第31話 友がゆえに打ち明ける。

高校生活2回目の体育祭も終わりを迎え、現在は後夜祭の準備で盛り上がっていた。

俺は人気のないところで、一人ボーっとしていた。

この晩に行われる後夜祭。

いわゆる打ち上げのようなもので、ジュースやお菓子を飲食ながら談笑したり、まだまだ騒ぎ足りないものはグラウンドで騒いだりする。

そして後夜祭の目玉は何といってもキャンプファイヤー。

そのキャンプファイヤーを取り囲むようにフォークダンスが行われ、曲の終わりと同時に手を触れあっていた、ペアになっていた異性は、永遠の愛で結ばれる―――

なんてありがちなおまじない的なものはこの学校には存在しない。

うちのキャンプファイヤーは周りを照らすただの火に過ぎないのである。

もしかしたら俺が知らないだけで何かあるのかもしれないが。

もちろん、俺はさっきキャンプファイヤーはただの火と表現したが、ロマンチックであることは認めよう。

実際、その日の前で告白し、カップルが誕生するというのは毎年あることらしく、去年も実際に何組かのカップルが成立していた。

告白、そう、告白―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「駿先輩、好きです。」


「へ?」

玖瑠未、今なんて言った・・・?聞き間違えたのか?

「聞こえたとおりの意味ですよ。気づいた時にはもう、こうなっちゃってました。」

「ええっと・・・」

何と言ったのかは聞こえた。俺が好き?

パニック状態の俺はうまく返す言葉が見つからない。

「駿先輩ったらこんなにあたふたしちゃって可愛いですね。」

「あ、あたふたもするだろ・・・」

「そんな先輩も、くるみ、好きですよ?」

「ちょ、お前・・・」

「くるみ、本気ですから。」

玖瑠未が抱き着いてくる。俺の心臓の鼓動は高鳴るばかりだ。

「ホントならもっとロマンチックな感じで、もっと先輩をくるみの虜にして、完璧に準備が整ってから、告白するつもり・・・ってか、駿先輩から告白してもらうつもりだったんですけど。もう、抑えきれなかったんです。こんなに好きにさせた駿先輩が悪いんですよ!?」

「えっ・・・」

そんな上目遣いで好きをぶつけられたら、なんというか、やばい。

俺にもっと語彙力があればよかったが、俺の語彙力ではやばいと表すので精一杯だ。

「まあでも、言えてスッキリしましたし。」

少し間を開けてから、玖瑠未が続ける。

「駿先輩。今はまだ、返事はいりません。ていうかしなくて大丈夫です。まだ先輩のこと落とせてないことくらいわかってます。だから、今は、まだ。」

「玖瑠未・・・」

どうやら心は読まれているらしい。俺が今、玖瑠未のことが好きで、付き合いたいかと聞かれれば、素直に、即答でYesとは言えない。

それは玖瑠未に限らず言えることで、好きな人、と言うのが今の俺はよくわからないのだ。

この胸の高鳴りは、玖瑠未が好きだからなのか、それともただ女子の抱き着かれているからなのか、はたまたその両方か。今の俺には、判断できなかった。

「いつか先輩が、くるみとずっと一緒にいたいって思ってもらえるまで、くるみ待ってます。でも一刻も早く応えてもらえるように、告白した以上は、これからさらに、すーーーごく、もうめーーーちゃくちゃアタックしまくるので!!覚悟しててくださいね?」

今までの玖瑠未のあざとい行動が俺へのアタックとして、それよりアタックしてくるというのだろうか。

というかまだあざとくなれるのか。今まで100%じゃなかったのか。

「あ、ああ、覚悟しとくよ・・・」

「えへへ。でも駿先輩。今、すごーくドキドキしてますよね?くるみにまで伝わってますよ?これは意外と早く応えてくれるかもですねぇ。」

「っ!」

俺は慌てて離れる。

こんな可愛い後輩に抱き着かれてドキドキしないわけがない。

女性慣れしてない俺からすれば尚更だ。

しかし、ドキドキが伝わっていたというならばかなり恥ずかしい。

「あはは、駿先輩ったら顔真っ赤じゃないですか。可愛いー。」

玖瑠未がいたずらに笑って言う。

しかし、玖瑠未の笑った顔を久しぶりに見た。

やっぱり玖瑠未には笑顔がよく似合う。

「それじゃあ先輩。くるみはちょっとお色直ししてから行くので、先行っててください!後夜祭、楽しみましょうね!!」

「あ、ああ・・・!」

玖瑠未はまた笑う。

初めて会った日にこの場所で見た、何倍ものいい笑顔で。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――――ん、―――ゅん!駿っ!」

「っ!え!あ、ああ、ど、どうしたふみ。」

さっきの図書室での出来事を思い出して、ボーっとしてしまっていた。

「玖瑠未とちゃんと仲直りできたの?」

「あ、ああ。出来たよ、おかげさまでな。」

仲直り以上のことが起きてしまったのだが。

このことはふみや他のみんなには内緒にしておこう。

「ん?ホントに?なんか様子が変だけど。なんか心ここにあらずって感じ。」

「い、いやいや、気のせいだ。」

「気のせいじゃないと思うんだけど。さっきだって何回も声掛けたのに全然声届いて無かったじゃん。」

相変わらず鋭い奴だ。

まあ、この鋭さに救われたのだが。

しかし、それとこれとは別である。

告白されて、それを承諾し、カップル成立となっていたなら、自慢げに話すものありだと思うが、俺はOKしたわけでもなく、答えは結果的に観たら『保留』と言うものに近いものとなった。

それなのに周りに告白されたと自慢に言いふらすのは相手の好意に失礼だ。

ここはうまくごまかそう。

「そ、それはほら、そう、あそこにいる女の子、可愛いなーー!!って!!そう思ってただけだから!!」

解答としては最低だが、数分前のことで頭がいっぱいの俺にはこれが限界だった。

「は?駿くん。誰が可愛いって?」

「え・・・?」

陽花里・・・?え、いつからいた?

いや、さっきまでふみしかいなかったよな?

「早く答えて。誰が可愛いって言ったの?」

「ひ、陽花里さん?目が怖いよ?せっかくの綺麗なお目目が台無しだよ?」

「え、じゃ、じゃなくて、誰のことが可愛いって言ったの?!」

「駿。私も気になるなぁ。」

迫りくるふみに陽花里。

ちょちょちょ、怖い怖い怖い。

確かに最低な返しだったかもしれないが、こんなに怖く迫られるとは思わなかった。

俺が返答に困っていると、というか怯えていると、大きな声がした。

「駿先輩が可愛いって言った相手は、この私ですよ!!」

玖瑠未だ。

「玖瑠未・・・?駿くん、ホント?玖瑠未に可愛いって言ったの?」

「ホントですよぉー。だってくるみたち、お付き合いしてるんですから!」

そう言って、玖瑠未は俺の腕にしがみつ・・・え、今なんて言った?

『くるみたち、お付き合いしてるんですから!』

「「「ええええええええええ!!!!!!」」」

「あれ~駿先輩~。言ってなかったんですか?くるみたちが付き合ったって。」

「しゅ、駿・・・ほ、ホントなの・・・?」

「駿くん・・・」

「え、いや俺は・・・」

もしかして俺の知らないうちにOKしてたのか?!勘違いさせちゃうようなこと言ったのか?!

記憶を、記憶を辿れェェェ!!

「あははっ!皆さん面白いですね!嘘ですよ。うそ!」

「なっ、う、嘘か・・・ま、まあ?私は知ってたけどね!」

「わ、私も知ってたよ?見え見えすぎて透けちゃってたもん・・・!」

「ド、ドッキリ、大成功ーー!な、なんちってな!!」

嘘に決まってる。敏感な俺はこれが嘘だと分かってあえて乗ってやったのさ。

ん?陽花里、見えすぎて透けてたとか変な事言わなかったか?

「もう、駿兄たちはなに準備サボって騒いでんのよ。」

後夜祭の準備をしていたいちごが注意に来た。

よほどうるさかったのだろう。

流石次期生徒会長候補。こういうのには相変わらず手厳しい。

「悪い悪いいちご。俺たちも今からちゃんと準備手伝うからさ。」

「ちゃんとやりなさいよ。てか、何でそんなに大声出してたの?」

俺が答える前に、くるみが先に声を上げた。

「ああ、それはね。くるみと駿先輩がお付き合いを始めましたーー!!」

しーん。

「えええええええええ!!!!!!!!!!?」

「―――っていうドッキリを仕掛けてたところなんだ!」

こいつ絶対わざと引っかかる感じで間を開けて言いやがったな。いやな奴。

「ま、まあ、それくらいわかってたし?分かっててひっかかってあげたんだから、勘違いしないことね・・・!」

でたー。ツンデレいちごさん。


少し間を開けてから、玖瑠未は切り出した。

「皆さん、ありがとうございました・・・。そしてごめんなさい。皆さんにはすごく気を遣わせちゃいましたよね。くるみの問題なのに。くるみが悪いのに。仲直りのきっかけまで作ってもらっちゃって。ホントにくるみは自己中で、気が利かなくて、自分でも自分が嫌になります。でも、やっぱりくるみは、皆と一緒にいたい、皆と一緒に笑っていたいんです・・・。こんなくるみですけど、これからも友達でいてくれませんか?」

涙はぐっと堪え、流れていないが、今にも雫が落ちてしまいそうだった。

初めてできた友人を失ってしまうかもしれないという恐怖は、計り知れないものだったのだろう。

でも、そうなってしまうかもしれないという原因を作ったのは玖瑠未自身だと考えており、そんな加害者である自分は涙なんか流すべきではないといった考えなのであろう。


玖瑠未は、何もかも間違っている。

「当たり前でしょ?てか、陽花里、何泣いてるの・・・?」

「い、いちごだって泣いてるし!」

「え!?な、泣いてないですよ!赤海先輩こそ泣いてるじゃないですか・・・!」

先に雫を落としてしまったのは、どうやらふみたちのようだ。

「み、みんな・・・」

我慢しきれなかったのだろう。とうとう玖瑠未の目からも零れ落ちた。

「く、くるみ・・・みんなが大好きだから・・・離れちゃうのが怖くて・・・」

変な言い訳などいらないのだ。好きだから一緒にいたい、それだけでいい。

恐らくあの中には、玖瑠未が加害者だ、玖瑠未に全責任があると思っている奴は一人もいない。

責任はみんなで背負って、みんなで乗り越えていく。

笑い合うだけじゃなく、泣き合うこともできる。

そういうのを友と言うのだろう。


目の前では4人が抱き合い、泣き合っている。

「お前ら、お互いにいい友達だな。」

思わず呟いてしまったが、俺の声は届いていないようだ。

ここは人通りも少ないため、人の目もあまり気にする必要はないだろう。

思う存分泣けばいいs―――

「もう!悪いのは駿!駿がぜーんぶ悪い!!」

何だこの女ァァァァ!!人が折角カッコつけてるときにィィ!!!

てか何で俺が悪いんだよ。他3人も首を縦に振るな。

責任は皆で背負うとか言ってた俺恥ずかしッ!!俺に丸投げじゃねえかこいつら。

まあでもここは黙って男の俺は退出しておこうかな。

俺がその場を後にしようとした時、後ろから誰かに引き留められた――と言うより、抱きしめられた・・・?

「どこにいくんですか、駿先輩。」

「玖瑠未・・・?」

何この状況。なんでいきなりうしろから抱きしめられてんだ。

「皆さん、もう一つ言いたいことがあるんです。」

「言いたいこと?てかなに駿に抱き着いてるの?!」

「今すぐ離れないと、友達辞める。」

「あと2秒以内に離れないと、私が生徒会長になったとき休学にするから。」

なんだこいつらァァァ!!さっきまでの俺の感動を返せ!!

いや待て。あんなにいい感じだったのにいきなりこんな友達に対する態度が変わるわけがなくないか?

もしかして全部俺に言ってた?だとしたら超理不尽かつ若干傷つくんですけど?


「みんなヒドっ!さっきまでの涙は何だったんですか?!まあ、友達辞められるのは嫌なので離れますけど。」

「よし・・・。で?言いたいことって?」

「ああ、あのですね・・・」

言いたいこと?しかも俺を引き留めて?

一体何を―――

「っておいくる――――」


「くるみ、駿先輩に告白しちゃいました。」

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