第17話 白崎さんが何やっても可愛いのですが?
やって来た鞄屋さんは、キャリーケースからリュックサックから豊富な品揃えだった。同じものでも複数の色があり、選択の幅を広げている。
今回白崎さんが買いにきたのはキャリーケースだ。北海道の修学旅行だから、それほど大きなものでなくてもいいだろう。
二人でキャリーケースを置いてある一角に移動する。
しばらくすると、白崎さんが一つのケースを引いてきた。
「ねえねえ、これはどうかな?」
白崎さんが選んだのは、特に飾ってない純白のケース。白崎さんの髪のように美しい光沢を放っていた。
少し想像してみる。このケースを引いて北海道の大地を歩く白崎さんの姿を。
広がるのは一面の銀世界。そこを、純白のケースを引きながら白銀の美少女が歩く。
……どう考えても保護色で見えなくなる。楽しい旅行で行方不明者を出すわけにはいかない。
「うーん? ……それもいいけど、こっちはどう?」
言葉を選び、代替案として別のケースを提示する。少し薄い桃色のケースだ。大きさも俺のケースと同じくらいだから、容量的には何の問題もない。
白崎さんが、迷うように顎に指を添える。そして、白のケースを戻して俺が勧めた桃色のケースを選んだ。ウキウキした様子でレジへと運ぶ。
お会計を終えた白崎さんが戻ってきた。二人並んで店を出る。
「ありがとう。おかげで可愛いものが買えたよ」
「それは良かった。気に入ってくれたんだ」
「うん! 私、そういうのはよく分からないからついシンプルなものを選んじゃうんだ」
なるほど。だからあの白いキャリーケースだったのか。
シンプルなものも美しいが、白崎さんは雪国に白い鞄で行ってはいけない。何度も言うが、見えなくなる。
時計を見る。まだお昼の十二時だ。せっかくここまで来たのだから、お昼を食べて昼からも遊びたい。
……なんて、白崎さんが許してくれないよな。きっと忙しいだろうし。
「ねえ翔馬くん。お昼から暇かな?」
「え? 暇だよ」
「じゃあさ、お昼ご飯を食べてから少し遊んでいかない?」
聞き間違いだろうか? 白崎さんがお昼からも一緒に過ごしてくれると言ってくれた。
俺の返事がはい以外にあるだろうか? いや、ない。
思わず反語が!飛び出すほどに嬉しかった。
「もちろんだよ!」
「本当? ありがと!」
可愛えなぁこの子は!
なんて思っていると、白崎さんのお腹からくきゅるると可愛らしい音が鳴った。白崎さんがお腹を押さえて顔を真っ赤にする。
その羞恥の表情の威力に意識を刈り取られそうになりながらも、どうにか踏ん張って話す。
「そのケースをコインロッカーに入れたら、フードコートに行こうか」
「……うん」
大きめのロッカーを見つけてケースを入れる。それから、二階にあるフードコートに向かった。
ちょうどお昼時ということもあり、フードコートはたくさんの人で賑わっていた。だが、席の余裕は少しありそうだ。
お店の行列のほうが長いと判断し、先にお店の方に並ぶ。選んだのは、全国チェーンのうどん屋だ。
店の人が注文を聞いてくる。
「何にしましょうか?」
「えーと、きつねうどんの並で」
「私は肉う……ざるうどんで」
ん? 今、肉うどんを注文しかけなかったか? どうしてざるうどんに…?
……分かった。以前も彩乃が似たようなことやってた。お節介かもしれないが聞いてみよう。
「白崎さん……好きなもの食べていいんだよ?」
以前、彩乃は俺の前でがっつり食べるのは恥ずかしいと焼肉を我慢していたことがあった。白崎さんもその延長かと思ったのだ。
「でも、翔馬くんの前で肉うどんを食べるのは……」
「気にしなくていいよ。というか、気にすることかな?」
これは本気で思う。女の子だって相手の目を気にせず好きなものを食べればいいのだ。
しばらく迷った白崎さんは、ざるうどんを取り下げて肉うどんを注文した。その姿に満足しながら天ぷらを器に盛る。
レジでうどんを受け取り、合計額を支払う。その際に、少しだけ言ってみたかったセリフを言ってみた。
「すいません。彼女の分も一緒にお願いします」
ご飯を奢るかっちょいい男子。これを一度やってみたかったー!
え? 彩乃? あいつには割り勘にしてほしい。というか、隙あらば俺のご飯代も払おうとするから割り勘でちょうどいい。
白崎さんが、俺が白崎さんの分も払ったことに気がついて慌てた様子で近づいてくる。
「そんな! 悪いよ」
「いやいいよ。俺が好きでしたことだしさ」
白崎さんとの貴重な時間。これがうどん代で済むなら安い話だ。お金で買えない幸せもある。
二人でうどんをトレイに載せて席につく。ちょうどいい感じに席が空いていて良かった。
きつねうどんになす天と海老天を放り込む。こうすると、衣が絶妙に出汁を吸って美味しくなるのだ。
完成するまでは麺をすする。出汁と上手く絡み合っていてすごく美味しい。
正面では、白崎さんが美味しそうに牛肉をたべていた。頬に手を添えて目を細めるその姿にまたしても倒れそうになる。
ほんと、何しても可愛いよな白崎さんって。よく俺なんかと一緒にいてくれるものだ。他にも狙っている人とか好きな人とかいるだろうに。
……自分で言っておいて悲しくなってきた。目をそらしてもう一度麺をすする。先ほどよりも少ししょっぱい。
「美味しいね!」
「うん、そうだね」
やっとそれだけを言い、海老天を齧る。
いや待て和田翔馬! せっかくの白崎さんとの時間をそんなアホみたいな理由で落ち込んで無駄にするな!
自分に渇を入れ直し、昼からの行動について考えを巡らせていく。
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