第36話 願いを叶えたいがゆえに、祈り行動する。
数時間の後夜祭はもう終わりに差し掛かっていた。
屋台もすっかりと片付けられ、校庭ではキャンプファイヤーの火が周りを灯している。
俺はただ一人、キャンプファイヤーの火をただただ眺めていた。
さっきまで一緒にいたふみはというと、楽しみにしていた屋台を一切回れずに落ち込んでいたいちごを何とか励ましてくれている。
もちろん俺も一緒に励まそうとしたが、『今から女子会開くから!』と急遽男子禁制の会が開かれたため、こうして一人で火を眺めているわけだ。
とても1日とは思えないほど今日はいろいろ起こりすぎた。
体育祭だけでも十分に濃い一日になったはずだが、その体育祭に引かず劣らずのイベントが起こりまくった。
一番はやはり『告白』だろう。思いもよらなかったのだ。
思い返せば疑わしい部分もあったが、その当時はあいつの性格だと思って何も気に留めなかった。
そして俺はその答えをまだ出せていない。保留状態なのだ。
彼女のことははっきり『好き』だといえる。しかしその『好き』は友人としてなのか、恋愛対象としてなのか、はたまた一人の人間としてなのか、今の俺にはよくわからない。
これは玖瑠未のみに限らず、ふみやいちご、陽花里にだって同じ感情は抱いている。
俺はこの答えを出せるのだろうか。だが、答えを出すべき時は必ずくる―――。
「――くん、―――んくん、駿くん。」
「え?」
俺を呼ぶ声に思わずハッとし振り返る。
陽花里だ。後ろから声をかけてくれた。
「もう、何回も呼んでたのに。てか、何でキャンプファイヤーの火をボーっと眺めてるの?」。
「あ、いや、何か一日を振り返ってたっていうか・・・」
「一日をって、『告白』されたこととか?」
「え?い、いや・・・?そんなこと考えてないけど・・・」
図星を突かれ驚いたあまり、何故か嘘をついて誤魔化そうとしてしまった。
「嘘。顔に出てる。」
しっかりバレていた。まあ確かに自分でも驚くほど不自然な挙動をしてしまった自覚はある。
「す、すまん。まあ、そうだな・・・。こういうの初めてで。」
「へえ、初めてなんだ。てか、全然誤魔化すことなかったのに。」
確かに驚いたとはいえ、嘘をついて誤魔化そうとしてしまった。
「すまん・・・。」
「何に対して?」
「嘘ついて誤魔化したことについて、すまん。」
「・・・。うん、わかった。」
もちろん悪いのは俺だが、陽花里にしてはらしくない怒りっぷりに感じてしまった。続けて陽花里は言う。
「て、てかさ、いま一人なの?」
「ああ。ふみといちごは女子会。」
「じょ、女子会・・・?」
「俺にもよくわからん。」
いちごを励ますくらいなら、俺もいてよかっただろうに。俺がいて困ることでも?
―――ハッ!俺の悪口か?!
俺、悪口言われるようなこと何かしたk・・・
あっ。
心当たりはある。
ここ数週間、変に気を遣わせてフラストレーションが溜まってたのか?!
「男のくせにうじうじして!!」とか、言われてそぉぉぉ!!!やめてぇぇ!!
こ、心が・・・、心が痛いよ・・・。
「しゅ、駿くん・・・?どうしたの・・・?」
「い、いや・・・、な、何でもないよ・・・」
「そ、そう・・・?ならいいんだけど・・・」
「・・・てか、陽花里は友達と一緒に回ってたんじゃないのか?一人に見えるが。」
「え!?いや、友達は・・・、お、お腹壊したみたいで教室でゆっくりしてるって。」
「そうなのか、それでキャンプファイヤーを見に来たのか?」
「そ、そう!それでね、偶然!それはもうホント偶然に駿くんのこと見かけて!・・・私立ちっぱなしだと駿くん首痛いと思うし、と、隣いいかな?」
「どうぞ。」
立ちっぱなしで話してた陽花里が俺の隣に座った。
陽花里と談笑してしばらく経った時。
なにやら先生がキャンプファイヤー周辺に寄って来た。
「キャンプファイヤーの周り、なんか先生が集まってないか?もう終わりなのか。」
「ち、違うと思うよ・・・。うーーん、なんだろうねぇ・・・」
変によそよそしい陽花里。まさか―――トイレか?
敏感センサーが反応してしまったが、さすがに「トイレ行ってきたら?」は言えない。あまりにもキモすぎる。
「あ、始まる・・・ボソッ」
「え?」
「いや、何でもない・・・!」
「そうか、ならいいんd――――」
ヒュルルルルルルルルルル~~~~~ドッカーーーーーーーーーーンッ!!!
大きな音とともに、激しい光が弾け、バチバチと音を奏でた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ああ、いいマンガだった。俺史上トップ10には入るぞこれは。」
「あれ、もうそのマンガ読み終えたの?昨日買ったばっかじゃん。」
「面白くてついな。お先に失礼しました。」
「こっちはまだ5巻までしか読んでないんだけど。ネタバレしないでよ?」
「しねえよ。5巻っていうと体育祭あたりか?」
「そうそう、体育祭の後夜祭。懐かしいなぁ。」
「確かに。でもうちの学校には、この漫画みたいなジンクスは何もなかったけどな。」
「はあ・・・。相変わらずそういう系の情報に疎いんだから。」
「え?」
「あったんだよ、ジンクス。そしてそのジンクスの力もあって、こうして今一緒にいます。」
「マジか知らなかった・・・。そのジンクスって?」
「それはね、後夜祭の花火が上がったタイミングで――――」
どうやらうちの学校にもジンクスはあったらしい。
あまりそういうのは信じないたちだが、そのジンクスの力のおかげもあってこの幸せな時間が過ごせているのだとしたら、心から感謝したいと思う。
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