第24話 体調不良がゆえにお見舞いに行く。
これは少し遡った、土曜日のこと。
「お兄ちゃん、今、暇?」
「忙しい。」
「ラノベ読んでるだけじゃん。」
「馬鹿め。だから忙しいんだよ。」
「ラノベばっか読んでないで・・・っと、よいしょ。」
綾音がラノベを取り上げる。
「おい返せよ。今いいとこなんだ。」
「えーなになに?『ツンデレお嬢様は素直になりたい。』?またラブコメ?好きだねー。」
「いいか妹よ!男だって、キュンキュンしたいんだ!」
「うっ・・・、お兄ちゃん、私以外の女の子の前では言わない方が良いかもね。キモいから・・・」
「キモっ・・・」
兄は普通に傷つきました。
「そ、それで、何か用なのか・・・?買い物とか?」
「んー買い物と言えば買い物かな。」
「どういう意味だ?」
「まあまあ、それは後からのお楽しみだよ。とりあえず身支度してきて。」
「はあ、わかったよ。」
妹の頼みだ。兄である以上断るわけにはいかない。
ちなみにシスコンじゃないぞ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「言われたもの買ってきたぞ。」
「お疲れ様。私も買い物終わったから、次の目的地に行こっか!」
「次の目的地?それとこの材料。何作るんだ?」
米と卵とねぎとその他調味料が少々。
夕ご飯にしては随分質素だし、量も1人前だけ。
「次の目的地に行けばわかることだから。とりあえず、私についてきて。」
これはどれだけしつこく聞いても答えてくれなさそうだ。
「はいはい、わかったよ。」
言われるがままに俺は綾音について行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
電車で10分ほど。そして駅から5分ほど歩いたところ。
「着いたよ。ここが目的地。」
「ここ?マンション?」
全く身に覚えのない、初めて来るマンションだ。
しかもなかなかお高そうなマンション。
「そうマンション。とりあえず中入ろ。」
「おいちょっと待て。もうここまで来たら教えてくれよ。何のためにここに来て、そしてここはどこなんだ?」
目的も場所の詳細も知らされず、このまま中に入っていくのは何かモヤッとするというか腑に落ちないというか。
単純に気になる。
「もうすぐしたらわかるよ。まあ、嫌な事ではないかな?」
俺たちはエレベータに乗り、マンションの最上階に来た。
綾音は最上階の一部屋のインターフォンを押す。
ピンポーン。
「はーい・・」
女子の声?少し元気がない。聞いたことあるような声だが、パッと出てこない。
「黒川綾音でーす!来たよー!」
まるで友達と話すような口調で綾音が話――――
ガチャ。
「わざわざありがとね、あか・・・って、えっ?」
「え?」
「ようこそお兄ちゃん!青山家へ!」
「「えええええええええええええ!?」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっと綾音どういうこと?!なんでこいつがいるのよ!」
「まあまあいいじゃんいいじゃん。てか、風邪ひいたらお見舞い来てって言ってたのいちごだよ?」
「あ、あれは言葉のあやというか、その場の空気でというかで言っちゃっただけだし!」
「あれれ~ほんとかな~?」
綾音がいちごの耳元でポツリ。
「じゃあ、お兄ちゃん帰らせちゃうよ?」
「え?」
綾音がなんて言ったかは聞こえなかったが、いちごが一瞬悲しそうな顔をしたような気がした。
「べ、別にいいわよ・・・!」
「へぇ、じゃあ・・・お兄ちゃん!もうか―――」
「あ!ちょっとあんた!のど乾いたわ!ちょっとお茶持ってきて!」
「あ、ああ、わかった。冷蔵庫開けさせてもらうぞ。」
「お構いなく!」
俺がお茶を取りに行ってる間にも、こしょこしょ何か話しているみたいだが、女子の内緒話の内容をいちいち聞くほど馬鹿じゃない。
俺がお茶を取りに戻ってくるときには、もう話は終わっていた。
「はい、お茶だ。」
「あ、ありがと・・・」
いちごがお茶一口飲む。
「いちご、熱はあるのか?」
「少し、ね・・。微熱程度よ。」
「微熱?」
とてもそうには見えない。顔は真っ赤で目もうつろだ。
ボーっとしている感じがする。
「強がってないか?どれどれ・・・」
いちごの額に手を当てる。
「ひゃっ、ちょっと・・・」
「体温計が見当たらなかったから・・・ってすごい熱いじゃねえか!微熱なんてものじゃないだろ!」
いちごの額はどんどん熱くなっていく。
「ひゃー・・・ひゃー・・・」
気づくといちごの意識がない。変な声も上げている。
やはり高熱のせいだろうか。
「いちご大丈夫か?しっかりしろ!」
「はあ、お兄ちゃんのアホ・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いちごが倒れてから3時間ほど経った。
俺と綾音は看病を続けていた。
「んんっ・・・」
「いちご?」
いちごが声を上げた。
「んっ・・・、って、あれ、私、何を・・・」
「ああ、お前、高熱で意識なくなったんだよ。良かった、目覚ましてくれて。」
「そうだったの・・・?全然覚えてない・・・って、あっ。」
「ん?どうした?」
「な、なんでもないわよ!」
(何で倒れたのか心当たりが・・・。いや、あくまで可能性よ!)
「そっか。何はともあれ、熱も下がってきてるみたいで良かったよ。」
「あれ、もしかして、看病してくれてたの・・・?」
「当たり前だろ。そのために来たんだから。」
まあ、来た理由を知ったのは部屋に入ってからだが。
「そ、そ・・・。ありがとね・・・」
「礼ならいいよ。それより早く元気になってくれ。」
「ふ、ふん、言われなくても・・・」
「ならいい。というか、親御さんいつ帰ってくるんだ?それまではいるつもりだけど・・・」
「親?帰ってこないわよ?」
帰ってこない?
「あれ、お兄ちゃん。言ってなかったっけ?」
「何を?」
「私、一人暮らしよ?」
「へ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いちごの両親は、海外のなかなかビッグな会社の偉いさんで、現在、その海外で働いているらしい。
いちごは海外に興味はないため、一人日本に残り暮らしているという。
高校生で一人暮らしとは、そんな奴が身近にいたなんて。
「そうだったのか。じゃあお前、一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。そんな心配しなくてもいいわ。」
「そう言われてもな・・・」
(あっはー・・・これはいける・・・!!)
「お兄ちゃん。」
「何だ妹よ。」
「そんなに心配なら、今日はずっといちごの傍にいてあげたら?」
「え?」
「だから、いちごの家に泊まって行けば?」
「何を言っとるんだお前はああああああああああ!!」
「そ、そうよ!てか、何で綾音が決めてるのよ!ここ私の家なのに!」
ここまで妹があほだとは思はなかった。
今回の中間テスト、こいつ大丈夫なのか?お兄ちゃんガッカリだ。
※この後、負けます。
また綾音がいちごの傍に寄り、何か話す。
「お兄ちゃん帰っちゃっていいの?この機会をものにして、お兄ちゃんとの仲を深められるんだよ?しかも誰にも邪魔されず、二人っきりで。」
「ひゃっ!て、てか、別にあいつのことなんてなんとも思ってないし!でもまあ?そこまで言うなら?別に私は望んでないけど、どうしても私が心配と思うなら、特別に居てもいいわ・・・!し、仕方なくよ!仕方なく!」」
「だとのことですお兄ちゃん。」
「え・・・ほんとにいいのか?いちご・・・」
「だから!いいって言ってるでしょ!また倒れた時に誰もいなかったら、私も困るし。別に好きでいてもらうわけじゃないってことだけ覚えといて!」
「どうするの、お兄ちゃん?」
いちごと再び二人っきりで一夜を共に過ごすというのはかなり恥ずかしい。
しかし、また意識を失ったらと考えると・・・。
「わ、わかった・・・。今日はここにいさせてもらうよ・・・」
「じゃあ決まりだねお兄ちゃん!パパとママには言っとくから大丈夫だよ!それじゃあ!いちごー!お邪魔しましたー!」
「おいあや・・・」
バタンッ。鬼のスピードで妹帰宅。
あいつの行動は敏感な俺でも読み取ることができない。
なにせ馬鹿だからな。
※この後、負けます。
さてこれからどうしたものやら。
俺といちごの二度目の夜が幕を開ける。
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