第11話 楽しい時間はあっという間なのですが?

 意気揚々と歌い始めたはいいものの、上手いと思っていたのは俺だけのようで機械の判定は厳しいものだった。

 見返すと度々音程がずれていたり、無駄な箇所で息継ぎを入れていたりしていたから点数は伸びなかった。なんか現実を突きつけられたようで、嫌だ。


「ははっ、ドンマイ」


 駿太の一言が妙に刺さる。カラオケで70点台といえば世間一般的には普通かもしれないが、天音の90後半を見たあとだと、霞んで見える。


「でも、翔馬くんのmelon上手だったよ。ずっと聞いていたいな」


 白崎さん…! やっぱり優しい…!

 とりあえず座ってカルピスを飲む。それから、リモコンを駿太に渡してやった。

 駿太が何を歌うのか、どれほどのものか気になる。


「次、駿太歌えよ」

「うーん……何を歌おうかな?」

「無難に『ピーマン』とかいっとけば?」


 天音のチョイスは面白かった。まさかの『ピーマン』かよ。

 この曲は、俺がさっき歌った『melon』と同じ人が作詞作曲した曲で、歌っているのは子供のグループだ。時々、無性に口ずさみたくなる時があるなんて奴までいるような有名曲。

 曲が始まり、駿太が歌い出す。二番からは、天音も一緒になって楽しく歌っていた。

 体がうずうずする。無性に交ざりたい。

 そんな風に考えていると、天音がマイクを二つ渡してきた。俺と白崎さんの分だ。


「最後は二人も。やっぱしみんなで歌うと楽しいよ?」


 と、いうわけで俺たちも一緒になって歌う。駿太の歌い始めから、全員で歌って終わるという豪快な一曲になった。

 点数は、序盤は伸び悩んでいたが、後半天音の乱入から急上昇。最終的に70前半まで上がっていた。

 さて、お次は白崎さんの番だ。一体何を歌うのか興味がある。

 白崎さんがリモコンを操作する手を止めた。恐る恐る顔をあげている。


「この曲……知っているかな?」

「歌いたいやつを歌えばいいよ。俺たちは気にしないで」

「そうそう。紗耶香の好きにね」

「……あっ、ごめん。ジュースおかわり行ってくる」


 一人関係ないことを言って出ていく駿太。白崎さんは、少し迷いつつも曲を入れた。

 イントロが流れる。最初、それが何の曲なのかは分からなかった。天音も同じようで、少し考え込んでいる。


「この曲……どっかで聞いたことが……」

「ただまー。おっ、白崎さんが選んだのは『パズル』なんだ」

「ラララ~。……うん。そうだよ」


 駿太が帰ってきて、曲名をあっさりと言い当てる。

 パズル……パズル……あっ。

 思い出した。何年か前の映画の主題歌だ。危ない組織の人たちと小さな探偵くんが対決する名作だったことを思い出す。

 あれはすごかったな。スカイツリーに向けて対戦車ヘリで銃撃するんだもん。ビックリした。

 というか、白崎さんも観てたんだ。この曲を選んだってことは、お気に入りなのかな?


「あの映画良かったよね! 白崎さんはどう思った?」

「ラララ~……うん。歴代の中でもあの作品は好きなんだ」


 白崎さんと好きな映画は一緒だった! もっと会話を盛り上げられるかも。

 そんなことを思っていると、画面に白崎さんの点数が出た。まさかの天音と同じ!


「紗耶香すごいじゃん! 歌上手いんだ!」

「そう? 嬉しいな」

「ねえ翔馬。僕たち、今度二人でカラオケ来ない?」

「同感。俺もそう思った」


 もっと上手な歌を披露しないと。なぜか、そう思った。

 その後も、何曲かを歌っていく。もちろん、得点は天音と白崎さんの二大トップで。

 そして、最後に全員で『しんゆう』を歌い、カラオケから出た。



………………………………………



 ゲームセンターまでやって来た。今は、面白いクレーンゲームはないかと物色中だ。

 しばらく歩いていると、お金を投入する音が聞こえる。振り返ると、駿太が真剣な表情でゲームと向かい合っていた。


「何かあったの?」

「うん。天音が好きだって言ってたキャラのハンカチがね」

「っ! も、もう駿太ぁー」


 こいつら、仲いいなぁー。

 なんてことを呑気に思っていると、白崎さんの姿がないことに気がついた。ふと見回してみると、ホラーシューティングゲームの前でやりたそうにしている白崎さんを見つける。


「やりたいの?」

「えっ? ……うん。でも、一人だと怖いかなって」

「じゃあ、一緒にやろう! こういうのなら慣れてるから」

「本当? ありがとう!」


 二人でゲーム機に入る。思ったより中は狭く、肩が触れあった。

 あーこれヤバイ。白崎さんを意識しすぎてゲームに集中……、


『ボオォォォッ!!』

「あははっ! 楽しいね!」

「ぎゃあぁぁぁっ!?」


 前言撤回! これ、ものすごく怖いやつだ! というか白崎さんもよくこんなもの出来るね!?

 結局、ラスボスを倒すまでに俺は何度も白崎さんの足を引っ張った。ゲームを終えた白崎さんは満面の笑顔だったが、俺は表情筋が壊れていた。天音にお腹を抱えて笑われたことは言うまでもない。

 時刻を確認する。そろそろ十七時になろうかという時間だった。そろそろ、お開きかな?


「最後にプリクラ撮ろうよ!」


 天音の提案で、プリクラの機械に行く。だが、正直今までそんなもの撮ったことがない。駿太も同じようで、二人して不安だった。

 天音と白崎さんにいろいろと教えてもらいながら、四人で一枚仕上げる。

 あー、うん。とてもいい思い出になりました。

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