第9話 放課後を目一杯楽しみたいのですが?

 あれから時は過ぎ、俺たちは変わりのない学校生活を送っていた。そして、四月最後の授業は終わる。

 GW突入前のこの日は午前中授業のみ。午後からは放課だ。


「明日からGWなわけだがぁー、修学旅行前だからって浮かれすぎることのないよぉにー」


 妙に間延びする田中先生の言葉を聞き流しながら、俺はGWに何をしようか考える。

 彰と駿太とどこかに出かけたい。天音も誘うと楽しいかもしれないし。彩乃は……勝手に付いてくるだろうし、多分毎日一緒だからあまり気にしない。

 それに……横を見る。

 それに、だ。白崎さんとお買い物に行くことも決定事項だ。

 ワクワクした気持ちを抑えられずにいると、前の席からプリントが回ってくる。そして、田中先生が意地悪げな笑顔を見せた。


「特別だ。宿題はたくさん出しといてやる」

「「「えぇーっ!?」」」


 教室中から不満げな声が上がる。だが、俺は動じることはない。

 机のプリントに向けてビシッと指を突きつける。


「宿題たちよ。お前はもう……死んでいる」

「……なにしてんの?」


 横から彩乃がおかしなものを見る目で俺を見てくる。いやまぁ、今のは俺もなにやってるんだと思った。思ったけどさぁ、そんな目で見るのはやめて?

 長々とした先生のお話は終わり、みんなが帰り始める。

 俺も荷物をまとめてさっさと帰ろう。今日は昼から何をしようかな?

 そんな風に呑気なことを考えていると、彰と駿太が俺の席に来た。


「おい翔馬! 今日暇なら遊びに行こうぜ!」

「いいけど……どこに?」

「遊戯ステーション。ほら、国道沿いの」

「ああ、あそこな」


 遊戯ステーションとは、俺たちの学校の生徒たちがよく遊びにいくスポットだ。ゲームセンターにカラオケ、ネットカフェにレンタルビデオといった娯楽の楽園。

 宿題も先に片付けたからやることもない。なら、ここは二人と遊びに行くべきだろう。

 ……せっかくだし、彩乃たちも誘うか。

 そう思って俺が彩乃に声をかけようとすると、その前に返事された。


「ごめん無理。今日は用事あるから三人で行ってて」

「そうか。残念だな」

「……そうだ! 用事サボるから私も連れてって!」

「用事してこい!」


 半泣きの彩乃がトボトボ教室を出ていく。別に家に帰ったら一緒なんだしそこまで落ち込まなくても。

 さて、次は天音に声をかけよう。あいつなら駿太を餌にすれば簡単に釣れるだろうし。

 その予想通り――、


「遊戯ステーション? 行くに決まってんじゃん。あたしもあそこ好きだしね」


 ほら釣れた。チョロい。


「おい駿太。榊って大丈夫か? ゲームやラノベのチョロインよりもチョロいぞ?」

「彰……何言ってるの?」

「いや駿太。天音はチョロすぎる」

「翔馬まで!?」


 本人は訳の分からないといった顔で立っている。

 さて、メンバーはこれくらいかな? 

 などと思っていると、彰の携帯に通知があった。それを確認し、みるみる顔を青ざめさせていく彰。


「何かあった?」

「……隠してたテスト見つかった。今すぐ帰ってこいって」

「……それ、何点の?」

「英語応用の26点……」


 全員でお祈りを捧げ、戦地に出向する彰を見送る。願わくば、明日以降も無事な姿を拝めますように。

 さて、これで三人になってしまった。でも、これで行くか。

 そう俺が思っていると、天音が予想外の提案をしてくる。


「紗耶香は誘わないの?」

「白崎さん? どうして?」

「いや、同じ修学旅行の班じゃん。仲間はずれにするつもり?」


 驚いた。彩乃がかなり拒否していたから、天音もあまり白崎さんと行動したくないものとばかり思っていた。でも、天音は問題なさそうだ。彩乃と白崎さんを二人きりにさせなければ問題ない。

 なら、俺も遠慮なく誘おう。実は、一緒に行きたかったんだ。

 幸い、白崎さんはまだ教室に残っていた。


「白崎さん! これから遊びに行くけど、一緒にどう?」

「私? ……いいの? その、青山さんとかは……」

「彩乃はいないよ。もし大丈夫なら行かない?」

「……ちょっと待って」


 そう言うと、白崎さんは通話アプリでどこかにメッセージを送る。やがて、返ってきた内容を見て嬉しそうに笑った。


「大丈夫。お昼も食べてきていいって」

「「「あっ!」」」


 お昼ご飯の存在を忘れてた……そういえば今日は弁当ないんだった。


「も……問題ないよ! 私、美味しい食堂知ってるから!」


 そういうことなら。

 俺たちが顔を見合わせる。ここは、白崎さんを信じよう。

 段々とこの班の関係が分かってきた。これなら、北海道でも大きなトラブルなく楽しめそうだ。

 そんなことを考えながら、俺たちは今にもスキップを始めそうな白崎さんの後ろを付いていくのだった。

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