第33話 活躍したがゆえにモテ期。

「只今より、第46回体育祭、後夜祭を開始いたします。」


「駿ーー!!後夜祭一緒に行動しよ―――ってなにがどうなってるのぉぉぉ!?」


ふみが何か叫んでいるが、俺の耳には届きやしなかった。

距離としてはそう遠くはない。

しかし声が届かないのは、周りにいる数人の女子が俺を囲っているからだ。

もう一度言おう。女子が俺を囲っているのだ。

俺にもとうとう来たのだ。そう、モテキが!!!!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


時は遡ること30分前。

玖瑠未が堂々と告白宣言し、その場に居合わせることが恥ずかしすぎて出来なくなった俺は、一人、教室で後夜祭の準備を手伝っていた。

役割分担として、外の設営組と教室の飾りつけ組があるのだが、俺とふみ、陽花里、玖瑠未、いちごは奇遇にも全員外の設営組。

どんな顔して一緒に作業すればいいんだよ。

よって俺は裕二のいる教室の飾りつけ組に潜伏(?)した。

「お、お前がそんなに俺のこと好きだったなんて、て、照れちゃうじゃねえか・・・」

「気持ちわりいなおい。」

裕二がゲラゲラ笑う。こいつは昔からこういうことを言うのが好きみたいだ。

「にしても、お前がわざわざこっちに来るなんてな。なんか理由があるんだろ?」

勘のいい奴め。流石は長い付き合いなだけある。

俺の次に敏感野郎だと認めてやろう。俺の次にな。

「なんもねえよ。ずっと外にいたから、中に戻ってきたくなったんだよ。」

『後輩に告白されて、しかも後輩がその告白をふみたちに公開宣言しちゃったもんから気恥ずかしくて居られなくなって、逃げてきた。』

なんて言えるわけもなく、嘘をつくしかない。

「お前ってホント昔から嘘下手くそだよな。」

「なっ!?」

「バレバレだよ。何年一緒にいると思ってんだ。ほら、話してみろって。」

マジで勘のいい奴だな。てか嘘ついてまで言いたくないことなんだよ。察してくれよこのイケメンさん。

しかし、どう言い訳したものか。俺が少し困っていたそのとき。


「ねえねえ、さっきのリレー凄かったね!写真一緒に撮ってくれない?」

多分同学年の女子3人が話しかけてきた。

また裕二のファンかよ。何人ファン作れば気が済むんだこの野郎。

「俺は向こう行ってるから、後はごゆっくり。」

こういう時は立ち去るのが一番だ。邪魔しちゃ悪い。

「ちょ、ちょっと、私たち、黒川君に写真撮って欲しいんだけど・・・」

え?

っと危ない。勘違いするところだった。

俺にカメラマンになって欲しいんだな。敏感で良かった。気づけて良かった。

「ああ。それなら全然構わないぞ。カメラ貸して。ほら、並んで並んで。」

「えっと・・・それも違くて、黒川君“と”写真撮りたいんだよね・・・。ダメかな・・・?」

「え?えええええええ!?」

「そ、そんなに驚かなくても。」

「あ、いや、ぜ、全然良いけど。」

「じゃ、撮るよ?」

カシャ。

「ありがとう黒川君!」

「あ、ぜ、全然構わないよ。」

「黒川君。次私とー!」

「あ、ああ。おっけーおっけー。」

え、何?何が起きてるの?

この状況はなに?

「黒川君、異性とあんま写真撮ったりしたことない?なんかめっちゃ動揺してるように見えるけど・・・。」

「そんなことないし?めっちゃ撮ってるし?」

「絶対嘘じゃん黒川君!照れてるの可愛い!」

絶対嘘ってなんだよ。

「黒川くんもうちょっと話そうよ。一緒に外行こ!」

「お、おい。引っ張るな。押すな。」

突如訪れたモテキ?俺がなぜこんなに女の子に囲まれてるのかはわからないが、一つだけ言えることがある。

凄く気分が良い。

体育祭最高。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「黒川君走るのすごく速いんだね!か、かっこよかったよ。」

「うんうん!黒川君の追い抜いた相手、バスケ部のエースらしいよ!」

「てか黒川君って、いつもふみちゃんと一緒にいるけど、付き合ってるの?」

「俺がふみと?いや付き合ってないが・・・」

「じゃあ、黒川君はフリーってことなんだ!へえ~」


「ねえ、陽花里。あの光景見て思うことある?」

「なにあの女ども。駿くんに近づくな。触るな。むかつく。てか駿くんデレデレしてる。もっとむかつく。」

「たぶん、あのリレーの追い上げがダメだったのよ。」

「ちょっと時間戻したい。あの時の自分に応援するなと忠告したい。」

「激しく同意する。けどあの状況どうしたら―――」

「駿先輩~~~!!!」

「駿兄~~~!!!」


「好きな食べ物?何だろな―――ってうん?」

俺の名前を叫ぶ声が聞こえた気が。

叫び声から1秒後、俺の体はすさまじい衝撃を受けた。衝撃というのは物理的なものだ。

「ぐはぁぁぁぁっ・・・!」

「駿先輩。後夜祭一緒に過ごそって約束したじゃないですかぁ!」

「駿兄。準備間に合わなかったとこあるから手伝いなさい!」

「お、お前ら・・・向こうから言えばいいだろ・・・」

偶然か意図的か、2本の腕が俺の腹にみぞおちをかましてきやがった。

おかげで話しづらい。

「遠くで言っても聞こえないかなって思って。」

「そうそう、私たちの優しさよ。むしろ有難く思いなさいよ。」

「ていうわけなんで、さあ行きますよー駿先輩ー。」

「もたもたしないで。おっそいのよ。」

二人が強引に引っ張る。目の前にいる女の子3人組がさっき押したりひっぱったりしてきたが、その30倍くらい力強い。

「わ、わかったからそんな引っ張るな。腕がもげる。」


「駿先輩を好きなのは構いませんが、彼を好きなのはあなたたちだけじゃないってことも御忘れずに、です。」ボソッ

「例えば、まあ、見たらわかると思いますけど。」ボソッ

玖瑠未といちごが彼女らに何か言った気がするが、腕を引っ張られる激しい痛みによって、そんなことは気にしていられなかった。


「あの二人、強い・・・」

「ま、まあ、あの二人がいかなかったら、私も行ってたけど?」

「嘘。」

「う、嘘じゃないし?ひ、陽花里はじゃあ、行けたの?」

「行ってた、と言いたいところだけど、たぶん行けない、かな。だからこそ、あの二人の行動力は尊敬するし、私にもあればなって思う。」

「陽花里・・・」

「さっきの玖瑠未の告白宣言を聞いてからずっと、駿くんはどんな子が好きなんだろうって考えてる。これまでも考えていなかったわけじゃないけど。玖瑠未やいちごみたいに行動力のある子が好きなのかな。ふみみたいにずっとそばにいてくれる子が好きなのかな。私にはこれといった長所ないから。みんなみんな、羨ましい。」

「な、なに弱気になってるの。行動力って・・・昔駿のことデートに誘ってたじゃない。」

「え、なんで知ってるの?」

「あ、いや、それは、あ、綾音から聞いたのよ・・・!」

(あとつけてたなんて言えない・・・)

「そうなんだ。でもね、デートに誘うのと、告白するのでは、天と地ほどいる勇気の差があるよ。もうこの際だからはっきり言っておくね。私、駿くんのこと好きなんだ。」

「え・・・?」

「いきなりで驚いちゃったよね。でもこれが今の私の気も―――」

「そんなの知ってたけど・・・?」

「――ち・・・って、え、し、知ってた・・・?」

「う、うん・・・。知ってたというより、わかってた?」

(え、この子、あの駿への態度で隠せてるとでも思ってたの・・・?!てっきり、もう言わなくても『もう私が駿くん好きなのわかってるよね』スタイルなのかと思ってたけど、何この天然っ娘。)

「え、え、じゃあもしかして、私の気持ち駿くんにも伝わってたりして・・・。ど、どうしよう・・・!」

「いやあ、それはないと思うけど・・・」

(だってずっと一緒に過ごしてて、いつも隣にいる私の気持ちにも気づかないやつだし。少し、いや、かなりズレてるし。)

「だ、だよね。まだ、駿くんには内緒・・・」

「俺に何を内緒にしてるんだ?」

「だから駿くんがす・・・って、え?」

「ん?」

「ええええええええええええええ!!!!!??しゅ、駿くん・・・?!」

玖瑠未、いちごを撒いた俺は、ふとみつけたふみと陽花里のところまで逃げてきたのだが、え?俺のことがす?その後に続く言葉はひとつしかない。敏感な俺は逃さない。その言葉とはつまり、好きってこ―――

「も、もう脅かさないでよ!駿くんがす――す、スケベで女好きだなぁって思っただけだから!女の子5人に取り囲まれて鼻の下伸ばしちゃってちゃってさ!」

「な、伸ばしてねえし・・・」

「伸ばしてたし。罰として今から一緒に――」

「あ、駿先輩、見つけた!!」

「逃がすか駿兄!」

「や、やべえ逃げろ!!」

「あ、駿くん、まだ話し終わってないんだけど!待って!」

「え?あ、ちょっとみんな待って!私もいるんだけど!駿もほら止まれ!!」

「なんでお前らも追いかけてくるんだよ!!」


「お兄ちゃん大モテだなぁ。」

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