第21話 妹のいたずらがゆえに美女と二人で一夜を過ごす。

「じゃあ、いきますよー?」

「「「「「いっせーのーで!!!!!」」」」」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃあ、お兄ちゃん、おやすみ・・・」

「ああ、おやすみ・・・」

(私の予想外・・・。まさか、低確率の方が当たるとはね・・・)

がちゃ。

「はあ・・・ホント最悪。なんであんたと一緒に寝なきゃなんないのよ・・・」

「悪かったよ・・・」

くじ引きの結果、俺が今日一緒に寝ることになったのは、青山いちごとなった。

そもそもこれを計画したのはうちの妹なわけで、俺が責められる義理はない。

「俺はこっちの床で寝るから、お前はベッド使っていいぞ。」

「え・・・。いいわよそんな。あんたが使いなさい。」

変なところは行儀が良い。

てか、あんた呼び辞めるんじゃなかったのか。別にどっちでもいいが。

「だからいいって。お前は女で、俺は男だ。レディーファーストというやつだ。」

「あんたって彼女とデートしたら、全部俺が奢るって思ってるタイプね。」

「まあ、金額によるけど、大体は男が奢るものだろ?彼女いたことないからわかんないけど。」

「男が奢るとかそういうの嫌いなんだよね。奢られる気満々の女はもっと嫌い。私、平等主義者だから。」

「へえ、お前結構良いこと言うんだな。そういう気持ち、男からしたらすごい嬉しいぞ。」

「別にあんたに言ったわけじゃないわ。そういうわけだから、遠慮とか気遣いとか、そういうのしなくていいから。」

「わかったよ。じゃあ、正々堂々とじゃんけんで床かベッドか決めようか。」

「まあ、それなら構わないわ。」

気遣い無用と言われても、はいじゃあ床で寝てくださいというのはどうにも気が引ける。

これはせめてものあがきだ。

これでもしいちごのやつが床になっても、もう神様の決めたことなのだと思ってしまおう。

「じゃあ、いくぞ。じゃーんけん、ぽん。」

俺、グー。

いちご、パー。

「あっ、勝っちゃった・・・。じゃあ、使わせてもらうわね。その、ありがと。」

「お礼はいらねえよ。ただ俺はじゃんけんに負けただけだ。」

「少しはかっこいいとこあるのね。」ボソッ

「え?」

「あっ!違う!なんでもない!」

「お前今、『少しはかっこいいとこあるのね。』って言っただろ。」

鈍感主人公なら聞き逃すんだろうが、俺は敏感だ。

ボソッと言ってもある程度聞こえる。

「妹から聞いてたけどホントに変なとこ敏感なのね・・・。ってか勘違いしないで!これは、そう!あんたの部屋のことよ!少しはかっこいいなって思っただけだから!」

「へえ、そっかそっか。」

「な、なによ・・・?」

敏感な俺にはわかる。これは誤魔化しだ。

「ほ、ホントのこと言ってるから!」

「うんうん。わかってるよ。」

お前がホントに言いたいことくらいわかるぞ。


お前がホントに言いたいのは、この部屋の匂い、だろ?

今日、綾音が『イケッシュ~かっこいい香り~』をシュッとしてくれていたからな。

まあ、かっこいい匂いって何だと思うが、女性ホルモンが反応するんだろう。多分。

「ぐぬぬ・・・。絶対信じてない顔してるのがむかつく・・・。もういい!眠いから寝る!」

「そっか。じゃあ、おやすみ。」


明日も勉強会だし、今日はもうゆっくり休むのが一番だ。

実はコンタクトな俺は、コンタクトを外し、床に敷いた敷布団に寝転がる。

いつもより早く布団に入ったものだから、少し寝付けない。

お休み宣言から15分ほどたった時。

「ねえ、まだ起きてる?」

いちごの声だ。

「ん?ああ、起きてるぞ。」

「私、いつも寝る時間もう少し遅いから、なかなか寝付けなくて。」

「奇遇だな。俺もだ。」

「私、友達と遊んだことはあるけど、こうやってお泊りするのは初めてだから、すごく楽しい。」

「いちごと綾音は元からお泊りの予定だったのか?」

「うん。今日の朝いきなり言ってきてさ。なんで当日言うのてって言ったら、計画してたのはもっと前からだからとか言っちゃてさ。」

「うちの馬鹿妹がホント申し訳ございません。」


~綾音の部屋~

「はっくしょん!むにゃむにゃ・・・、お兄ちゃん・・・」

「!?な、何事・・・!?」

綾音のくしゃみでびっくりした白谷陽花里であった。


「あはは。全然いいのよ。そういうの含めて私は綾音が好きだから。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。というか、お前ら性格真反対だけど、どうやって仲良くなったんだ?」

「そう?性格真反対かな?」

「性格というか、あいつはばかで、お前は秀才、ってとこかな。」

「そうね。でもそう言われてみれば、あんまり覚えてないわね・・・。気が付けば一緒にいたっていうか。」

まあ、友達なんて気が付くと出来てるし、仲良くなってるものだ。

思い返せば、俺も裕二と仲良くなったきっかけは覚えていない。

「でも、一つ言えるのは、あの子といると安心感があるのよね。いつも元気ではっちゃけてて、悩みとあってもあの子見てたら悩んでるのが馬鹿らしくなるのよね。」

「それはかなり共感できるな。というか、お前にも悩みとかあるんだな。」

「何よそれ。あるわよ悩みくらい。」

「いや、お前、容姿端麗で頭も良いから、生きてて楽しそうだなと思ってよ。」

「っ!あ、あんたよくそんな恥ずかしいことが言えるわね・・・。まあ、ありがと・・・」

少し沈黙。


「でも楽しいことばかりじゃないの。私ってほら、きつい性格でしょ?特に異性にはきつく当たっちゃうのよね。ツンデレってやつらしいわ。でもそのツンデレの人気があるのは二次元の世界だけでしょ。リアルではただのめんどくさいやつなのよ。自分のこの性格、あんま好きじゃなくて・・・」

「そっか?俺は好きだぞ、ツンデレ。」

「なっ!ば、馬鹿じゃないの!」

「馬鹿じゃねえよ。なかなか素直になれない感じが良いんだよ。リアルでも好きな奴は結構いると思うぞ。」

「へ、変な奴もいるのね・・・」

「変でもないだろ。お前、告白されたことないのか?」

「まあ、0じゃないけど・・・」

「ほらな、いるじゃん。だからそんな悩むな。ありのままのいちごでいればいいんだよ。」

「ありのまま・・・」

「そうだ。お前は俺に気を遣うなと言った。だからお前も俺に気を遣うな。平等主義者、なんだろ?」

「べ、別に、あんたに言われなくてもあんたなんかに気なんか遣わないし!ばーか!」

「い、一応は先輩なんだけどな・・・」

「うるさーい!今度こそもう寝る!おやすみ!」

「はいはい。おやすみ。」

そう、ありのままでいいのだ。

他人のためにこうであろう。他人に合わせよう。

それで悩むなら、そんなことはしなければいい。自分に嘘はつかなくていい。

それこそほんとの馬鹿だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ねえ、ねえ。」

「ん・・・?」

「ちょっとトイレ行きたいんだけど、ついてきてくれない?べ、別に怖いとかじゃないから!」

「ん・・・?怖い?ああ、綾音か・・・」

「違うわよ!私よ!いちご!!」

「そっかまた怖い夢見たんだな・・・。大丈夫。兄であるこの黒川駿がいるから。」

「何寝ぼけてんの?だから、綾音じゃない――ってきゃっ!」

「もう大丈夫だ。俺と一緒に寝ような・・・。ぐぅ・・・」

「え!ちょっと!!ちがっ!ってか近すぎ!」

(すぐそばに顔が・・・!めっちゃ密着してるし、ぎゅってされてるし・・・!)

「ちょっと、ねえ、ね、寝っちゃったの・・・?」

(やばいやばい。ドキドキがすごい・・・。別にこいつのことなんか好きじゃないのに・・・!男の人とこんなにくっつくの初めてだから、緊張してるのよね・・・!よく見たらこいつもなかなかにかっこい・・・じゃなくて!このままじゃドキドキがやばい。でも、不思議と安心感がある。当たり前だけど、やっぱ兄妹なんだね。なんだかトイレ行きたい気持ちも引いて、また、眠く・・・)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


コンコン。

「お兄ちゃん?まだ寝てるのー?」

コンコン。

「お兄ちゃーん。入るよー?」

ガチャっ。

「お兄ちゃんってばもういつまで寝て―――」


「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!」

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