第3話 体育の時間、白崎さんの様子がおかしいのですが?
三時間目が終わった。朝から数学Ⅱ、現代文、日本史と授業を受けてきたので肩が凝った。
これが普通なのだが、やはりどうしても疲れる。特に、日本史の岸田先生はマシンガントークだから、聞いているこちらが嫌になってくる。とりあえず、吉野ヶ里遺跡の話をしているのに京都について熱く語ることは控えてほしい。
そんなこんなで休み時間。うーっと背伸びをする。
次の時間割は何だったかと確認すると、体育だった。体操服を持って教室を出る。
廊下を歩いていると、彰と一緒になった。
「なぁ翔馬。お前ってどうして彩乃と付き合わないんだ? 可愛いじゃねぇか」
「あいつの内面を見てみろ。あいつ、時々本気で人を殺しそうな目をする時があるんだよ。胃に穴が開くぞ?」
見てくれだけは美人でも、中身が怖いんだよ。あいつに告白する勇気を持つやつを、俺は素直に賞賛するわ。
更衣室に入って着替える。今日の体育は確か小体育館での卓球だったはずだ。
「卓球なら運動音痴の俺でもいけるな」
「お前何を言ってんだ? 卓球部の俺がお前に勝てないのに運動音痴のわけないだろ」
そうだった。彰は卓球部なのに俺に勝ったことが一度もないんだった。
なぜかたくさんの運動部から誘われたけど、いまだに帰宅部を貫いている俺。運動できないのにどうして誘われるのかいまだに不思議だ。
「こいつ…! 絶対自分のことを底辺だと思ってやがるな…!」
彰が青筋を立てているが……なぜだ?
着替えも終わったし更衣室を出ていこうとする。すると、壁を隔てた隣の部屋から鈍い音が響いた。同時に艶かしい声が漏れてくる。
俺も彰も一瞬で顔が真っ赤になった。隣の部屋といえば女子更衣室で、そこから艶かしい声といえば……つまりそういうことで……。
「よ……よーし行こうか彰! ペンハンドのラケットは俺使えないから!」
「そそそ、そうだな! 俺はラケット持ってるからいいけどお前はペンハンド使えないもんな!」
逃げるように男子更衣室を飛び出す。振り返ることなく走って小体育館に飛び込んだ。
もうすでに大多数の生徒が集まっていて、それぞれラケットを確保して並んでいた。俺も篭からラケットを持って列に並ぶ。
しばらくすると、隣のクラスの女子数人と彩乃。それに白崎さんがやって来た。
彰が肘で俺の横腹を突っついてくる。
「なあ、さっきのあれって……」
「言うな。そんな目で見るんじゃないぞ」
そう、意識するからそう見えるのだ。あれは関係ない。
その証拠に見てみろ。白崎さんは三時間目よりも呼吸が早く……はや……く……。
「って! そんな目で見るなって言ったばかりだろがぁぁぁぁっ!!」
「和田うるさい! 静かに!」
はい、申し訳ありません。体育の白木先生に怒られてしまった。
全員が揃い、授業前の号令がかかる。今日の授業について白木先生から連絡がある。
「この時間の卓球は、自由だ! ちょうど修学旅行の班も決まったと聞いているし、その班員で楽しんで構わないぞー」
彰と二人でグータッチ。解散の合図と同時に卓球台を確保する。
いつもの五人はすぐ揃った。だが、白崎さんは遠くからこちらを見るだけ。
「白崎さーん! 台は確保したよー!」
呼んでみると、ようやく班に混ざってくれた。でも、なぜだろう? その目にある感情は怯えのように見える。
白崎さんの様子が気になっていると、ピンポン球の跳ねる音が聞こえた。
「さぁやろうぜ翔馬! 今日こそぶったおしてやる!」
「いいぜ。さあ打ち合おうか!」
闘志剥き出しの彰に対するように構える。だが、結果はいつもの通り。
「ほい、回転」
「下回転!? ならドライブで!」
「そいや」
「早い早い! でぇいっ!」
「せい」
「そりゃ! ……あっ、しまった」
「シュート」
「何この回転は!? 打ち上げるしか…!」
「ほいスマッシュ!!」
彰、撃沈。
うちひしがれる彰を俺たち四人で笑う。そして、卓球台を駿太と天音に譲る。
二人の平和な卓球が始まると、俺は白崎さんの元に歩いていく。
「どうしたの白崎さん? 元気なくなってない?」
「えっ!? いや、なんでもないから」
ぎこちない笑顔を作る白崎さん。知らない間に何かやってしまったのだろうか?
とりあえず、このあとのお誘いでもしてみよう。
「じゃあさ、あの二人が終わったら卓球やらない? まだやってないでしょ?」
「私はいいよ。青山さんとやってあげたら?」
彩乃の満面の笑みが見える。これは、そうするしかないだろうな。
結局、駿太と天音が終わったら彩乃と卓球をすることになった。当然ながら勝負は俺の勝ちで、次に白崎さんとやろうかというところで時間切れ。片付けとなった。
白崎さん……一体どうしたんだろう? 朝と様子が違うことが気になる。
そのことをどうしても尋ねられず、お昼休みを迎えるのだった。
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