第25話 北の大地に着いたのですが?

 羽田を飛び立った俺たちの飛行機は、数時間のフライトを経て高度を下げていた。アナウンスが、間もなく新千歳空港に到着すると告げている。

 ゆっくりと滑走路に進入。着陸した。ここまで長かった~。もう腰が痛いよ。

 ターミナルに横付けし、降りる準備をする。そして、飛行機からボーディングブリッジに出た俺は、早速ここが北海道だと実感することになった。


「さぶっ!?」


 特段寒いわけではないが、機内の暖かい空気や家の周辺と比較したからそう感じる。

 ブリッジの窓からは、滑走路の脇に積もるわずかな雪が見える。5月でも、美しい銀世界の姿は健在のようだ。

 ひんやりとした空気が体に纏わりつく感覚。冬場によく感じるあれだ。

 と、窓からの景色を眺めながら歩いていると、後ろから小走りに駆けてくる音がする。


「翔くん寒いの? はいっ! ぎゅーっ!」


 背中に彩乃が抱きついてくる。暖かな体とたわわな二つの果実が背中越しに直接伝わってくる。首筋に彩乃の吐息がかかってくすぐったい。少し、意識してしまう。

 どうしようかと考えていると、首に柔らかいものが触れた。しっとりと湿るような感覚……。って、こいつ!


「おまっ!? 何しやがった!?」

「えへへー、つい」

「つい。で、首筋にキスすんな!」


 こいつは時と場合を考えないんだよ! そういうのは本当にやめてほしい。せめて、やるなら家の中だけにしてほいよ。……違う。家の中でもダメ!

 おおぅ……背後の男子たちから怨嗟の視線が……女子が黄色い声を……。

 と、視界の隅で白銀の繊維が美しく揺れた。北海道の大地に積もる雪よりも綺麗な繊維。


「白崎さん?」

「手、寒くない? こうしたら暖かいかな?」


 白崎さんが俺の手を握って指を絡めてくれる。確かに暖かくはなったけど……恥ずかしくて困る。これ、俗に言う恋人繋ぎだもん。

 鏡を見てないが、頬が朱に染まっていると思う。顔が熱を帯びて熱い。

 ふと見ると、白崎さんの顔も真っ赤に染まっていた。俺のためにそこまで無理しなくてもいいのに。別に、少し気温が低いだけで大したことないしね。

 ……ごめん嘘。なんか、後ろからものすごい冷気が叩きつけてくるんだけど?


「こいつまた……どうしてやろう? 身ぐるみ剥いで八つ裂きにしてやろうかしら…?」


 彩乃と同じ声でとんでもないことが言われた気がするのは俺だけだろうか? 寒気がどっと増してくる。

 俺たちはそのまま空港の外に移動した。ここで三十分ほど待機。後半組を待つ。

 彩乃を背後に引っ付けたまま移動すると、不意に軽くなった。田中先生が彩乃を引き剥がしてくれる。


「こらこら青山~。ここは空港で、僕たちは修学旅行に来ていることを忘れたか? 誰が見ても恥ずかしくない行動を心がけること」

「ちぇー。はーい」


 渋々といった感じで彩乃が離れた。まったくこいつは……。

 その後、後半組が到着したところで移動を開始する。用意されたバスに乗り、最初の目的地である洞爺湖を目指すのだ。

 長いバス移動を経て、洞爺湖に到着した。生で見る洞爺湖はものすごく広くてワクワクする。ここを、遊覧船を使って回るのだから楽しいに決まってるじゃないか!

 バスを降りて、遊覧船の乗り場へと移動する。班のみんなと一緒に先生からチケットを受け取り、遊覧船に乗る。船はすぐに出発した。

 ブリッジに移動して風を浴びる。並んで飛ぶ鳥たちと一緒に進む船は心地よい。


「なーにたそがれてるの?」

「駿太。天音は?」

「はぐれちゃったから。そういう翔馬こそ彩乃ちゃんは?」

「同じく。はぐれた」


 話しかけてきたのは駿太。一人ってのもよかったけど、たまにはこうして友だちと話すことも悪くない。

 二人で風を浴びながら鳥を眺める。


「ところでさ、翔馬はどっちが好きなの?」

「はぁ? それはもちろん白崎さん一択だろ」

「そうなの? 彩乃ちゃんの強めのスキンシップを拒むのは、てっきり照れてるからなのかと」

「違うよ。誰だって大勢が見てる前で口移しとかキスとかされたら嫌だろ?」

「口移し!? ……翔馬、大人になったねー」

「やめろ」


 あれは本当に驚いたからな。もう二度と勘弁だ。


「でもさ。翔馬もちゃんと応えてあげなよ。彩乃ちゃん可愛いじゃないか」

「幼なじみだぞ? そんな感情で見たりしないだろ」

「向こうはそう思ってないと思うな~?」


 少しにやけた顔で駿太が笑う。その顔を見た俺は、「まあ、考えておくさ」と答えて視線を鳥から島へと向けた。もうすぐ一周周り、戻ってくる。

 船が桟橋に着き、俺たちは船から降りる。ホテルに移動するためにバスへと戻る途中、少しだけ考えてみた。


(俺は……彩乃を幼なじみとは違う特別な関係で意識しているのか?)


 一人では答えはでない。また時間を見つけて駿太や彰、いや、天音辺りに相談したほうがいいのかな?

 バスに乗り込む。


「お帰りなさい翔馬くん。楽しめた?」

「あっ、翔くん! 私を置いてどこにいたの!? まさか、誰か女と浮気してたの!?」


 ……答え出ました。やっぱり俺は白崎さん一択推しだっ!!

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