第20話 明日から修学旅行なのですが?
【紗耶香視点】
「これでよしっと」
キャリーケースに荷物を詰め込み、修学旅行の準備を終えた私はそう呟きます。それから、パンダのぬいぐるみを抱いてベッドへと腰掛けました。
楽しみです。高校生活でも一番ともいうべきイベントの修学旅行。そして、初めての北海道ですからドキドキです。
パンダを抱き締めてベッドで横になります。そして、ふと横目でキャリーケースを見ました。ケースのファスナーでは、白いキツネちゃんのキーホルダーがゆらゆらと揺れています。
「翔馬くんが買ってくれた……」
顔が熱を帯びました。嬉しさが限界を超えて、火が出そうです。
そうです。去年のバス遠足では翔馬くんと一緒ではありませんでしたが、今年はなんと同じ班なのです。
「~っ!! んー!!」
枕に顔を埋めて足をバタつかせます。顔が火照って制御できません。
「……あんた、さっきからなに騒いでるの?」
「わきゃあっ!? お母さん!?」
どうやら、部屋の外まで声は聞こえていたみたいです。お母さんがいつの間にか部屋に入ってきていました。
お母さんは、私が見ていたキツネちゃんのキーホルダーを手に取りました。そして、少し意地悪な笑みを浮かべます。
「和田くんのこと考えてたのね?」
「なななななに言ってるの!? ちちち違うよ!」
「隠さなくていいわよー。あんた、和田くんのことになるとすごく分かりやすいから」
恥ずかしくて何も言えません。そこまで顔に出ていたのでしょうか?
お母さんが私の隣に腰掛けます。そして、頭を撫でてくれながらゆっくりと話してくれました。
「修学旅行はね、恋のイベントでもあるのよ。だから、頑張りなさい」
そう言うと、頑張れとポーズで示してくれて部屋から出ていきました。
私だって頑張りたいです。翔馬くんの隣にいつまでもいたいです。
……でも、きっと青山さんが許してくれません。翔馬くんの隣にはいつも青山さんがいるのですから。
「ううん。違う!」
顔を叩いて気合いを入れ直します。翔馬くんに対する想いなら、例え相手が青山さんでも負けません。
電気を消して布団に潜り込みます。明日は早く起きなければいけませんが、私はみんなより早くに起きて一番に学校に着きます。
空港までのバスの座席が目当てです。もしかしたら、翔馬くんの隣に座れるかもしれません。
集合は六時です。だから、私は四時に目覚ましをセットしました。
では、楽しい修学旅行を夢見て寝ることにします。おやすみなさい。
…………………………………………
【彩乃視点】
準備完了。これで、明日からの修学旅行は楽しめる。
今日は、翔くんの部屋にはお邪魔してない。私にも私の準備があるからね。
机の上に置いてある紙を手にとって改めて確認する。この修学旅行で絶対に翔くんに近づけさせてはいけない女たちのリストよ。
修学旅行は恋のイベント……なんて、どこかのふざけた雑誌がぬかしていたことを思い出す。もし、万が一ありえないけど翔くんと誰かがお付き合いに発展するかもしれない。
だから、そうなる前に手を打っておかないと。さすがに、付き合った後で女を殺すのは翔くんが少なからず悲しむから避けたいしね。
私の視線は自然と赤文字で書いた名前に。こいつだけは絶対にやらせないから。
「白崎紗耶香……このビッチだけは本当に…!」
これは私の勘だけど、あいつ、明日のバスの中で翔くんの隣に座ろうと早く学校に向かうんじゃないかな? 集合は六時だから、四時に起きて五時に着くように向かうかも?
……甘い! アバズレ女の考えることなんて甘いのよ。
私は眠らなくても平気。そして、翔くんがどこかに出掛けている時に田中先生からバスが学校に到着する目安の時刻を聞き出したもんね。
それは四時半。なら、四時に学校に着いてれば確実に席を選べるよね。短い間だけど、愛の空間を作れるよね。
翔くんを朝早くに起こすのは申し訳ないけれど、その分私が体で返すから許してほしい。車内では膝枕させてあげるから。
翔くんの部屋から声が聞こえてくる。やっぱり、細工していると声が聞きやすいね。
どうやら電話をしているようだ。口調から考えると……相手は彰くんか駿太くんかな? どこかのアバズレじゃなくて安心した。
あと、心配なのは榊さんだ。彼女は面白そうなことが大好きだから、翔くんと害虫をくっ付けようとするかもしれない。私と翔くんを見ていた方が楽しいと思わせなくちゃ。
最後に荷物を確認して机に向かう。出発まではしおりを見て計画を考えないと。
……あっ、大事なことを忘れるところだった。危ない危ない。
空港で引っ掛かるからナイフは持っていけないんだった。代用品を用意しないとね。
……いや、普通に預け荷物に入れたら大丈夫かな? 少し細工すれば通せるかも!
機内では目をつぶってあげるわ。優しい私に感謝しなさい。
さて、これからナイフの細工を頑張らなくっちゃ!
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