第9話 スポーツテストがゆえにまたもや修羅場になった。前編
スポーツテスト。
新学年になると行われる、我々の身体能力を調べ、AからEの5段階で評価される文部科学省が課しているテストである。
正直、スポーツテストは嫌いじゃない。
うちの学校は1~4時間目までスポーツテストで4時間目が終われば放課となるからだ。
昼食後、HRを行い、部活に行くやつは部活となる。今は部活見学期間だから、部活をしてるやつらは必死に勧誘している。
まあ俺は帰宅部だから関係ないが。
「おう駿!スポーツテスト勝負しようぜ!」
「裕二・・・。いいけど、どうせ勝つのはお前だよ。」
裕二は毎回スポーツテストはA判定で、どの種目も8点以上取っている。
いわゆる化け物だ。
「わかんねえじゃねえか!じゃ、負けたらジュースおごりな!」
「はあ・・・。今のうちジュースわたそっかな・・・」
裕二に悪気なんて毛頭ない。
友達として、親友として、俺と何か勝負をしたくて、バカをしたくて勝負を仕掛けてくれている。
「あ、そうだ裕二。今年も一緒に回るよな?」
「あー・・・、それなんだけどな・・・」
毎年こういった行事は裕二と一緒に回っている。のだが。
「ん?どうした裕二?」
様子がおかしい。
「おはよーーー!駿に裕二!!」
ふみだ。俺は挨拶をする。
「ああ、おはようふみ。」
「あれー?裕二、何でここにいるの?」
「なんでって、裕二は俺と回るからに決まってるだろ。毎年そうなんだから、ふみもそれくらい知ってるだろ。」
「へえ、裕二。今年も一緒に回るのかな?」
ふみが裕二に近寄る。
「ひい!い、いや。お、俺、こ、今年は、先客いるから、断ろうとしてたところ、です。」
なぜ敬語なんだ。
「そっかあ、それは残念ね。」
てかそれなら、
「そっか。じゃあ俺は適当に友達捕まえて回ってるよ。」
「そうそう、だから私と――って、え!?なんでそうなるの!?」
「いや、一人はさみしいだろ。」
一人で回るなんて孤独すぎる。
ふみが駿のほうをちらちら見る。
「あ、ああ~。もうみんな出ちゃってるみたいだし、お二人さんで回れば・・・?」
「よし・・・。う~ん、それもそうね。みんないないし、裕二が言うんだから私と回ろうよ!いいよね駿!」
「ま、まあ、別にいいけど。」
裕二の提案なら断る理由もない。
「じゃあ、お、俺もう行くから、駿、ふみと仲良くやるんだぞ。」
「おう、じゃあな。」
裕二がダッシュでこの場から去る。きっとその先客を待たせてるのだろう。
「じゃあ、駿。行こっか。」
「ああ、そうだな。」
今年は彼女を作るためにも、ふみといる時間を少し減らさなきゃと思ってたんだけど、今までよりふみと一緒にいる時間が長くなっている。
というか、ふみが例年以上に近い気がする。
もしかして、ふみって俺のこと・・・。
「今日駿が遅刻して、ぎりぎりになっちゃったから誰とも約束できなかったんだからね。だから責任は取ってもらうから。」
そういうことか。やはりリトルシュンの言う通りっぽい。
もしかしての気持ちを抹消し、第1種目に向かう。
俺たちの第1種目は握力。
「ねえ駿、握力20超えたらジュース奢ってね。」
「何でだよ。」
「何でもだよ。」
どうやら否定権はないらしい。
「ぐっ・・・、はぁ・・・。やった26だ!ジュースだね。」
楽々じゃねえか。
「じゃあ、俺も30超えたらジュースな。ぐっ・・・。」
「ダメだよ。60超えなきゃ。」
「はぁ・・・、43だ・・・。てかおい、60とか超人すぎるから。」
記録シートへ記入する。
「超人になってくれたらいいじゃん。」
「無理言うな。」
いつもみたいな会話を続けていた。
だいたいこういう時なら、「無理したらいいんだよ。」的な言葉が返ってくるのだが、おかしい。
記録シートを記入し終え、ふみのほうを見ると、ふみは睨み合って、いや、威嚇しあっていた。
相手は、白谷さんだ。
握力測定を行っていた体育館1階に入ってこようとしていた白谷さんと、測定を終え、ここから出ようとしていたふみが衝突している。
やっぱり仲が悪いみたいだ。
「なにふみが黒川くんと回ってるの?」
「別にいいじゃない。仲良しなんだから。陽花里よりね。」
そのくせに下の名前で呼び合うのか。
女子というのはよくわからない。
「ああ白谷さん。ちょうどお互い一人だったからさ。」
二人の間に割って入る。
「く、黒川くん・・・。そ、そうだったんだ。」
何とか仲裁をしようと試みるも、ふみが妨害する。
「まあでも、二人なのには変わりないけどね。」
何でそんなに煽るんだ。
というかそれ煽りのなるのか?
なるほど、わかったぞ。ぼっちじゃないアピールか。
でもそれも他の友達3人と一緒に来てる白谷さんに効くのか?
まあ、ふみがそう思うならそうなんだろう。ふみの中ではな・・・。
なんて心の中でふざけていると、
「むう・・・、ちょっと待ってて。」
そう言って白谷さんは一緒にいた友達3人のところに駆け寄り何か話す。
するとその友達3人が近寄ってきた。
「へえなるほどぉ、学級委員さんが陽花里の・・・」
「な、なんだ・・・?」
「わわわ、やめてよ!違うもん!違くはないけど・・・。と、とにかく、ごめんね。」
「いいのよ。じゃあ、楽しんでね。」
ニヤニヤ笑いながら、白谷さんの友達3人は離れていく。
「そういうわけだから・・・。私も、く、黒川くんと回りたいな・・・。」
「なっ。」
か、可愛い。顔を赤くして、恥じらいながら俺を誘ってくれている。
もしかして白谷さん俺のこと・・・。
「なによ、そうまでして私に嫌がらせしたいわけ?」
そういうことか。少し落ち込む。そうだよなそんなわけないよな。
第一、俺は敏感なんだ。
こんなあいまいな感じでなく、確信的にこの人は俺が好きなんだと感じ取れるはずだ。
「ふみに頼んでないし。黒川くんに頼んでるんだから。」
「あ、ああ、俺は全然良いよ。一緒に行こうか。」
「わああ・・・。うん・・・。」
ムキーッとふみが吠えているが気にしない。
放っておくと喧嘩するので、ふみ、俺、白谷さんの並びで行動することにした。
女子二人に囲まれるのはかなり恥ずかしいが、喧嘩ばかりされるよりはましだ。
過去に女子の喧嘩に巻き込まれて痛い思いをしたからな。
平和にさえいてくれればそれでいい。
「ねえ黒川くん。次は立ち幅跳び行こ。」
「いや駿。次は反復横跳び行こうよ。」
「立ち幅跳び!」
「反復横跳び!」
「「ぐぬぬぬぬぬぬ・・・・!」」
俺は先ほどの願いはかなわないと確信した。
そう、この確信こそが敏感男ならではの確信である。
ああ、これ平和でいられないやつだわ。
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