第37話 白きまじないは言の葉となって芽生える。

「陽花里ちゃん、そろそろだね。」

「な、なんのこと?」

「隠したって無駄だよ〜。何十年友達やってると思ってるのさ。」

「え、まだ1年ちょっとだと思うけど・・・」

「細かいことはいいの!ほらほら、私なんかお腹痛くなってきたからさ、ぶらぶらしておいでよ!」

「げ、元気にしか見えないけど、そこまで言うなら一人でぶらぶらしてくるよ。一人で。」

「元気なんかじゃないよ〜!あーお腹痛い!じゃ、がんばってね!!」

「な、何を頑張るのかわかんないけど、お大事に。」

友人は校舎へと駆け込んでいく。

後夜祭も終わりに近づいていた。

私、白谷陽花里はただ1人取り残される。いや、気を利かせて1人にしてもらったと言う方が正しいだろう。

照れから隠そうとしてしまったが、友人にはお見通しのようだった。

何故1人にしてもらったかと言うと、とあるジンクス、おまじないのためだ。

私はそのおまじないのため、1人で校庭へ行く。

「どこにいるかな・・・」

私は今、ある人を探している。

恥ずかしいのでハッキリとは言えないが、例えるならそう、私のヒーローとでも言うべき存在。

探す理由は簡単。そのおまじないに必要不可欠な人物だから。

どこにいるのか、全く見当はつかないためひたすら探し回った。


数分後、校庭の端で目当ての人物を発見した。

ぼーっとキャンプファイヤーの火を眺めているようだった。

私は駆け出し、近くへ。そして名前を呼ぶ。

何回か名前を呼んでみるも返事が返ってこない。

何やら考え事をしているようだった。

もしかしたらあのことだろうか。

大声は苦手だけど、少し声量を上げて再び名前を呼ぶ。

すると、やっと反応が返ってきた。

一応、考えてた内容を聞いてみた。一人で抱えきれない悩みだったら助けてあげたいし。

やはり考えてた内容は予想していたものだった。

そしてその内容は、後夜祭中に私もずっと考えていたものと同じものだった。

最近、というか数時間前、後輩に告白されたらしく、そのことについて考えていたようだ。

少し気が滅入る。その後輩のことは私もよく知っている。ライバルとでも言うべき存在。

最近はそのライバルがずっと先を走っているような気がして不安でたまらない。

この件についてあまり深くは掘り下げなかったが、まだ心の整理もつかず、何が正解なのかを悩んでいるんだと思う。

そして、今回受けた告白は人生で初めてのことだったらしい。

私は少しムッとしてしまった。と同時に悲しみの感情も湧いた。

話せば少しは負の感情は収まるものかと思っていたが、実際のところ、その負の感情は大きくなってしまっていた。


せっかくの後夜祭、せっかくのおまじない、気持ちを切り替えよう。

私は緊張しながらも、今の状況を確認した。

どうらや今は一人らしい。

おまじないの際はもっと賑やかになると思っていたため、この静かな状況に若干の困惑はあるが、この都合のいい状況を存分に堪能するしかない。

もしかしてこのおまじないを知っているのは私だけなのであろうか。

私自身もなぜ一人なのかを疑われたが、友人の言っていたことをそのまま理由にさせてもらった。

とっさの嘘はあまり得意な方ではないため、友人が嘘でもしっかり理由を言ってくれて助かった。

そして―――


「キャンプファイヤーの周り、なんか先生が集まってないか?もう終わりなのか。」

そのときは近づく。

「ち、違うと思うよ・・・。うーーん、なんだろうねぇ・・・」

よし上手く誤魔化せた。

どうやら彼は知らないらしい。相変わらずこの手の情報収取に疎いんだから。

そして私は勇気を振り絞った。これで祈りが100%成就するようになることはないとはわかっている。でも、1%でも可能性が上がるのなら私は何でもやってやる。

「あ、始まる・・・ボソッ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


時は少し遡って、数時間前、体育祭後夜祭真っただ中のこと。

私は友人といろいろ屋台を回ってた。

「陽花里なんかテンション低くない?」

「気にしないで。別に低くない。」

「あ、あれでしょ。気になる彼と所に回りたかった?」

「なっ!違うし!」

「嘘つけ!」

「いやほんとに違くて!友達と過ごすのはそれはそれで楽しいから。」

「そう言ってもらえると嬉しいけど。じゃあ何でテンションちょっと低いの?」

「それはまあ、いろいろとあって。」

いろいろ。起こったことは一つだが、それに対するいろいろな感情が私の中で暴れている。

「ふーん、あんまり深くは聞かないけどさ。そういえば、アレって知ってる?」

「アレって言われてもわかんない。」

「アレはアレだよ。後夜祭の恋愛成就のジンクス。」

「ジンクス・・・?」

「そうそう、教えて欲しい?」

「教えて!」

「いーよ。あのね、後夜祭を締めくくる花火が上がったタイミングで――――」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『―――好きな相手と話すだけ。ただただシンプルに。』

ヒュルルルルルルルルルル~~~~~ドッカーーーーーーーーーーンッ!!!

「よろしくね、これからも。」

「え、なに?どうしたんだよいきなり。」

「あ、いや・・・!なんか、不意に思っちゃって。」

「あはは、なんだそれ。こちらこそ、よろしくな。」

彼は大笑いしていた。あまりにも突然すぎたようだ。

話すだけ。ただ話すだけのおまじない。

『なにそのへんてこなおまじない?』

もっとロマンチックはないものなのかと思ってたけど、よくよく考えてこれくらいシンプルなものの方が、恥ずかしがり屋の私からするととてもやりやすいものだった。

はな・・・「よろしくね。」ではただのあいさつとも取れてしまうかもしれない。

いや、私なりに頑張った。緊張で頭が真っ白になって出た言葉。このシチュエーションで『好き』とか言える度胸もない実に私らしい言葉。


このロマンチックのかけらもないおまじない。

しっかり話せたかどうかも怪しいけど、おまじないのおかげだろうか。さっきまで心の隅にあったマイナスの気持ちはすっかり消し飛んでいた。

大丈夫、まだ負けたわけじゃない。

というか、絶対に負けたくない。

私は、私のペースで、私らしく夢を叶えたい。

そしてそんなことを考えながら、私は彼の笑った顔にしばらく見惚れてしまっていた。

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