第18話 午後からも買い物は継続なのですが?
食器を返却した俺たちはフードコートを後にした。近くにあるフロア案内を二人で見る。
「次、どこに行く?」
「うーん……あっ、ここに行きたい!」
白崎さんが指差したのは、小物や雑貨を扱うお店だった。その選択に可愛いなと思いつつ、二人でそのお店まで移動する。
桃色を基調としたその店は、鞄に付けるアクセサリーや小さな動物のぬいぐるみなどを多く扱っていた。イケイケの女子高生が商品を見て笑っている。
「行こ!」
「うん」
満面の笑みを浮かべた白崎さんが俺の腕を引っ張り店内に入る。やっぱり、白崎さんもこういうのに興味あるんだな。
白崎さんは動物のぬいぐるみコーナーで白猫のぬいぐるみを見ていた。鞄の件といい白猫といい、やっぱり白崎さんは白が好きなんだな。
俺は、鞄に付けることができるキーホルダーを見る。どれか可愛らしいのがあれば、白崎さんにプレゼントしてもいい。
……いや、勘違いしないでよ? これは、あくまで今日買い物に誘ってくれたお礼としてであって、決してあわよくばこれでお付き合いに発展できるのではなんて邪な考えを抱いているのではないわけであって……。
そんな感じで無駄に早口になって心で誰へともなく言い訳していると、ふと肩を叩かれた。振り向くと、見ず知らずの女子高生が立っていた。この制服は……俺たちの高校よりもさらに西にある高校のものだな。
「あの、すいませんっ!」
「え? なんですか?」
いきなり謝られても困る。俺、別に何もしてないし何もされてない。
訳が分からなくなっていると、女の子は慌てた様子で言葉を繋ぐ。
「あのー……もしお時間あれば、少し私とお話しませんか? 一階のダイヤバックスで。もちろん、飲み物代は私が払いますから」
何この子? すごいグイグイくるんですけど?
まさか、あれかな? 話を聞いたら高額な絵画とか布団とか買わされるやつ。残念だが、俺はそんな手に引っかからない。
できるだけ相手が傷つかないような断り方を考えていると、横から少し強めに腕を引かれた。
白崎さんの柔らかな双丘に腕が押し付けられる。
「ごめんね翔馬くん。待ったかな?」
「え? あっ、いや、待ってないよ」
「……彼女さんがいたんですか。失礼しました」
待って! 白崎さんが彼女なんて恐れ多い! 白崎さんに迷惑が掛かってしまうから撤回して!
女の子はすぐに棚に隠れて見えなくなってしまう。すると、女の子の嗚咽の声と別の女の子の慰めるような声を聞いてしまった。
「無理ぃ……駄目だった……」
「仕方ないよ歩美。あの人、格好いいし彼女も当然いるって」
普通に好意を持たれただけらしい。嬉しいけど……申し訳ない気もするな。
どうしようか迷っていると、白崎さんが少しふくれ面で話しかけてきた。
「翔馬くん駄目だよ? 自分の容姿分かってる?」
「え? そこまで?」
「うん! 翔馬くんを狙っている女の子はたくさんいるんだからね。気を付けないと駄目なんだよ。青山さんにも言われてない?」
彩乃かぁー。なるほど、理解した。
あいつ、いつも俺の隣を歩きながら一部の女子を睨んでいたけど、そういうことかー。でも、心配しなくてもいいのに。俺がモテるとか多分ないから。
俺は白崎さん一筋! この気持ちは変わらない!
「あー! 分かってない顔してるー!」
白崎さんが少し微笑んでそう言った。いや、きちんと分かっておりますはい。
俺は、ふと棚にあったキツネのキーホルダーを手に取った。真っ白な毛が可愛らしいキツネだ。
「ごめん白崎さん少し待ってて。これ、買ってくる」
「うん。ゆっくりして大丈夫だよ」
レジにキツネちゃんを持っていき、お会計を済ませて白崎さんの元へ戻る。そして、袋からキツネちゃんを出して白崎さんの鞄に付ける。
「え!? これ、翔馬くんが買ったやつじゃない?」
「白崎さんへのプレゼント。余計なことだったかな?」
白崎さんは、キツネちゃんをそっと手で包んで呟いた。
「嬉しいよ……嬉しい。ずっと大事にする…!」
本当に大事そうにキツネを握りしめている白崎さんを見ていると、なんだかこっちまで嬉しい気持ちになってくる。やはり、プレゼントしてよかった。
幸せそうな顔をした白崎さんが隣を歩きながら、店を離れる。やっぱり、端から見るとカップルに見えちゃうのだろうか?
しばらく歩いていると、昔懐かしい雰囲気のお店を見つけた。駄菓子屋さんらしい。
「翔馬くん。行ってみない?」
白崎さんも気になっていたようだ。ならば、お店に入ろう。
そう思いながら進む俺たちの背中に、聞き覚えのある女子の声が投げかけられた。
「珍しい二人だね。デートかな?」
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