第22話 バスに全員揃ったのですが?

 気持ちよく眠り、目が覚めました。本当なら六時頃まで眠るつもりだったけど、起きたのは五時前。やはり、心の奥底では楽しみという感情がお祭り騒ぎをしているんだろうな。

 段々と青色を孕んできた空を眺めている。正直、一時間近くこのままは暇だ。

 隣では彩乃が気持ち良さそうに寝ている。やけに早起きだったから、眠気がここにきて一気に表れたんだな。

 座った体勢はキツいかもと思い、今度は俺の膝に頭を乗せてやる。男子に膝枕されるなんて嫌かもしれないが、こいつとは今さらだ。もし怒られたら、小さい時はよくやってたと言い訳しよう。

 そのままの姿勢で窓の外に目を向けると、彼女を見つけた。特徴的な白銀の髪の毛は、見間違えるはずがない。

 バスに乗り込んできたその子に、俺はにこやかに話しかける。


「おはよう白崎さん。早いね」

「翔馬くんも早いね。何時に来たの?」

「一時間前だね。こいつに起こされてさ」


 俺の膝で気持ち良さそうに眠っている彩乃を指差す。白崎さんは驚いたように口元に手を当てていた。


「そんなに早く!? ……青山さんが眠っている姿とか初めて見るかも」

「よく俺の部屋に潜り込んでくるけどな。あっ、よければ隣座る?」


 俺の左隣はまだ空いている。ほとんど無謀な賭けに出てみたが、その結果は…?


「いいの? じゃあ、遠慮なく」


 あれ? すんなりいったぞ?

 ラッキー! これで空港まで白崎さんが隣じゃん! バスでの移動は最高に楽しくなったじゃねぇか! ひゃっほい!


「うーん? 翔くん……」

「うるさかったか? よーしよしよし」


 眉をひそめる彩乃の頭を撫でてやると、もう一度気持ちよさげに眠りにはいった。こいつあれだな。猫みたいだ。

 白崎さんは、邪魔しちゃいけないとばかりに鞄から本を取り出した。こういう気配りが出来る女の子って最高ですホント。

 横から白崎さんが読んでいる本をチラッと見る。予想とは違い、ライトノベルを読んでいた。白崎さんもこういうの読むんだな。


「それ、アニメ化されたラノベ?」

「翔馬くんも知ってるの? 私、これ好きなんだ」

「分かるよ。特に、あの原作四巻の……」

「うんうん! あの最後は泣けるよね!」


 二人で作品の話で盛り上がる。なんだろう? すごく楽しいし嬉しい!

 しばらく二人で喋っていると、また一人バスに乗ってきた。眠っている彩乃などお構いなしで大声を出している。


「おはようみんなー!! ……ってあれ? 三人だけ!?」

「おはよう委員長。でも、あの……」

「おはよう白崎さん!! 盛り上がっていこー!」


 駄目だ。テンション高すぎて話を聞く耳を持たない。

 この、歩く騒音……違う間違えた。元気一杯の少女は、森崎くるみという。俺たちのクラスの委員長をしてくれている。

 元気で声が大きいのが彼女の良いところだが、今回に関してはそれは迷惑以外の何でもない。

 膝がくすぐったい。視線を落とすと、彩乃が目を覚ましていた。俺はサッと目をそらす。

 彩乃は相当不機嫌だった。そりゃあ、気持ちよく眠っているときに騒音で起こされたら誰でもブチキレる。

 彩乃が体を起こした。席を立って委員長に近づいていく。影が射した笑顔が本気で怖い。魔王と間違うくらいには。


「おはよう青山さん!! どう? 盛り上がってる!?」

「ねぇ森崎さん。少し、お話ししましょうか?」

「えっ? あっ、はい……」


 おいおい。元気が消えて二人でバスを降りていったぞ……。大丈夫かあれ?

 しばらくして帰ってきた委員長は、完全におとなしくなっていた。彩乃、何をした?

 席に戻る途中、彩乃が視線を白崎さんに向けた。謎の緊張が走る。

 あれ? まずいかこれ?


「……おはよう白崎さん」

「うん。おはよう青山さん」


 それで終わり。彩乃が俺の右隣に戻ってきて抱きついてくる。

 てか、ヒヤヒヤしたわー。この二人は決して一緒にしてはいけないと俺の第六感が告げているからな。

 段々と生徒が集まってきた。バスの座席が埋まっていく。駿太と天音もやって来た。


「おはよう二人とも」

「あら翔馬。両手に花ってどんな気分?」


 天音が面白げにそう言ってくる。まったく、何を言われるのだか。

 そんなの最高に決まってるだろ。特に俺の左側。

 俺たちの前の席に駿太と天音が座った。カップルはお二人でお熱い空間を作ることですねー。

 なんて思っていると、クラスの男子からなぜか睨まれる。え? 俺も似たような光景だって?

 反論が出てきません。はい、その通りですね。

 全員が揃ったかどうか委員長が確認して回る。というか、本当に彩乃は何したの? 委員長、どうせいるだろとばかりに近づいてこなかったんだけど?


「先生。一人足りません」

「もう六時だぞ? 誰だ?」


 田中先生が出欠を取ろうとすると……。


「セーフ!!」

「アウト。遅刻だ馬鹿」


 バスに飛び乗ってきた彰が先生に軽くこ突かれていた。なるほど。何か足りないと思ったら彰か。

 これで、全員揃った。バスが出発する。

 だがその前に、彰の席がない。


「あれ? 空きがない?」

「あるぞ。堀越は僕の隣だ」


 そう言うと、先生が隣の席を空ける。

 うわー、かわいそ。先生の隣とかちょっと嫌だなー。まぁ、遅刻の罰と考えたら妥当か。

 これでようやく出発だ。楽しい修学旅行へレッツラゴー!

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