第30話 体育祭がゆえに青春謳歌。 リレー編
時間は進み、残る競技もクラス代表リレー、全員リレーを含む4競技となった。
「まもなく、2年生クラス対抗リレーです。出場する生徒は入場口まで集まってください。」
うちの学校は他の競技の問題で2年→1年→3年の順番でクラス代表リレーを行う。
1年生のお手本と言う目的もあるらしいが、変わった順番だ。
「駿!リレー頑張ってね!」
「駿くん。私、めちゃくちゃ応援してるから。」
ふみに陽花里。借り物競争では散々な結果だったが、その後の女子による綱取り合戦では、MVP級の活躍を見せた二人だ。
「二人とも、ありがとな。」
「駿兄!ファイト!」
「おお、いちご。ありがと。がんばるよ。」
いちごも次出番があるのに、最終調整の練習を抜けて応援に来てくれた。
玖瑠未は案の定いない。
遠くの方で綾音と最終調整してるのが見える。
綾音がここに来ず、玖瑠未と一緒にいてくれてるのは、玖瑠未が一人になってしまうのを防ぐための粋な計らいだろう。
この悩みは一旦忘れて、今はリレーに集中だ。
「じゃあ、頑張って1位取って、女の子にモテてきますかね。」
「「「な!?」」」
「駿!それはだ―――」
「駿ー。さっさと行こうぜー。早く行かねえと怒られちまうよ。」
「そうだな裕二。じゃあ、行ってくるわ。」
3人に別れを告げ、俺は裕二と入場口へ向かう。
後ろからふみ叫び声が聞こえる。
何と言っているのかは分からないが、おそらく応援してくれているのだろう。
まったく、いい幼馴染を持ったもんだ。
「駿ー!ダメ!モテるくらいなら頑張るな!ずっこけてしまえ!!」
「「うんうん!!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「A組速い!2位B組との差をみるみる広げていきます!!」
とうとう始まったクラス代表リレー。
1週目の裕二はぶっちぎりの1位だったのだが、2週目、3週目でA組に追い抜かれてしまった。
4週目、アンカー、俺。
裕二のいたずらだ。こういうのは一番早い奴担当だろ。
後で覚えとけよチクショー。
現在B組は2位。1位A組との差は5mほどか。
「頼む黒川!」
バトンを受けとる。いい感じにスピードに乗れた。
差は約8~10m。少し、いやかなり厳しいか。
少し縮まっているような、縮まってないような。
確実に言えるのは、このままじゃ追い抜くのは至難の業だ。
俺の思い描いていた体育祭ってこんなのだっただろうか。
何故だかそんなことを考えてしまった。
高校の体育祭って、もっと熱くなれるものじゃなかったっけ。もっと楽しいものじゃなかったっけ。
今、この1位との開いた差を冷めた目で見ている自分がいる。この差じゃ抜けやしない。なのに全力で追いかけるのは馬鹿みたいだ。
玖瑠未との関係だってそうだ。いまだ修復できず、こうなった原因さえわかりゃしない。
原因もわからないのに、俺はどうやってこの関係を修復しようとしたんだ?
そもそも修復する必要なんてあるのだろうか。
去年1年間は玖瑠未なしで過ごしていた。言ってしまえば、ふみと裕二、この二人と主に過ごしてて、今年はそこに関わる人が増えただけ。
ならこのまま修復しなくたって支障なんてないんじゃないのか。
というか何で、俺は修復しようとしてるんだ?
残り半分を切り、距離にして残り約90m。
差は縮まらない。
(まあ、このまま2位で終わってもいい―――)
「駿ー!さっさと抜いちゃえー!そのまま2位だったら焼き肉奢りだからね!!」
誰よりも大きな声で、ふみが叫んだ。
「駿くん頑張るって言った!でも今の駿くん頑張ってない!私でもわかるくらいに!」
ふみの声量に比べたら劣ってしまうが、他の歓声に負けず陽花里の声が届く。
「駿兄!負けたら蹴るから!」
この声はいちごだ。おいなんで蹴るんだよ。
人間と言うのは本当に単純な生き物である。
たった一つのことで考えは180度変わってしまうし、気分だってそうだ。
それいいつだって一瞬で、俺一人では作ることができない、誰かによって作られる一瞬だ。
なんで玖瑠未との関係を修復したい?こうなった原因は?
難しい答えなんていらない。
玖瑠未とまた笑い合いたい。ふみや陽花里、いちごに気を遣わせたくない。
去年まではふみと裕二とだけでも楽しく過ごせた。
でも、今年は違う。
俺の周りにはその二人に加え、陽花里や玖瑠未、いちごがいるのだ。
俺はこのみんなと過ごす時間が好きで、誰一人として欠けてほしくない。
俺はしてみたいのだ。こいつらと一緒に。思いっきり、青春謳歌を。
「駿先輩!1位取ってください!」
声が聞こえた。これは――玖瑠未の声だ。
あざといが可愛い後輩の頼みだ。
しっかり聞いてやるってのがかっこいい先輩ってやつだろ。
「うおおおおおおおお!!!」
俺は必死でA組追いかけた。溜まった不満や自分への苛立ちをぶつけるように。
(届けえええええええええ!!!!)
パンっ。
俺は何とか差を縮め、ほぼ同着でゴールすることができた。
応援の力ってすごいなとつくづく実感したし、なんか吹っ切れた時ってこんなにも力が出るものなんだなと感じた。
「ゴォォォォォォル!!!1位は・・・B組だぁぁあああ!!!」
「か、勝った・・・」
激戦がゆえに、グラウンドは沸く。
俺は何とか勝ち取ってやった。1位を。
「ご苦労さん。どうだ?アンカーを走ってみてよ。」
「裕二・・・。疲れたよ。もうアンカーなんて御免だ。」
「まあそう言うなって。走る前と後に比べて、お前の顔、見違えるように変わってんぞ。」
「気のせいだろ。でも、1位取れたのはお前の最初の独走のおかげだよ。」
「それは違う。確かに俺は1位独走した。でもそこから俺たちは2位に落ちて1位とも差が開いた。それを最後に追い上げ抜いたのは、誰でもねえお前自身だ。この調子でもうひと踏ん張りだ。最後にそのモヤモヤも今日で無くしちまえ。」
「裕二・・・」
流石親友と言ったところか。俺に悩みがあるなんて見抜いてるんだな。
「ああ、頑張るよ。ありがとな。」
「いいってことよ。気にすんな。」
「これで2年生クラス代表リレーを終わります。続いて1年生クラス代表リレーです。」
俺たち2年生は退場する。次は玖瑠未たち1年生の番だ。
退場口ではふみに陽花里が出迎えてくれた。
「駿!お疲れ様!ま、まあ、か、かっこよかったよ・・・」
「駿くんお疲れ様!あの追い上げ、か、か、かっこよかった、ね・・・」
最後の方はごにょごにょしていて、この大きな歓声の中では聞こえなかったが、まあ褒めてくれたんだろう。
「ありがとな二人とも。お前たちの声、ちゃんと聞こえたぜ。」
次は、玖瑠未にいちごの番だ。
A組には玖瑠未、C組にはいちご、実は参加していた綾音。
綾音はかなり運動神経が良い。
そして今度は俺が応援する番だ。
見た感じいちごは第一走者で、玖瑠未、綾音はアンカーだ。
「位置について・・・よーい、ドン!!」
始まった。1年生クラス代表リレー。
「全クラスほぼ差がありません!!若干A組がリード!!」
「行けぇー!!!いちごー!!」
運動は苦手らしいいちごだが、クラスの代表者にしっかりついて行っている。
「第2走者へとバトンが渡りました!リードは依然変わらずA組!そのすぐそばにC組です!!」
「よくやったぞいちごー!!!」
「う、嬉しいけど声がでかすぎよ!!恥ずかしいじゃない!」
上位陣はA組、C組の二クラスの一騎打ちになりそうだ。
第3走者へバトンが渡るも、差はほとんど変わらず、ほんの少しの差でA組がリード。
そしてアンカー。
玖瑠未と綾音の一騎打ちだ。
「くるみん。負けないよ!」
「こっちこそ!」
第3走者で1位に躍り出たのはA組を抜きC組。しかし差はかなり小さく激戦だ。
「綾音ちゃん!お願い!」
C組のバトンが第3走者からアンカー、綾音へ渡る。
「黄山さん!お願――」
A組のバトンが玖瑠未へ―――
「っ!」
「おっとぉぉぉ!!A組ここでまさかのバトンミス!!バトンを落としてしまいました!!」
A組がバトンを落とした。さらに不運なことに第3走者の子の足に当たってしまい、バトンは少し後ろの方へと蹴りだされてしまった。
第3走者の子は急いで取りに行く。
その間に他のクラスに追い抜かれ、玖瑠未にバトンが渡るころにはA組は最下位となっていた。
「玖瑠未・・・」
ふみが呟いた。
ふみも陽花里も言葉が出ずにいる。
こんな時こそ、俺が――
「玖瑠未ぃぃぃ!!いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
精一杯の声量で応援する。
玖瑠未はこういう時、決して諦めたりなんかしない。俺はそれくらい知っている。
「おっと!?A組ぃぃ!!速い速い!!!!圧倒的な速さでミスを取り返していきます!!」
(ここでくるみが頑張んなきゃ!!少しでもクラスのために何か貢献しなくちゃ!!諦めるもんか!!)
「いいぞ!!その調子だ!!」
玖瑠未が爆速で追いかける。
恐らく俺の声は届いていないだろう。こういう時に発揮されるあいつの集中力と言うのは人間離れしている。
届かないと分かっていても、俺は大きな声で応援を続ける。
「いけぇぇぇ!!玖瑠未ーーー!綾音も頑張れ!!」
兄たるもの妹の応援も欠かさない。ちなみにシスコンではない。
「A組!あっという間に2位に躍り出ました!!」
(1位を・・・!クラスのために1位を取らなくちゃ!!1位を――)
「ゴォォォォォォル!!!1位はC組!!怒涛の追い上げを見せたA組でしたが、結果は2位!!しかしよく頑張りました!!」
安定した走りを見せたC組が勝利をもぎ取っていった。
玖瑠未が走り始めた時点で、すでにC組との差は30mほどついていた。
いくら玖瑠未が速いとはいえ、綾音も県では5本の指に入るほどの実力なので、流石に抜くのは厳しかったようだ。
しかし、あの状況でもまだいけるんじゃないかと思わせるばかりの玖瑠未の走り、実に見事だった。
「これで1年生女子クラス代表リレーを終わります。続いて1年生男子――」
大きな拍手が起こる。おそらく、主にはあの追い上げを見せたA組、玖瑠未に向けてだろう。
俺も誰にも負けないくらい力強く、大きな拍手を送った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これを持ちまして、第46回、体育祭を終了します!」
高校2年生の体育祭が終わった。
俺たち2年B組は何とか優勝できた。
1年生は綾音、いちごのいるC組が優勝し、玖瑠未のいるA組は準優勝だった。
閉会式の後、玖瑠未と話をしようとしたが、玖瑠未の姿はどこにも見当たらなかった。
学級委員の俺は先生に頼み込まれ、やむなく片付け、後夜祭の準備を手伝わされていた。
うちの学校では体育祭、文化祭の後は後夜祭と言うのが開催される。
夜のため参加は自由だが、大半の生徒は参加する人気行事だ。
「この椅子は・・・って、この椅子図書室のじゃないですか。虹岡先生、これ外持ってきてよかったんですか?」
「いつからそれが図書室の椅子だと錯覚していた・・・?」
「錯覚も何も、椅子の後ろに書いてありますけど・・・。図書室って。」
「まったく、勘のいい生徒は嫌いだよ。」
「虹岡先生、言いたいだけでしょ。」
「ジュース奢るから、静かにこっそり戻しといてくれ。」
生徒をジュースで釣るな。
でも悪くない取引だ。乗ってあげましょう。
「わかりました。じゃあ、後夜祭の時頼みます。」
「お前が物分かりのいい生徒で助かった。じゃあ頼むな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここに戻せばよし、と。」
俺は図書室の元あった場所に椅子を戻す。もちろんしっかり拭いてだ。
よし、まだ仕事もあるみたいだし、もう戻るか。
ガタッ!
大きな物音がする。
さらにヒーッ、ヒーッと声のようなものが聞こえる。
体育祭の日に図書室に誰かがいるはずがない。
も、もしかしてお化け?
「いやいやいや、お化けなんてないさ、お化けなんて嘘さ。そうそういるわけない。」
しかし、こういうのは少し確かめてみたくなるのが俺、黒川駿なのだ。
「べ、別におばけ怖くないけどね!勘違いしないでよね!?」
何故かツンデレっぽくなってしまった。
俺は音のなった方へ近づいてみる。
声のようなものが大きくなる。
そして棚の後ろに何かが――
「わっ!お、おばばばばばば・・・!」
「っ!せ、先輩・・・?」
「へ?く、玖瑠未?」。
いたのはお化け――などではなく、玖瑠未だった。
「お、お前どうしてここに?」
「しゅ、駿先輩こそ・・・ってか、今顔見ちゃダメです!」
「あ、ああ、ごめんごめん・・・!」
なぜ彼女が顔を見られたくなかったのか。そんなの一瞬で分かった。
泣いていたのだ。この図書室でただ一人。
恐らく、あのバトンミスを気にしているんだろう。
あれは事故で、だれも責任なんてないのだ。
「リレー。見てたぞ。やっぱ玖瑠未速いな。」
「でも、くるみ、バトン落としちゃって。みんなに迷惑かけちゃって・・・。いつも何も出来ないから、こう、いうときくらい、はって・・・ぐすっ・・・。すみません、みっともないとこを。」
「みっともないってバトンを落としたことか?それとも今の泣いてる姿のことか?」
「両方です・・・」
励まし方なんてわからない。
だから俺は思っていることをそのまま伝える。
「馬鹿だなお前は。何もみっともなくない。あそこから追い返す姿、凄い感動したぞ。それで今泣いてるのはそれほど頑張った証拠だろ?最高にかっこいいじゃん。」
「でも、1位は逃しちゃいましたし・・・。1位じゃなきゃ、意味ないんです・・・。結果が全てですから。」
「ホントに大馬鹿だ。」
「え?」
「確かに結果が大事なこともあるだろう。けど一番大事なのは結果じゃなくて過程じゃないか?そこに至るまで努力したこと、時間をかけたこと。俺は過程がしっかり充実してれば、それでいいと思うぜ。てか、結果ばっか追い求めるって大事なもの見落としそうな気がするし、何よりそんなの楽しくなくないか?」
「楽しい・・・?」
「そうだ。人生は一回きり。辛いより楽しい時間過ごそうぜ。だから、その、なんだ?この前、俺が何しちゃったのか、お前を泣かした原因は何なのか教えてくれないか・・・?俺は、お前と楽しい時間過ごしたいしよ・・・」
「先輩・・・」
「・・・んふふふふっ」
玖瑠未がいきなり笑いだす。
「?」
「駿先輩。くるみその理論好きですよ。結果より過程重視。結果ばかり気にしてちゃ楽しくないから。よくよく考えると言い訳理論にも捉えられますが・・・。まあ、そう考えると、もちろん悔しいですけど2位でもこんなに落ち込むこと、これから少なくなるかもです。でも、2位じゃ絶対嫌な事、1位じゃなきゃ嫌なことが一つあるんです。駿先輩、なんだかわかりますか?」
「ん?なんだろな。わかんない降参。」
「はやっ。降参速すぎますよ先輩。もっと考えてくれてもいいのに。」
「馬鹿め。敏感な男っていうのは諦めが早いんだよ。取捨選択が上手いんだ。」
「ふふっ。馬鹿なのは駿先輩ですよ。」
「俺は馬鹿じゃない。ただ敏感すぎるだ―――」
ギュッ。
くるみが抱き着く。
「へ!?ちょ、おま、な、何だよ・・・!!」
「駿先輩、一回しか言わないからよーーーーーく聴いてくださいね・・・」
「駿先輩、好きです。」
第30話 体育祭がゆえに青春謳歌。 リレー編
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