第5話 翔くんを絶対に渡すつもりはないのですが?

 やってしまった。

 真っ白いゴキブリ……いや、それ以下の害虫に私としたことが冷静さを欠いてしまった。いけないいけない。

 でも、そもそもあの女が悪いんだから。私の翔くんに色目を使うあの女が。

 気づいてないと思ってるの? 去年から翔くんのことを追いかけてるって私、知ってるんだけど。本当にウザい。目障り。

 まぁ別に? 翔くんは誰がどう贔屓目抜きに見てもかっこいいし? そりゃあ見るくらいなら私も怒らないよ。

 でもね、あいつは違う。写真を撮ることまでは許してないから。

 本当なら今すぐにでも殺して死体の解体を動画にして翔くんに見せつけてあげたいけど、そんなことしたら私が翔くんに嫌われるからやらない。翔くんに捨てられたら私、生きる意味なんてなくなるから。

 それでも、我慢の限界だった。あいつ、遂に修学旅行の班にまで入ってくるようになりやがった。本当に鬱陶しい。


「それにしても……青山って怖いな。ナイフを持ち歩いているなんて思わなかったよ」


 隣のクラスの沢田さん。と、その取り巻きたち。去年、まあいろいろあって交流があるの。私が素の顔を見せられる数少ない人物。

 だから、私は今回彼女たちを使ってあの女に釘を刺した。これ以上翔くんと関わらないように。

 沢田さんたちは、私の秘蔵品である翔くんコレクションから厳選した写真のコピーを渡したらすぐに協力してくれた。やっぱり持つべきものは親友だね。


「いつどこで害虫に集られるか分からないからね。翔くんは私が守らなくっちゃ」


 そう。翔くんに悪い虫がつかないようにすることも幼なじみの私の役目。その役目はきっちりとこなさなくっちゃ。

 あいつが更衣室から出てきた。俯いて反省しているようね。感心感心。

 小体育館に入ると、すでに他のみんなは体育座りで待っていた。待たせてしまって悪かったかな?

 白木先生の説明を聞き、私たちはすぐに集まる。あいつは……私の言うことをちゃんと聞いて離れた位置で見ているだけ。

 でも、翔くんが呼んじゃった。恐る恐る近づいてくる。

 来るなら早く来なさいよ。翔くんに迷惑かけないで。

 卓球台では翔くんと彰くんが白熱した試合を繰り広げている。やっぱり、翔くんが圧倒的に有利だ。さっすが!

 でも、その試合が終わると翔くんは真っ先にあいつの元へといってしまう。どうして? どうしてそこまでその女を気にかけてあげるの?

 でも、あいつはきちんと私に翔くんを返してくれた。やればできるじゃん。


「私たちもやろ? 翔くん相手でも手は抜かないよ!」

「う、うん」


 さあ! 全力で楽しむぞ!

 結局、勝負は私が負けちゃった。でも、すごく楽しかったからよしとしよう。

 チャイムが鳴って体育が終わる。ぞろぞろと体育館を出ていく皆に混じり、私も出る。

 道中、あいつに会ったから一言掛けておこう。


「やればできるじゃん。その調子でね」


 一瞬肩を震わせたけど、そこまでのこと言ったかなぁ?

 でもこれで、余計な邪魔はしないでしょ。修学旅行は翔くんと仲良く楽しむんだ!

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