第16話 天使と二人でお出かけなのですが?

 彩乃との一件から数日が過ぎた。あれから俺は、あのスイーツ店の近くに立ち寄れなくなってしまった。

 だって怖いじゃん。変な噂流されてたら嫌じゃん。

 そんな一部外出制限のかかった休みを過ごし、いよいよ運命の日を迎えた。そう! 今日は五月二日!

 分かるな? 白崎さんとのお買い物だーっ!!

 十時に駅前で待ち合わせと言われたが、甘い。楽しみな俺は九時に駅前で待っている。

 サマーニットに黒スキニーといった流行りのコーデで仕上げて白崎さんを待つ。緊張で落ち着かない。

 待つこと三十分。待ち合わせの三十前だというのに白崎さんがやって来た。


「あれ? 翔馬くん? えっ? 私、時間間違えてた!?」


 目に見えて慌て出す白崎さん。そんな姿も見ていてとても可愛い。

 おろおろしている白崎さんに笑いながら声をかける。


「大丈夫大丈夫。お互いに早く着いちゃったね」

「あっ、うん。そうだね」


 白崎さんが優しく微笑む。そして、いきなり俺の手をとって歩き出した。

 ちょいちょい。指をからめられると勘違いするからやめて? 嬉しい反面少し困る。


「じゃあ、いこっか」


 駅前のバス停に移動する。目的のショッピングモールまではバスを使ったほうが早い。

 ベンチに座ってバスを待っていると、白崎さんが笑顔でお礼を言ってくる。


「今日は本当にありがとね。私、すっごく嬉しいよ」

「俺のほうこそ。白崎さんと出かけられるだけで幸せだよ」


 あぁ……日頃の行いがいいんだな。こんな間近で白崎さんの笑顔を見せてくれた神様に感謝。無信教だから、とりあえずキリスト様に感謝しておこう。どうしてキリスト様かは俺にも分からないからつっこまないで。

 白崎さんの顔が少し曇った。

 あれ? 俺、何かおかしなことを言っちゃった?


「ところでさ。今日は青山さんは一緒じゃないの?」


 彩乃か。確かに、彩乃と白崎さんをあまり近づけたくはないな。

 でも心配ない。その可能性は無いに等しいのだから。


「彩乃は一人で出掛けてるよ。映画にでも行ったんじゃないかな?」

「そうなんだ。良かった……」


 お? 良かったとはつまり、俺と二人きりになれて良かったってこと!?

 ……はい。普通に考えてそんなことないですよね。白崎さんみたいな完璧美少女が俺なんか気にしてないですよね。調子にのってすいません。

 自分で言ったことに悲しくなっていると、バスが来た。二人で後ろの席に座る。

 高校生二人で座ると、肩が触れあってすごくドキドキした。


「ごめんね翔馬くん。狭くない?」

「いや、ごちそうさまです」

「え?」


 不思議そうに首を傾げる白崎さん。

 バスが出発する。ゆっくりとした振動と、エンジンの小刻みな揺れが体に響いてくる。

 俺は窓からの景色を見ていたが、やがて白崎さんが静かなことが気になった。ふと横を見ると、視界の端で白銀の糸が揺れる。

 白崎さんの頭が俺の肩に乗っかった。すぅすぅと気持ち良さそうに眠っている。


「……天使ぃ」


 景色よりもいいものを見ていると、バスが終点のショッピングモールに着いた。ドアが開き、乗客が降りていく。

 俺も、優しく白崎さんを揺すって起こす。


「うぅ……翔馬くぅん」

「すごく可愛いし寝言の意味も聞きたいところだけど……着いたよ白崎さん」

「うぅ……ふぇ? あっ! 着いた?」


 慌てて頭を上げる白崎さん。ふと心配そうに俺のことを見てくる。


「あの……私、何も寝言なんて言ってなかったよね…?」

「え? 俺がどうのこうの言っていたけど」

「あああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 頭を抱えて前の座席に頭突きを始めてしまった。いくら柔らかくても危ないよ!?

 とりあえず、白崎さんを止めてバスを降りる。ショッピングモールに入るが、白崎さんは涙目で頬を赤く染めていた。


「とりあえず……何か飲んで落ち着く?」

「……うん」


 そこで、入り口近くにあったジュース店に並ぶ。店には流行りのタピオカドリンクがあったが、正直これは一生に一度飲むだけでいいと思う。

 無難にミックスジュースを二つ購入して白崎さんの元に戻る。そして、一つを白崎さんに渡した。


「あっ、お金……」

「いいよ。代金は前払いでもらったし」


 そう。あの寝顔はお金では買えない素敵なものだった。

 白崎さんが意味がわからないというように首を倒している。そして、ジュースを一口飲んだ。


「あっ、これ美味しい!」


 俺も一口いただく。なるほど。確かにこれはいい。

 少しトロリとした食感で、酸味と甘味がちょうどいいバランスで生きている。市販の紙パックジュースと比べるのは失礼かもしれないが、あれよりもよっぽどいい。


「美味しいね!」

「うん。確かにいけるね」


 白崎さんが笑顔に戻った。美味しいものは偉大なり。

 ジュースを飲み終え、ゴミをゴミ箱に捨てる。そして、エスカレーターで二階へと登った。白崎さんが言うには、二階のとある店が開店セールで鞄の安売りをしているというのだ。

 二階へ登った俺たちは少し歩く。そして、目的の店へとやって来たのだった。

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