第10話 スポーツテストがゆえにまたもや修羅場になった。中編
立ち幅跳びと反復横跳びで争っていたふみと白谷さん。
結局二人の意見とは違う長座体前屈に行くことにした。
俺はどちらの味方にもなりたくない。
その味方とならなかったもう片方に●られそうだからだ。
しかし、さらにこの後、恐ろしい修羅場が待っているとは、この時は知る由もなかった。
長座体前屈の会場は体育館2階。
体育館2階では他にも、立ち幅跳び、反復横跳びがあるのでこれが終わった後また喧嘩となりそうだ。
とりあえず、今は長座体前屈。
そうなったらその時考えよう。
「ふみ、勝負しよ。負けないから。」
「いいけど、負けても文句言わないでね?」
いやすでに喧嘩していた。
「よしじゃあ勝った方が・・・」
ふみが白谷さんに内緒話をする。
「勝った方が、このスポーツテスト、駿と二人っきりで回るってのでどう?」
「二人っきり・・・。うん。それでいいよ。」
二人ともやけに燃えているようだが、賞品は何なのだろう。
「じゃあ、次の人。おぬしの番です。」
「あ、はい。お願いします」
俺の番だ。この人絶対おぬ番観てたな。
俺は体が固い。鬼のように固い。
「黒川さん、33センチね。」
「ありがとうございました。」
(33って・・・)
測定器は3つあるので横2つではふみと白谷さんによるデッドヒートが繰り広げられていた。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!な、なかなかやるじゃん陽花里・・・!」
「んんっ・・・。ふ、ふみこそ・・・!」
二人ともさすが女子。柔らかい。
「赤海さん、お疲れさまでした。」
「白谷さん、お疲れさまでした。」
ほぼ同時に終了。
「よし、じゃあ、結果発表ね・・・。」
「じゃあ、せーので言おう・・・。」
「「せーの!」」
「「65!!」」
まさかの引き分け。てか普通にすごい。俺の体の硬さに落ち込む。
「ふ、ふん、なかなかやるじゃん・・・!」
「そ、そっちこそ・・・」
「「なら、次の勝負は・・・」」
「反復横跳び!」
「立ち幅跳び!」
あ、自分の体の硬さに落ち込んでいたら忘れてた。
どうしよう、また始まった。
反復横軍大将『赤海』VS立幅軍大将『白谷』の跳躍戦争。
正直どっちでもいいじゃん。早く誰かこの戦争を終わらせに来てくれよ。
俺が困っていると、というか呆れていると、いきなり後ろから誰かに腕をひかれ、体育館外に連れ出される。
「おわっ!ちょ、だ・・・」
聞く前に顔を見ればわかった。
「黒川先輩大丈夫でしたか?」
1つ下の後輩、黄山玖瑠未だ。
「長座体前屈終えて、次何しよっかなって考えてたら、黒川先輩見つけて。白谷先輩と女の子が喧嘩してて、黒川先輩困ってたように見えたのでつい連れてきちゃいました。」
「ありがとう。助かったよ。」
「迷惑かなとも思っちゃいましたけど、そういってもらえてよかったです。」
ニッコリ笑顔。相変わらず、あざと可愛い。
「迷惑なんかじゃないよ。いやマジで助かった。」
「というーか、先輩、モテモテですね。あの二人、黒川先輩を取り合ってたんでしょ?」
「いや違う。あれは次の種目でもめてるんだ。」
「あ、そうなんですか。でも黒川先輩と行動共にしてるってことは、多少なりとも好きってことなんじゃないんですか?」
「俺もそう期待しかけたんだけどな。どうやら違うらしい。」
「へー、やっぱり白谷先輩の言う通りなんだ・・・」ボソッ。
「ん?どういう通り?」
「あっ、いえ、何でもないですよ。」
(ふつう今のは『なんだって?』って言って聞いてないパターンでしょ・・・。やっぱり白谷先輩の言う通りだ。変なところに敏感で、恋愛面ではその敏感さはズレてるって。)
「あ、そうだ先輩。あの、よかったらなんですけど。」
「なんだ?」
「よかったら、一緒に回りませんか?」
敏感なおれは「なんで?」なんて聞くのは野暮だということくらい気づく。見た感じ黄山は一人行動してたのだろう。
体育館内のふみと白谷さんを念のため確認する。
腕相撲で勝負していた。
うん、あいつらあほだ。
「いいよ、一緒に行こうか。」
「はい!」
また満面の笑み。あざとさも入っているのだろうけど、やっぱり彼女の笑顔はすごくかわいらしい。
「あ、くるみ、ハンドボール投げ行きたいです!」
「よし、じゃそれにしよう。俺もまだしてない種目だし。」
「じゃあ、行きましょう!」
そういって、黄山は俺の手を引いて駆け出した。
「おい、いい加減手を放せ。恋人と誤解される。」
「えー、いいじゃないですかぁ。黒川先輩は私と誤解されるの嫌ですか?」
上目遣い。やめろ。むしろ誤解されたいぜ!とか勢いで言ってしまいそうなくらい可愛い。
落ちつけ俺。
「そ、そういう問題じゃない。あと普通に恥ずかしい。」
「くるみは平気ですよ?」
(は?平気?こいつは俺と恋人と誤解されても平気なのか?ってことは、他に好きな人がいないor俺のことが好きのどちらかになるのでは・・・?)
「へ、へえー、黄山は好きな人いないの?」
さりげなく聞けた、よな?
「うーん、いませんよ。」
「あ、そ、そうなのか。」
(あぶねえ・・・。危うく俺のこと好きなのかと勘違いするとこだった・・・)
(まあ、黒川先輩はあくまで気になる人だから、嘘じゃないもんね・・・)
「じゃあ、ハンドボール投げで私に勝ったら離してあげます。点数勝負で。」
「よし、ならそれでいい。」
俺は中学の時バスケ部だった。だから自分の肩には多少なりと自信はある。
「おりゃあああああああああ!!」
「30m!」
「おお、黒川先輩すごーい!」
「ふん、俺の勝ちかもな。」
「さあ、どうでしょうね。」
なんだその余裕の笑み。いや怖気るな。
2回目。これに俺のすべてをかける。
「どりやあああああああああああ!!」
「32m!」
(よし、8点だ。この勝負もらった。)
「さあ、次は黄山だ。」
「よーし、頑張りますね!」
さっきの余裕の笑み。こいつもしかしてただものじゃないのか?
「おりゃ!」
「7m」
(それは肩弱すぎだろおおおお!!!!)
笑っちゃだめだ。黄山も頑張ってるんだ。堪えろ。
「き、黄山、がんばれ・・・ぷっ・・・」
「はい!がんばります!」
可愛い記録をしかと見届けるか。
投げる直前、黄山が奇妙な笑みを浮かべた。気がした。
「おりゃああ!」
そのハンドボールは1回目の時とは比べ物にならないスピードと高さでぶん投げられていた。
「へ?」
思わず声が裏返る。
「24m!」
24m・・・?それって・・・。
「やったー!10点だ!」
「おま、1回目の・・・」
「ああ、あれですか。7mしか投げられないくるみ可愛いって思ってくれるかなって。」
思ってしまった俺が悔しい。そういえばこいつ、そんなやつだったな。
「それにしても、24mはすごいな・・・」
「昔から家族が野球好きで、よくキャッチボールとかするんです。だから方強くなっちゃって。」
「それでもすげえよ。10点なんて俺とったことないもん。」
「そんなに褒められると照れちゃいますよ。」
もじもじしている。これは演技なのか?それともリアルになのか?
「じゃあ黒川先輩、手。」
「あっ。」
そういえば。約束だから仕方ない。
俺が手を差し出そうとしたとき。
「やっぱ黒川先輩照れすぎだから、くるみが勝手に腕にしがみついてるだけでいいですよ。それだと私が一方的にそうして見えますし。」
そっちのほうが距離感が近くて恥ずかしいのだが、手をつなぐでいいよなんて恥ずかしくて自発的に言えない。それも計算のうちなのだろうか。
黄山が俺の腕にしがみつく。
「じゃあ、黒川先輩、次はどこにします?」
「そ、そうだな。空いてるやつにしようか・・・」
「じゃあ、どこが空いてるか見て回りましょ!」
(もう黒川先輩ってば緊張して・・・、私のだってこんなことしてドキドキなんですからね?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃、体育館2階。
「ぐぬぬ・・、なかなかやるじゃん、陽花里・・・」
「ふみこそね・・・」
腕相撲真っ最中の二人。
どちらに傾くことなく、均衡状態が続いている。
「あれ、てか、駿は・・・?」
「え?黒川くんならそこに、ってあれ・・・?」
「駿が・・・」
「黒川くんが・・・」
「「消えた!!」」
腕相撲中断。黒川駿探しの旅へと出発する。
そしてこれから更なる修羅場へと発展する―――
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