第6話 家に帰るまでにもいろいろ起きるのですが?
結局、白崎さんの様子がおかしいまま放課後を迎えてしまった。周りのみんなは帰りの用意をしている。
俺も、鞄に筆記具と教科書類を詰め込む。重くなった鞄を背負うと、不意に彩乃が横から声をかけてきた。
「ごめーん、私、これから図書委員の仕事があるんだ」
「ふーん。それで?」
「待っててくれない?」
いつのまにか、一緒に帰ることになっていたようだ。正直勘弁してほしい。
家には、続きを楽しみにしているラノベや漫画が多く残っているのだ。一刻も早く読みたいというのが今の気持ち。
だが、そんな俺の事など知らんとばかりに彩乃はさっさと教室を出ていった。仕方なく彩乃を待つことにする。
教室にはまだ何人かの生徒が残っていて、談笑に花を咲かせている。廊下からは、吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
暇潰しにスマホを取り出して彰にメッセージを送る。ちなみに、駿太に送ってもよかったのだが、天音とデートに行ったらしいから邪魔するのも悪い。
と、いうことで彰にメッセージを送ったのだ。
『今なにしてるー?』
『家帰ってる。お前は?』
『彩乃に待たされてる』
『(((*≧艸≦)ププッ』
……あいつ、明日覚えてろよ?
舐めた顔文字を送りつけてきやがった彰に、俺が若干の苛立ちを覚えていると、ふと視線を感じた。
その視線の主を探すと、それは隣の席の白崎さんだった。
「あっ、白崎さん。もう大丈夫なの?」
「えっ!? 何が?」
「今日はずっと様子がおかしかったから、もしかしたら具合でも悪いのかなって思って」
「ううん。平気だよ。心配してくれてありがとう」
輝くような笑顔で答えてくれる。良かった。いつもの白崎さんだ。
……うん。今は彩乃もいないし、チャンスだ。いつもは邪魔されるせいで出来なかったけど、この機にやってしまおう。
鞄を持って席を離れる白崎さん。その前に、大事な話がある。
「ねえ白崎さん!」
「ん? なに?」
「あのさ、よければ連絡先……交換しない?」
言った! 遂に言った!
白崎さんは、困ったように周囲を見渡す。それから、頬を赤らめてスマホを取り出した。
「いいよ。私こそ、交換したいと思っていたの」
白崎さんが、コードが表示された画面を見せてくれる。俺がそれを読み取ると、ハムスターのアイコンの連絡先が登録された。
これぞ、俺にとっての至宝。念願のお宝が遂に俺のスマホに登録されたのだ。
「ありがとう! また、連絡してもいいかな?」
「えぇっ!? ……いいの?」
「うん。白崎さんさえよければ!」
「嬉しい……待ってるから」
白崎さんが教室を出ていった。俺が席に戻ると、教室の前の方に固まっていた男子たちの声が聞こえてくる。
「見せつけてんのかあれ」
「浮気だぁー」
「なんで翔馬ばかり……」
おぉ……どうやら相当に恨みを買ってしまったらしい。どんどん空気が悪くなるぞ?
ほら、気のせいか教室が暗くなるほど雰囲気が……暗くなる?
窓の外を見ると、雲が空一杯に広がっていた。灰色一色で覆っていく。
教室の雰囲気は悪い。雨が降りそうだ。そして、俺は早く帰りたい。ならばどうするか。
「……帰るか」
彩乃には悪いが、俺は今日傘を持ってないのだ。雨にやられる前に帰ってしまえ。
そう考えた俺は、鞄を背負って教室の入り口に移動する。そこで、彩乃とバッタリ遭遇した。
「あっ、ちょうどいいタイミングだね。じゃあ帰ろう?」
「あ……うん」
どうやら、タイミングよく出迎えてくれたと思ったらしい。そう信じる。先に帰ろうとしたことはバレてないはずだ。
彩乃が荷物を持って俺と一緒に教室を出る。校門を出たところで、彩乃が残念そうに呟いた。
「雨降りそうだね……せっかく行ってみたいスイーツ店を見つけたのに……」
「やめとけよ。今日は親父と蒼一さん帰ってくるの早いんだから」
「問題ないよ。父さんは分かってくれるから」
いや、俺が言いたいのは夕飯が食べれなくなるぞってことなんだが?
それに、何を分かってくれるというんだ? 俺たち、そんな関係になるつもりはないからな?
大通りの信号を渡り、住宅街に入る。少し、雨が降る前兆のような匂いがしてきたので、早足で家に帰る。
俺たちが家にたどり着いた直後に、雨が降り始めた。本当に間一髪だった。
さて、着替えて夕飯までゆっくり過ごすとするか。裏ルートで入手した情報――GWの宿題を片付けてもいいかもしれない。
「ただまー」
「たっだいまー!」
おい待った。おかしいだろ。
俺は、彩乃を連れて玄関を出る。そして、隣の青山家の扉を開けて彩乃を連れ込んだ。
「ちょっとなに? ……あっ、私の部屋に来たいの?」
「違うわ! 着替えるだろ!? 何しれっとうちに上がろうとしてんだ!」
「だから、翔くんの部屋で着替えを……」
「いいわけないだろ! 着替えてから来い!」
渋々自分の部屋に引き上げていく彩乃。ったく、どうしてこんなに苦労しなくちゃいけないんだ。
俺も、自分の家に戻って制服を脱ぐ。それから、クローゼットから私服を取り出して着替えた。どこにも行く予定はないし、放課後の短い時間を過ごすだけだからラフな格好だ。
俺は、スマホを取り出して無料通話アプリを立ち上げる。そこには、確かに白崎さんの連絡先が。
「……夢じゃないんだよな」
自然と頬が緩む。気のせいか、口の中が甘ったるく感じてきた。
うん。何をするにしてもおやつだ。俺は、階段を下りてポテチか煎餅をもらおうとおかんの元に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます