重くて苦しくなりながら階段を登っていると、彰が妙な笑みを浮かべていた。


「なぁなぁ翔馬くんや?」

「なんだ?」

「札幌のホテルってさぁ、温泉あるだろ?」

「温泉っていうか、屋内の広い大浴槽な」

「どっちでもいいよ! ……それでな、あれやらね?」


 親指と人差し指で穴を作り、その隙間から目を覗かせる彰。言いたいことは分かった。

 だから、俺は笑顔で返答してやる。


「やだ。それって普通に犯罪だぞ」

「えー!? つまんねぇの」


 当たり前だ。浮かれていても越えていい一線とダメな一線はわきまえろ。

 とりあえず、馬鹿な事を言っている彰は無視してシャワーだ。他のみんなが入る前にさっさと浴びてしまおう。

 うん。さすがリゾートホテル。シャンプーとかもすっげぇいい香りがしました。

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