第33.5話 幕間

体育祭のあのクラスの代表者によって構成されたメンバーで行われたリレーにおいて、大活躍をした男、その名も黒川駿。まあ、俺である。

そんな俺は、そのリレーの活躍によって数人の女子から好意を寄せられた。いわゆるモテ期っていうやつだ。

しかし、そんなモテ期を堪能していたところ、1年生の後輩にみぞおちを喰らわされ、さらにそこに同級生2人も加わって追い回された。

数分逃げ回った俺は、もう体力すっからかん。さらに体育祭の疲労も重なり、限界だったところ、突如走る速度を上げた玖瑠未にとうとう捕まってしまった。

「く、玖瑠未・・・。は、離してくれ・・・」

「やっと捕まえたんですもん!離したりなんかするもんですか!わざとペース落として体力温存して、駿先輩の体力すっからかんにしたところを捕らえる作戦大成功です!」

「捕まえるだけなら、別にすぐ捕まえれただろ・・・」

「馬鹿ですねえ先輩は。体力すっからかんにすることで、捕まえた後先輩の抵抗力を奪ってるんですよ。」

「ずるがしこい奴め・・・。」

そして玖瑠未は、向こうの方で俺と同じく体力が切れてぶっ倒れているふみたちを指さして言った。

「みなさんを遠ざけて、こうやって先輩と二人っきりになることが、一番の目的ですけどねっ」

「なっ・・・」

止まらない。告白してきてからというものの、玖瑠未からのアプローチが止まらない。

「さあて、どうしよっかなぁ。人気のない場所で先輩と二人きり。しかも先輩は体力0で動けません。大丈夫ですよ先輩。何も痛くありませんし、先輩が怖がるようなことはしませ―――ぶぎゃぁぁあ!!」

目の前で小悪魔後輩が叫び声とともにいきなりぶっ飛ばされた。

あまりの急展開に俺は声が出せない。てかこいつ俺に何しようとしてたんだよ。

「駿、大丈夫?助けに来たよ・・・!」

「あ、ありがとう、ふ、み・・・?」

ふみが助けに来てくれた―――と思ったが、そのふみの姿は少々、いやかなりばかげていた。

「なんでお前、仮●ライダーみたいな格好してんだ・・・?」

ふみは某ヒーローのような恰好をしていて、仮面はフェイスシールドのようなもので、顔が見える。

「駿くんしっかりして。あいつは怪人ミルク。国際指名手配怪獣の一人だよ。」

「いったいなぁもう・・・。いいところだったのに邪魔しないでもらえますか?あーあ。。じゃあ、まずは邪魔者を排除して・・・さあ、かかってこいやぁぁ!!」

何がどうなってるんだ?玖瑠未が怪人で、ふみと陽花里は正義のヒーロー?

目の前では彼女たちの戦いが繰り広げられている。

「ミルクセーキビーーーーーム!!!」

「くっ・・・、そんなのこの御面ライダーフミには効かない!」

「私は、インキャレンジャーのレッドのヒカリ・・・。こんなとこで負けるわけにいはいかないっ!」

御面ライダーって弱そうだし、陽花里ホワイトじゃなくてレッドなのかよ。

いやそんなことは置いといて

「お前ら何やってるんだ!?後夜祭のショーか何かなのか!?」

「駿何言ってるの?これはショーなんかじゃない!生きるか死ぬか。命を懸けた戦いなの!」

「命を懸けた戦いって・・・。俺たちがなんでそんなことしなきゃならない?!お前たちは友達じゃなかったのか!?」

「駿くんは馬鹿なの?怪獣と友達なわけないじゃん。夢でも見てたの?」

「夢・・・?」

あいつらと過ごしたあの日々は夢だったのか・・・?

あれもこれも全部・・・?

「駿!あなたも早く戦いなさい!このままだと・・・」

頭が真っ白だ。何も考えられない。

「俺の何気なくて、何も面白みもなかった日常に、色んな感情を持たせてくれたのはお前たちなんだよ・・・!俺はお前たちと過ごせてただけですごく楽しかったし、居心地がよかった!それが夢だったなんて・・・。ただただずっと一緒にいて欲しかった。お前たちは俺にとって、最高の、最高の居場所だったんだぞ!!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「・・・んっ?」

「あっ、あー、しゅ、駿・・・?ど、どんな夢を見てたのか知らないけど、私たちは多分これから先も一緒にいるし、何より、駿が私たちのことそんな風に思ってくれてたなんて・・・」

「ヤバイ、今駿くんの顔見れない・・・」

「「激しく同意します。」」

「え、え、俺は、何を・・・ってもしかして・・・?」

「そのもしかしてのもしかしてです。」

敏感がゆえに、いや、これは敏感じゃなくてもわかってしまうだろう。

「えっと・・・、もしかして、今私黒川駿は、寝ながら言葉を発す、すなわち、寝言を発していましたか・・・?」

4人そろって、首を縦に振った。

あまり夢を見ないし、見たとしても、夢は覚えていない人間なのだが、さっき見た夢はそれはもうはっきりと、めちゃくちゃにはっきりと覚えていた。

神様、どうかこれが夢なんだよと言ってください。

てか何で気づかないんだよ夢の俺!

あんな世界あるわけにだろ!あるにしても俺の妄想の中だけだ!


~綾音による補足~

お兄ちゃんはお兄ちゃんに恋する4銃士に追い回されるもんだから、陰にひっそり隠れてたんだけど、いろんな悩みが解決した安心感や、体育祭による疲労感で思わず寝ちゃったんだよね。

4人は見つけた時、お兄ちゃんが倒れているものだと思って、助けを呼ぼうとした瞬間にお兄ちゃんが『お前たちは俺にとって、最高の、最高の居場所だったんだぞ!!』と寝言を発しながら、起床。

お兄ちゃんはホント人をその気にさせるのが上手いよねぇ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


意味の分からなすぎる夢だったが、思い返せばもうこの頃から、俺の中には特別な感情が芽生えていたのかもしれない。

それゆえにあんな夢を見て、見た夢なんてほとんど覚えてもないものなのに、今になっても鮮明にあの夢の中のセリフは覚えている。

「当時の俺が今くらい敏感だったら、もしかしたらこの気持ちに気付いていたのかな。」

「うーん、どうかな・・・。まあ、あの頃もだし、今でもあなたは敏感とは程遠いと思うけどね。」

「いや敏感だから!今はもちろん、あの頃だって変わらず敏感だったよ!」

「えーどうかな?だって、あなた自身の気持ちに気付いたのも、こっちの気持ちに気付いたのも、まだまだ先の話じゃない。」

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