第35話 不安がゆえに心が躍る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
登場人物
・黒川駿
高校2年生。自称敏感男でよくいるラノベの鈍感主人公を嫌う。
・赤海ふみ
高校2年生。黒川駿とは幼馴染。物心ついた時から黒川駿のことが好き。
・白谷陽花里
高校2年生。気弱な性格だが時に強引。頑張り屋さん。
・黄山玖瑠未
高校1年生。フレンドリーな性格であざとい。運動神経抜群。
・青山いちご
高校1年生。見た目は中学生。強気で次期生徒会長を目指す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
後夜祭。
うちの高校でのそれはそれほど大それたものではなく、お菓子やジュースを食べたり飲んだりして仲良く談笑。一応キャンプファイヤーはあるが、アニメや漫画の世界のジンクスみたいなのはない。後夜祭とは名ばかりの打ち上げのようなもの――――
「え、なにこれ?」
「あれ、駿。どうしちゃったの?まさか・・・」
そう、そのはずだった。しかし目の前に広がった景色は、去年俺が見たものとはまるで違っていたのだ。
「今年からうちの後夜祭、屋台の出店が始まったんだよ?」
「え、そ、そうだったのか・・・?」
知らなかった。
校庭には後夜祭という名に相応しい、まさに夏祭りのように屋台がいくつか並んでいた。
どうやらふみの話を聞くに、今年からうちの高校は後夜祭に力を入れ始めたようで、3年生が屋台を担当することになっていたようだ。
2年生の俺が知らないのも無理はないと思ったが、今年から後夜祭が本格化するというビッグニュースは全校生徒に広まっていたようだ。
俺は友人と呼べる友人が裕二たった一人がゆえに、いつもこういった情報を仕入れるのは苦手である。
「ほら行こ?なんか奢ってくれるんでしょ?」
確かに約束してしまったが、まさか屋台なんてあると思わず、自販機のジュース、約150円くらいで済むと思っていた。
屋台の売ってるものの相場を考えると、約3倍じゃないか。
ただ、予想より3倍高いから嫌だとはさすがに格好悪すぎて言えない。
「自販機で150円くらいのジュースかと思ってた。屋台だと500円くらいだろ?3倍はさすがに大誤算すぎるから、奢るのは屋台以外でな。」
幼馴染のふみ相手なら、何も格好つけることはない。小さいころからずっと一緒で、もっと格好悪いところだって何回も見られているのだ。
「何それカッコ悪ー。『なんか奢って』って言ったら『うん』って言ったでしょ。男に二言は無しだよ。さあ、早く行かないと売り切れちゃうよ!」
「お、おい、そんな急がなくてもなくならねえよ!多分。」
ふみは俺の手を引き駆け出した。
「駿が遅いせいで売り切れてたじゃん!」
「えぇ・・・。そんな早くに売り切れるとは・・・。在庫調整しっかりしろよ・・・」
ふみが狙っていたスイーツは開始15分も経たないうちに売り切れていたようで、俺たちが着いた時にはもう片付けに入っていた。
「人気のやつだったんだよ?私の周りもみーんなまず最初にそこに行くって意気込んでたもん。」
「なんでそんなに人気なんだ?」
「高3に有名パティシエに弟子入りしてる人がいてさ、その人が作ったみたいだよ。卒業後は将来一流パティシエになるために、その師匠のもとで修行に励むんだって。」
「へえ。それは俺も興味湧くな。」
少し間が空き、ふみが口を開いた。
「将来かぁ・・・」
「どうした?急に。」
「いやぁ、私たちももう2年後には高校は卒業して、進学か就職してるわけじゃん?なんか、実感湧かなくて。」
俺たちは現在高校2年生。進学するにしても試験まであと1年半以上あるわけで、ふみと同様、俺もまだまだ実感は湧かない。
「2年後か・・・。俺たち、どうなっているんだろうな。」
「どうだろう。言葉だけで聞くと2年って凄く長く感じるけど、2年前、中学3年生で部活ラストスパート!って熱中してた頃から現在って考えると、すごく短い。駿の中学ラストマッチだって、昨日のことのように覚えてるし。」
「あぁ、懐かしいようだけど、俺も昨日のことのように覚えてる。そう考えると2年もあっという間に過ぎ去ってしまうんだろうな。」
時間の流れは不思議だ。先と前では同じ期間でも、長さの感じかたが全然違う。
2年後、今日俺たちが打ち込んだ体育祭をどう振り返るんだろうか。あの頃と言って懐かしむのだろうか。それとも―――。
この今の環境が、2年後も変わらずにあるなんてことはないとはわかっている。
「将来のことって考えるとすごく不安になって、息が詰まる感じがする。」
「俺らくらいの年齢の人たちはほとんどがそうだろうな。いや、そうだと思いたい。確約されていない将来。それでも時間は流れ、その真っ暗な目的地へ強制的に送られる。行く道の途中で暗闇が晴れる人、はじめからはっきりとした目的地が見えている人だってもちろんいる。ただそんな人間は一握りだろう。」
「何も見えない真っ暗な場所で不安になるなっていう方が無理な話だよね。」
「ああ。でもさ、不安な気持ちと同時に―――」
「ワクワクするよね。」
「ああ。」
俺とふみは幼馴染とはいったが、ただの腐れ縁というだけではない。家が近くても、親同士が仲良くても、それで子供同士が必ずしも仲良くなるわけではない。子同士にも相性が合う、合わないはあって、もちろん合わなければ幼馴染にはなれないだろう。
「私は将来どうなってるんだろうって不安はもちろんあるけど、その暗闇をかぎ分けて、もがき歩いてたどり着いた目的地、暗闇が晴れた景色はなにが広がってるんだろうって考えるとワクワクもしちゃう。うまく言葉にできてるかわかんないけど。」
大丈夫。俺にはちゃんと伝わっている。というか、俺も全く同じ気持ちだ。
その暗闇が晴れた景色を見るために、たくさん悩んで、行動して、様々な努力が必要なことは分かってる。たくさんの挑戦もあって、それに伴った失敗もあるだろう。でも、その努力と挑戦が実った先に待っている未来が見てみたい。ただそれだけの理由だが、俺はそれだけの理由で将来にワクワクもする。
ポジティブすぎるし、マイナーな考えなのかもしれないが、俺とふみは今、同じ感情を同じ理由で抱いている。
「なんだか、二人で話すのも久々な気がするな。」
俺はふと、なんだか懐かしい気持ちになってしまった。
「えっ・・・?そ、そうだね・・・」
陽花里や玖瑠未、いちごたちと一緒にいる時間が多くなってからは、ふみと二人っきりというのも珍しいものとなった。少し前までは全く考えられなかったことだ。
「なんていうか、やっぱり落ち着くな。」
「えっ?」
安心してもらいたい。これは鈍感男がよく発する勘違いさせるセリフなどではない。言うなればそう、実家のような安心感という意。まあ、15年以上一緒にいたらもはやふみが実家のような存在になるのは仕方のないことだろう(?)。ふみならその趣旨をしっかり感じ取ってくれるはずだ。
(やばいやばいやばい!なんて言った?!駿今なんて言った?!『落ち着く』?つまりは一緒にいたいってこと?!そういうこと!?そういうことなの!?)
「え、あの、しゅ、駿・・・?そ、それってこk――――」
「あっ!探したよ駿兄!集まり終わってからずっと探してたのよ!りんご飴奢りなさいよ!」
「なっ・・・、いちごちゃん・・・?」
「なんで奢んなきゃなんねえんだよ。ちょ、引っ張んな!」
唐突に表れたいちごが俺の腕を引っ張る。
「あ!待って駿!いちごちゃん!」
ふみが俺たちを呼び止める。
「いーやです!待ちません!さっきまでふみ先輩いっぱい独り占めしてたでしょ?」
「べ、別に、独り占めとかそういうわけじゃなくて、まあ、独り占めしてたけど・・・ボソッ」
なにやらふみがぶつぶつ言ってるが声が小さすぎかつ距離が離れていて全然聞こえない。
「そういうことなんで二人っきりで行きますから!」
「ひ、独り占めしてないし!てか、もう屋台閉まってるよーー!!」
「いやあれを独り占めというんです、よ・・・?い、今なんて?」
「だからー!もう屋台閉まってるよーーー!」
「え、えええええええええええ!?駿兄ぃ!本当なの!?」
「あ、ああ。」
ふみの言ったことは本当だ。
本格的な後夜祭に興奮した生徒によって屋台は大盛況。今回が初ということもあって在庫調整が上手くいっていなかったことも、早々に屋台が閉店したの大きな理由の一つだ。
「駿兄探してる途中、屋台結構空いてるなぁって思ってたけど、あれ全部終わってたからだったの・・・?そ、そんな・・・」
いちごは膝から崩れ落ちた。屋台にはしっかりと『閉店しました』といった大きな張り紙が誰が見てもわかるようにされている。次期生徒会長を目指しているだけあって普段はしっかりしているが、少々天然なところもあるのかもしれない。
「りんご飴・・・、私のりんご飴・・・」
この落ち込み様、よほど楽しみにしてたのだろう。少し可哀そうになってきた。
「あ、後でジュースとか買ってやるから・・・。そ、そんな落ち込むな・・・。」
それでもいちごは崩れ落ちたままだ。どうやら俺の声は届いていないらしい。
いちごを慰めながら、俺はひとつ思い出す。
「そういえば、ふみはさっき何言いかけてたんだ?」
ふみが何か言いかけてたところを俺は聞き逃さなかった。もう聞こえないふりは、ここで崩れ落ちている次期生徒会長とのあれこれで辞めた。
「え!?いやなにも・・・」
「ん?ならいいが。」
(思わず『それって告白?』って聞いちゃいそうだったよ!危ない危ない。てか冷静に考えて、駿がこんなにすんなり告白してきたら今私、こんなに苦労してないっての!久々の二人っきりで舞い上がっちゃってた・・・。てかてか、10年アタックして、やっと振り向いてくれた暁の告白がそんな分かりづらいものとか許さないから!2年後までに絶対『好き』って言わせてやる!!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます