第40話 赤く燃える愛で、君を想ひ願う。

「赤海先輩、寝ちゃったんですか?」

「・・・」

教室から人の気配が消える。この教室には私―――赤海ふみしかいない。

寝たふりをしていた私は、顔を上げた。

教室の窓から差し込む、キャンプファイヤーの火の明かり。

私の心もあのキャンプファイヤーの火に負けない勢いでメラメラと燃えたぎっているはずだった。

実際、数時間前までは確かに。

あの事が起きてから、私の中にある火は小さく、周りを照らすには物足りないほどのものになっている。

あの事―――恋敵の告白。

彼が告白を受けるなんて、初めてではないはずだし、まだ彼が誰かのものになったわけでもない。まだこの戦いが終わったわけじゃない。そんなことはわかっている。

それでも私の気がいつもより一層小さくなっているのは、なんというか、動き始めてしまった気がするからだ。

私と彼は十数年の仲で、彼の隣には私がいた。

ずっとずっと変わらずに、このまま過ごしていけるものだと思ってた。

でも、それは無理だった。

登下校時は相も変わらず、彼の隣を歩けてる。

物理的な距離は変わらないまま。寧ろ今年は近づいてすらいる。

でも、心の距離は?

物理的な距離よりも大事な距離。

ずっと一緒じゃ何も進歩しやしない。

私にあんな表情が引き出せるだろうか。私にあんな感情が与えられるだろうか。私に―――

十数年の仲なのに、ずっと隣にいたのに、私の知らなかった彼が、どんどん私じゃない誰かによって見えてくる。

ここ数ヶ月で、隣にいたはずの彼の背中が、小さく目に映ってしまう。

彼は私以外の誰かと―――


その時、スマホの通知が鳴り、画面が光る。

誰かからのメッセージと言ったものではなく、写真アプリからのものだった。

「過去の思い出」と題されたその通知を押し、スマホを開く。

そして表示された写真は、私のさっきまでのマイナスな気持ちを吹き飛ばしてくれた。

「ふふっ。変な顔。」

写真はちょうど一年前の今日撮ったものだった。

去年の体育祭の前日、2人で前夜祭を開催した時。

前夜祭といっても、放課後にファミレスでご飯食べただけなんだけど。

私が満面の笑みでピースサインしてるのに対して、彼は半目でグーサイン。

撮った写真をすぐ見返して爆笑したことは、今でも鮮明に覚えている。

私は、その写真を機に色んな過去の写真を見漁った。

高1の時、中学生の時、いつも隣には彼が写ってるものばかりだった。

不思議なもので私の心は段々と温かくなっていた。さっきまでモヤモヤでいっぱいだったのに。

彼の笑顔を見ただけで、こうも心が軽くなるものなのか。

確かにここ数ヶ月で彼の私には引き出せなかった表情を見たし、これからもきっとその現象には遭遇する。

でも、これまでの彼の事をこんなにも知ってるのは、世界中探しても私1人だけだと胸を張って言える。

彼の手がしわくちゃになるその時、隣にいるのが私かどうかはわからない。

でも、今はまだ、彼の隣にいるのは私が良いんだ。


色々考え事をしていると、そろそろ時間だ。

ママに教えてもらったあのジンクス。


◇◇◇◇◇


「ねえ、ふみ。明日体育祭なんでしょ?」

「うん、そうだけど。」

「じゃあ、あのジンクス、するの?」

「ん?ジンクス?」

「あら、知らないの。じゃあママが教えてあげる。いい?体育祭の後夜祭で、花火が上がるその瞬間に」


ヒュルルルルルルルルルル~~~~~ドッカーーーーーーーーーーンッ!!!


「好きな人との将来を願う。ただそれだけよ。」


駿の隣に、いつまでも私がいれますように。


「なにそれ、ジンクスっぽくない!ロマンチックじゃない!」

「しょうがないじゃない、これが学校のジンクスって言うんだから。駿君とのこと、しっかり願っておいでよ。」

「なっ!やめてよママ!恥ずかしいじゃん!!」


どれほど時が流れても、この関係が変わってしまっても、絶対に変わらないものが一つある。

私は、黒川駿が大好きだということ。

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敏感がゆえにわかってしまった。俺にモテ期が来たと。 橋口むぎ @hashiguchi_shousetsu

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