第23話 飛行機に乗り込んだのですが?

 出発したバスは国道を走って空港に向かう。めんどくさいが、隣の県の空港から羽田まで飛んで、そこから新千歳まで飛ぶのだ。地元の空港から飛べよと思ったり、羽田挟まずに直行しろと思ったりしたのだが、どちらのルートも既に他校に取られていたらしい。許さん。

 そんな訳で、隣の県の空港へと向かっているバスだが、車内の空気はカオスだった。特に、俺が座っている車内後方は。


「駿太これ好きでしょ? はい」

「ありがとう。……うん、美味しいよ」


 俺の前でバカップルが人の目など気にせずいちゃついている。それはいい。だが、二次災害というものがこの世にはある。


「翔くんお腹空いてない? 昨日クッキー焼いたんだー」


 それは美味しそうだな。うん、もらおうか。

 ……さあ、とりあえず口移しで食べさせようとするな。普通にクッキーだけくれ!

 二次災害――そう、それすなわち青山彩乃。修学旅行ということで浮かれた彩乃は、いつも以上に歯止めが効かない暴走状態であります。

 そういう口移しとかは人の目がない家でやれ! ……俺も何を言ってるんだ? 家でも駄目だからな!

 ふと気づくと、いつの間にか天音が白崎さんに何か耳打ちしていた。白崎さんの顔が真っ赤になっていく。

 さて諸君。嫌な予感がするのは俺だけだろうか?

 白崎さんが鞄からおやつの板チョコを取り出した。一片を口の端で咥えて俺へと突き出してくる。


「しょ、しょうまふん。その、ちょ、ちょ、ちょ、ちょこれーとはへる?」

「白崎さんは無理しなくていいよ! 天音も変なこと吹き込むな!」


 諸悪の根源をしっかりと怒っておく。

 まあ、当然と言えば当然だが、男子からの怨嗟の視線がとても怖いです。胃に穴が空きそうです。

 前方では、彰が悔しそうにこちらを見ていた。


「翔馬貴様ぁぁぁっ!!」

「うるさいぞ堀越。ほら、じゃがりこでも食べて落ち着け」

「くそぉぉっ!! じゃがりこはいただきます」


 彰も田中先生と仲良くやっているようだ。安心安心。

 そんな騒がしい車内だったが、すぐに空港に到着した。田中先生が諸注意を伝達してバスを降りる。

 俺たちもバス下からキャリーケースを取り出し、空港へと歩いていく。と、そこで俺は白崎さんのケースに付いているキーホルダーに気がついた。


「おっ、キツネちゃんだ。付けてくれたんだ」

「うん。翔馬くんがくれた大切なものだから」


 嬉しいな。そこまで大事にしてくれるとなると買ってあげたかいがあるというもの。まあ、ワンコインだったけど。

 ロビーに移動すると、先生が航空券を全員に配っていた。正直ドキドキしている。

 飛行機では、横に誰が来るのか分からないから緊張する。彰とか駿太ならいいが、他の男子たちからは恨みを買っている気がするので怖いしな。

 俺にも券が配られる。翼横の窓際の席だった。窓からの眺めは当たりかな?

 さて、残る問題はお隣さんだ。それは飛行機に乗ってからのお楽しみということにして手荷物検査を受ける。

 ベルトも外さないと。バックルの金属に探知機が反応するという話も聞いたからね。

 無事に検査場を通る。そして、X線にかけて返ってきた手荷物を整理していると、後ろでピーッと音が鳴った。


「え!? 金属なんて持ってないぞ!?」


 彰が引っかかっていた。こいつ、何やってんだ?

 大体予想がつくので、無言で彰に近づいて服をまくりあげる。すると、超巨大な金属で作られたベルトのバックルが現れた。これに反応したんだな。


「彰。これだよ」

「お? あぁそうか!」


 と、彰の後ろに威圧感。田中先生だった。


「堀越~? 僕は車内でもGW前にも検査場ではベルトを外すよう伝えたぞ?」


 あ、恐い。威圧感はんぱねぇな。

 俺も聞いてなかったことは黙っておこう。さらばだ彰よ。

 手荷物検査を終えて飛行機を待つ。広い窓ガラスから外を見ていると、滑走路から一機の飛行機がこちらに向かってきていた。これだな。

 機内の確認やらで少し待って、ようやく搭乗開始だ。航空券を機械に通して飛行機へと歩いていく。

 その途中、カメラマンさんが待ち構えていた。


「はい! 写真撮るぞー!」

「えっ!?」


 一人で撮るのも寂しい。誰か近くにいる人を捕まえよう。

 ちょうどいいところに三人いた。彩乃と彰、田中先生だ。


「写真撮るって! 先生も入りましょう!」

「お! いいねー」


 四人で笑顔とピースマーク。綺麗な一枚が撮れたらしい。

 カメラマンさんにお礼を言って入り口へ。イヤホンをもらうことを忘れない。

 航空券を取り出して席を確認。願わくば、変な人と当たりませんように!


「えーと……ここか」


 座席に深く腰かける。すると、隣に彩乃がストンと座った。あまりにも自然な動きに驚きもない。


「彩乃? そこ、誰か別の人が座ると思うけど?」

「くふふー! 運命だね翔くん。ほら、お隣の席!」


 彩乃が見せてきた航空券には、確かに俺の隣の席という表記があった。それも、羽田から飛ぶ飛行機も同様に。

 いや、そんなこと……。

 と、いいかけて思い直した。そもそも、俺が男子の最後尾なのだ。そして、彩乃は女子の最前列。

 どうして予想出来なかったぁ!

 満面の笑顔の彩乃の横で、俺はそう思っていた。

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