第8.5話 私の名前は白谷陽花里。
私の名前は白谷陽花里。
彼氏いない歴=年齢、恋愛経験ゼロ。
人見知りで消極的な性格のため、友達って言える人もいない。
幼稚園を卒園すると、私は親の都合で2つ隣の市まで引っ越した。
その市の幼稚園には友達も数人いたし、好きな人もいた。
その好きな人が忘れらいないがために、ここまで彼氏はできなかった。
でも、こんな何の魅力もない私に告白してくれた人もいた。
そんなすごくいい人だからこそ、お断りするのが申し訳なくて、断るたびに心が痛くなった。
中学生まで特に友達もできず、そのため勉強しかすることがなかった私は、県で一番偏差値の高い高校に進学できた。
将来の夢やら、目標やらがあったわけではなかったが、一番偏差値の高い学校に進学すれば、一番将来への選択肢があるから。
でも、私のその将来への選択肢は、将来の夢は、高校生活初日の入学式の日から、たった一つに絞られてしまった。
高校2年生。
こんな私でも話しかけてくれる人がいて、友達も少しできた。
新学年の一番の楽しみといったら、クラス替え。
不安も緊張もあったけど、やっぱり楽しみという感情が一番大きかった。
A組から順番に確認する。
A組にはない。私の名前。あの人のも。
B組 白谷陽花里
あった。私の名前。
「陽花里ちゃん!私たち一緒のクラスじゃん!やった!今年もよろしくね!」
一年生の時仲良くしてくれた子とも一緒のクラスだった。
もちろんとてもうれしかった。
でも、なによりも。
「1年の時はダメだったけど、今年は、同じクラスになれた・・・。頑張る・・・」
「え、陽花里。何を頑張るの?あっ、彼氏作るとか?共に頑張ろう、心の友よ!」
思わず声に出しちゃったけど、恥ずかしかったけど、この気持ちに嘘はつけない。
「うん、頑張ろうね。」
「陽花里~、抜け駆けするなよ~?」
「そっちこそ。」
どう距離を近づけようか悩んでいた。
あの人はかっこいいし、女子人気も高いから、ボーっとしてるとすぐ取られちゃいそうだ。
でも彼は裏では確かに女子人気は高かったが、彼女がいるという噂は一切なかった。
原因はすぐにわかった。ずっと隣にいる女。あいつのせいだ。
その女はかなり可愛かった。だからこそ、それに勝てる気のしない、彼のことが好きな異性は諦めるのだろう。
さらにはたから見たら、彼女は彼に好意があるのがまるわかりだ。
てか見てたらあの距離の近さに腹が立ってきた。
思わずシャー芯をぶん投げてしまった。
二人の間を裂くように。
でも、確かにかわいい。私なんかより全然。でも、諦めたくなんかなかった。
誰にも渡したくない。私の傍にいてほしい。
でも、そんな思いとは裏腹に、なかなか行動に移せない。
人見知りを、消極的な性格を、なかなか克服できないでいた。
係分担。
彼は学級委員になった。
さらに彼を遠くに感じた。
私は図書委員になった。昔から本が大好きだったから。
住む世界が違うのかな。諦めるしかないのかな。
弱気になっていたその時。
「先生、一枠余ってるんですが。」
「ああ、そういうことですか。なら僕が入っときますよ。」
「いえ、大丈夫ですよ。空いてるところに名前書いときますね。」
彼、二役やるんだ。
どこの係するんだろう。私と一緒だったらいいのにな。なんて。
そんな偶然あるわけもない。けどやっぱりほんのわずかに期待してる自分がいる。
(帰りに確認しておこ・・・)
放課後。
「陽花里ー!帰ろー!」
「うん。でもちょっと待って。」
「どした?」
お願いします神様。どうか彼と一緒の係にしてください。
今の自分を変えて、必ず彼との距離を縮めますから。
祈りながら係分担表を確認する。
私の隣に。彼の名前が―――――
「あった。」
嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまう。
うれし泣きしそうになったけどここで泣いたら変な人だ。堪えよう。
「どーしたの陽花里ー?帰ろうよー。」
「うん!」
自然と声がはねてしまう。
ありがとうございます。神様。
私、頑張ります。
図書委員会。久しぶりに彼と話せた。
緊張しちゃって、言葉詰まりまくりだったけど、会話できたからよし。
頑張った私。
けど、ここでもうひと頑張り。
彼と一緒に帰りたい。
ここが一番の頑張りどころだ。
勇気を出して誘った。うまく理由をつけて。
彼は快く了承してくれて、とても、とても嬉しかった。
帰り道、たくさん話せたし、私の気持ちも改めて再確認できた。
彼は昔のことを覚えていないみたいだけど、今こうして彼と話せてる。一緒に帰れてる。それだけでいいんだ。
別れ際、あの女に邪魔されたけど、今日は彼を独り占めできたことに優越感を得ていた。
あと、家が向かい合わせなんて知らなかった。
苗字が一緒だったからもしかしてとは思ったけど、そのまさかだった。
その日は彼と一緒に過ごせて、いろいろ良いことが知れて、とても幸せな日だった。
今日は彼と一緒にお仕事だ。
緊張のせいでお手洗いに行きたくなり、彼には先に図書室に向かってもらうようにした。
一緒に行きたかったのに、私の馬鹿。
図書室でこのいっしょに行けなかった時間を取り戻すくらい急接近してやる。
急いで済ませて出ると、廊下の奥のほうに彼がいた。
それと、隣に女生徒。
気づけば全力ダッシュで近寄り、彼とその女の間に割り込んでいた。
ほっとくとすぐ隣に女がいるんだからこの男は。
その女は図書室に案内してほしかったらしく、彼に案内してもらうところだった。
会ったばかりなのに、図書室に案内してもらうだけなのに、彼とその女の距離は私よりも近く感じた。
悔しくて思わずらしくないことをしてしまった。私は彼の腕にしがみついた。
彼は誰にも渡したくない。それくらい本気なんだ。
図書室についても女は彼との距離が近く、私はもやもやしっぱなしだった。
でもまあ表情を見るに、軽い話ではなさそうだったから、邪魔はしなかった。
しばらく彼と話していた女は私のほうに駆け寄ってきて、小声で話しかけてきた。
「ねえ、白谷先輩って黒川先輩のこと好きなんですか?」
「べ、別にそんなんじゃないし!」
思わず大きな声で否定してしまった。
彼の近くだし、まだ思いを伝えるには距離が遠すぎるし。
「じゃあ、私がもらっちゃおっかなー。」
「え?」
耳を疑った。
「なんちゃって。会ってすぐ好きになんかなりませんよ。」
ホッと安心する。でも、その安心感もつかの間。
「でも、ちょっといいなとは思っちゃいました。私にあんなこと言ってくれた人初めてですから。あんまり白谷先輩がボーっとしてるとホントに私がもらっちゃいますからね?」
「ふ、ふん。負けるつもりなんてないもん。」
「あー。ほらやっぱり。」
「あっ。」
思わず言ってしまい、顔が熱くなる。でも、嘘じゃない。
「じゃ、これからは恋敵って感じで、よろしくお願いしますね。白谷先輩。」
彼女はにっこりと笑いかけ、背を向ける。
そして彼に満面の笑みを向け、教室を後にする。
入学式の日、彼を見かけた日に私の中で絞られた、将来のたった一つの選択肢。たった一つに絞られた私の将来の夢。
私は、彼のお嫁さんになりたい。
その夢の難しさを改めて思い知らされた。
けどやっぱり、負けたくない。
この夢は必ず叶えてやるんだ。
「どうしたの白谷さん?」
負けるもんか。
私はさっきの恋敵に負けないくらいの笑みを作って答えた。
「ううん。なんでもないよ。」
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