第7話 放課後も幼なじみが一緒なのですが?
お盆にポテトチップスとオレンジジュースを載せ、鼻歌混じりに階段を登っていく。心底どうでもいい情報だが、俺はのりしおポテチが大好きなのだ。おかんもそれを分かっていて、きちんとのりが付いた物を買ってくれている。
下からは、おかんと志乃さんの楽しそうな話し声が聞こえてくる。毎日毎日よく話のネタが尽きないよな。
俺は部屋の前まで帰ってきて、勢いよく扉を開ける。
「あっ、おかえりなさい」
!?!?!?
なぜか部屋には、いるはずのない彩乃がいた。玄関が開いた音なんてしなかったのにどうやって入った!?
驚きからお盆を放り投げそうになるが、そこは何とか耐え抜いた。机にお盆を置いて彩乃を問い詰めることにする。
「お前、どうやって入った?」
「え? 窓から」
「窓?」
「うん。私と翔くんの部屋は隣どうしじゃん。壁一枚隔てただけ。だから、窓伝いに入った」
こいつ、野生の猿か何かか? この雨が降って滑りやすくなっているなか、窓を伝って入ってこようなんて普通は思わないだろ。
こいつは時々とんでもない行動を平気で起こすから怖い。呆れるように手を額に当てる。
「普通に玄関から入ってこいよ」
「やだよ。最短ルートを使うに決まってるじゃん」
「そうか……で、何しに来たんだ?」
「別に? 来たかっただけ」
彩乃は、俺が持ってきたオレンジジュースを美味しそうに飲む。まあ、新しく持ってくればいいだけだから別にいいけど。
コップを置いた彩乃は、前のめりになって俺に詰め寄ってきた。
「ところでさ。GWの宿題が分かったって本当?」
相変わらず情報早いな。俺と駿太の独占情報だと思ったのに。
「ああ。現代文と古典と漢文のワークがそれぞれ最初から六ページ。英語のワークのレッスン2。数学は後日プリントが配られるらしい」
「そっか。なら、今からやろうよ! GWは遊べるよ!」
ラノベの続きを読もうかと思ったが、それは夜に回そう。一人より二人でやったほうが効率がいいかもしれないしね。
そういうわけで、まずは現代文から取り掛かったのだが……。
「彩乃そこ間違ってるぞ。奏はこの時弟を思い出して泣いたんだよ」
「でもでも! ここに人形を手にして泣いたって書いてるよ!」
「その人形が弟の形見なんだよ。それを見て弟との記憶が甦ったの」
現代文では俺が彩乃に間違いを指摘し……。
「違うよ! なり・たり・ごとしは連体形に接続するの!」
「そうだっけか?」
「そうだよ!」
古典は、俺のポンコツ振りが惜しげもなく発揮された。
「だーかーらー! この返り点だとこっちの漢字を先に読むの!」
なぜか漢文は俺が彩乃よりも出来たので、書き下し文に苦戦する彩乃をフォローする。
「違うよ! その単語はlじゃなくてrなの!」
英語では、俺が単語のスペルミスを繰り返して怒られた。
二人でお互いの間違いを指摘し合いながら宿題を片付けていく。結構苦戦するかと思ったのだが、二人でやったからか案外素早く終わっていく。
四科目の宿題を片付けた俺たちは、同じタイミングで背伸びをした。肩に溜まった疲れが抜けていくぅ~。
ポテチを開けようと袋に手を伸ばす。すると、玄関が開く音が聞こえてきた。
「帰ったぞー」
「親父が帰ってきたな。なら夕飯か」
「だね。下に行こ」
声が掛かる前に階段を降りることにする。部屋を出た地点で漂う甘辛い香りから、今夜はブリの照り焼きだなと勝手に推測した。
リビングに入ると、すでにご飯は並べられていた。ブリの照り焼きにキュウリの酢もの。白米に味噌汁だ。
いつも通りの美味しい夕食に満足し、とっとと部屋に帰る。そして、タンスからパジャマと下着を取り出して風呂にするのだ。
服を脱いで洗濯かごに放り込み、浴室に入ってキッチリ施錠する。こうでもしないと、本気で彩乃が突入しかねない。というか、つい二週間前にやられて本気で焦った。
頭と体を洗い、湯船に浸かっておもいっきり足を伸ばす。毎日が彩乃と関わる激務を送る俺にとって、この入浴の一時は大変貴重な時間だ。
それにしても、今日は一段といろんなことがあった。もちろん、嬉しいことも含めてだ。
「白崎さんと~連絡先交換~」
鏡を見たら、俺の間抜け面が映っていること間違いなしだろう。でも、好きな女の子の連絡先を手に入れた男子なんて大抵こんな反応をするもんじゃないか?
テンションが無駄に高いまま、俺は湯船でばた足をしてしまう。かなりのお湯が飛び散ってしまったから、後で足しておかないと。
もっと一人の時間を楽しみたかったが、親父たちに入浴を待たせるわけにはいかないから出る。別に、自室でもゆっくり出来るしね。
パジャマに着替えて部屋に戻ると、そこには正座で待っている彩乃がいた。
おかしいな。この時間だと、大体うちに戻って風呂に入ってると言っていたはずなのだが……。
彩乃がゆっくりと持っていた物を見せてくる。
って待てや。それ、俺のスマホじゃねぇか! 問題ないと思って部屋に置いたままにしておいたのがまずかったか!?
彩乃が慣れた手つきで無料通話アプリを立ち上げる。
というか、指紋とパスワードの二重ロックにしていたのに、どうやって解除したんですかね?
彩乃の動きが止まった。リストから一人の人物のプロフィールを探し当てる。
「ねぇ翔くん。これ、どういうこと?」
「えと……それは……」
白崎さんのプロフィールを前に、冷や汗が止まらなかった。
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