第24話 ビックリな再会があったのですが?

 飛行機が滑走路を走行する。羽田空港に到着したのだ。着陸の際のズンッという重い衝撃がお腹に走る。

 そのままゆっくりとターミナルへと近づく飛行機の中で、俺は頭を押さえていた。もちろん、高度を下げる際の気圧変化で生じた頭痛のせいだ。

 こういうのは普通、離陸するときになるものじゃなかったっけ?

 なんてことを思いながら、降りる準備をする。手荷物を持ち、通路へと出る。

 先に行けばいいものを、彩乃は丁寧に俺の前をぴったりと歩いていく。まあ、特に気にしてないからいいけどね。

 さて、ターミナルに入るとすぐに移動だ。乗り換えの飛行機があるゲートに行かなくてはね。そこで、お弁当も配られるとか。

 だだっ広い羽田空港を歩いていく。次のゲートに着くまでに十分ってすごいな。この世で一番時間にゆとりが必要な場所じゃないか?

 ゲートに着いた。旅行会社の人がお弁当が入った箱と共に待機してくれている。

 だが、お弁当も配られないし飛行機にも乗らないらしい。どういうことだ?


「あー、みんなー。飛行機は後一時間後だー。それまで、手荷物検査場から出ない範囲で自由行動なー」


 二組の先生がそう言った。おいおいマジか。

 仕方がないから、近くのベンチに座る。大きな窓から離着陸する飛行機を眺めて一時間過ごすか。一生で一番しょうもない一時間だな。

 干からびた人類みたいになっていると、後ろから気配がする。どうせ誘いに来たんだろう。彩乃も暇だな。


「俺はここで休んでるよ。彩乃は他のみんなと遊んでくれば?」

「何を言ってるの?」


 あれ? 彩乃とは違う声?

 振り返ると、そこに立っていたのは天音だった。腰に手を当てて俺を見ている。


「ほら来なさい。彩乃も紗耶香もあんたと一緒がいいに決まってるじゃない」

「えぇ!? どこに?」

「あの店よ。新作のスイーツとフラペチーノ飲みに行くって」


 天音が指差したのは、全国的に有名なコーヒーチェーン店だった。確かに、新作が出たと彩乃を騒いでいたな。

 集まっているメンバーを見る。俺の班のメンバーは全員集合していた。ここで俺だけ行かなかったらめちゃくちゃ感じ悪い奴じゃないか。


「じゃあ、行くか」

「あんたが決めるみたいにならないでよ。早く来なさいよ」


 天音が苦笑いで俺の手を取る。一瞬だけ彩乃が驚いたような表情を見せたが、すぐに元に戻った。

 六人で店へと移動する。女子三人はスイーツとフラペチーノを買っていたが、一時間後には弁当がもらえるので俺たち男子はフラペチーノだけで済ませる。

 彩乃曰く、女子にとってスイーツは別腹とのことだが、果たしてその真相は?

 人も多かったので買うのに時間が掛かった。二十分くらいかけてようやく店を出る。


「良かったよ買えて」

「彩乃、お前本当にいけるのか?」

「問題ないよ。無理なら翔くんが助けてくれるでしょ?」


 すっげぇキラキラした目で見ても駄目だからな。旅先での弁当を楽しみたい俺は、その弁当前にスイーツなどというお腹に溜まるものは食わん。

 六人で俺が干からびていたベンチに向かう。まだスペースもあったし、使ってもいいだろう。


「あーーーーーっっ!!!」


 と、考えていたら馬鹿みたいに大きな声が聞こえた。誰だよもう……ここは空港だぞ。迷惑な。

 声の方向を見ると、一人の女子が俺たちを指差していた。まったく失礼な。


「あの子、誰だろう?」

「さあ? 紗耶香は知らない?」

「ううん。まったく」

「彩乃は? 翔馬の知り合いとか?」

「いや?」

「俺たちも心当たりなしだ」

「俺かな?」

「「「「「彰(くん)は絶対ありえない」」」」」

「ひどいっ!?」


 でも、あの制服は知っている。俺たちの高校より西にある同じ県内の高校のものだ。

 なんか、最近同じ制服を見た気がする。そこで、横に移動してみると女の子の指も俺を追うように移動した。なるほど、俺か。


「どうやら俺らしいけど……」

「ねぇ翔くん……」

「あの人誰ですか?」


 怖い! 彩乃と白崎さんの圧力が怖い! 本当に知らないんだよ!

 すると、女の子の背中から別の女の子が現れた。あぁ、そっちは見覚えあるぞ。名前は知らないけど。


「なるほど。白崎さんとショッピングモールに行った時に話しかけてきた女の子だ。白崎さんは覚えてない?」

「あっ! あの時の!」

「……へぇー、白崎とショッピングモール行ったんだー。そして、そこでまた新しい女の子と知り合ったんだー……」


 彩乃の目からハイライトが消えた!! 嵐が来そう……。

 だが、そんな彩乃など知らないとばかりに女の子が近寄ってくる。この子、危険察知能力がバグってない?


「えと……こんにちは。お久しぶりです」

「あっ、えと……こんにちは」

「覚えてくれていたんですね? 私、西城高校の仁科歩美です」

「はぁ……」

「その……やっぱりあの人は彼女さんですか?」


 残念だが違う。将来的にそうなってほしいが、今はまだ残念だ。


「いや、違うんだよ」

「そうですか! えと、よければ連絡先とか交換しませんか?」


 えぇ!? いきなりそんなこと……。

 でも、歩美さんが潤んだ目で上目遣いをしてくる。そういう手段に出られると断りづらい。女の子ってズルいよな。

 それに、連絡先だけならいいだろう。


「まぁ、いいよ」

「ありがとうございます!」


 コードを読み取り登録完了。画面に歩美さんと友だちのアイコンが映し出される。


「あの、また、連絡しますね」


 そう言うと、歩美さんが友だちの元へと帰っていった。しかし、思わぬ出会いがあるものだな。

 そして振り返り、戦慄した。

 彩乃と白崎さんから――特に彩乃からどす黒いオーラのようなものが漏れている。ガチもんの魔王かよ!?


「翔馬くんを好きなのは私なのに……」

「あのアバズレ……どうやって殺してやろうか……」


 小声で何か言ってるけど、聞こえない。というか、聞かないほうが身のためな気がしておっかないんだけど?

 助け舟を探すも、三人はとっとと逃げていた。なんて薄情な!

 その後、彩乃と白崎さんと共に三人に合流したのだが、二人の不機嫌は直りませんでした。

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