第8話 図書室に連れてきたがゆえにお悩み相談をすることになった。

図書室。

黄山を案内して、俺たちは仕事に取り掛かる。

白谷さんも図書室に着くと同時に離れてくれた。

今でも心臓の鼓動が早くなったままだ。

「へえ、黒川先輩たちって図書委員だったんですね。くるみも本好きだからなろうか迷ったんですけど、配布係にしたんです。一人係で楽なので。」

(ああ、そういえばさっきこいつ、友達いないみたいなこと言ってたな・・・)

ここでなんで一人のほうが楽なの?とか聞くのはただの鈍感野郎だ。

だから俺は、デリカシーがない鈍感野郎が嫌いなんだ。

敏感な俺はこういった些細なことも記憶する。

「一人の時間、俺も結構好きだぜ。」

「くるみも好きです。自由ですし。」

「そうそう。自分のことだけ気にしてればいいしな。他人に気を使ったり、他人のことで悩やんだりするなんて馬鹿みたいだ。」

「先輩、いいこと言いますね。ホントその通りです。まあ、私は一人になりたいときに一人になれますけど、誰かといたいときでも一人なんですけどね。」

黄山はさっき一瞬見せた、悲しい表情になった。

「あっ、すみません。初めて会ったのにこんな重い話しちゃって。人と話すの久びりだったのでつい。忘れてください!」

苦笑い。

俺は女子と話したことも少ないので、こういう時、なんて言えばいいのかは分からない。


そういえば、以前にふみの相談に乗ったとき、

「正直に、思ったことをちゃんと言ってほしい。変に気を使われて本心聞けなかったら、駿に話した意味ないもん。駿の本心が聞きたいから、駿に話すんだよ?これから私以外の子に相談されることあると思う。そんな時は、ちゃんと思った通り、本心のままに答えてあげてね。あ、相手を傷つけないように、言葉はちゃんと選んでよ?」

とか言っていたな。なら、黄山にも思ったままのことを。


「これからは誰かと話したくなったりしたら、図書室に来ればいい。俺でよければ話し相手になる。図書室の担当の日じゃなかったら、教室にでも来いよ。だからあんまり自分は一人だなんてさみしい事言うなよ。」

「えっ・・・」

あれ、何かおかしなこと言ったか?いや言ってないよな?これで嫌な先輩認定されたら、ふみのせいにしよ。

「え、なんか変なこと言った?」

「あっ、いえ!そんなこと言われたの初めてだったので、驚いちゃって。」

「ああ、そういうこ・・・」

突然後ろに殺気を感じた。

「黒川くん。何仕事さぼって、後輩をナンパしてるの・・・?」

「いやいやいや!!誤解だよ!!ナンパなんてしてない!!仕事もしてるよ!!」

「白谷先輩、黒川先輩は励ましてくれただけですよ。あっ、くるみはちゃんと相手のこと知ってから、付き合いたいタイプなので、もしナンパだったならお断りします!」

「おい、なんか勝手に振られたんだけど。」

黄山が白谷さんのそばに近寄り、小声で何かつぶやく。


なんて言ったのかは聞こえなかったが、話しかけられた白谷さんは大声で

「わ、私は、別にそんなんじゃないし!!」

と叫んだ。どんなんなんだ。

また小声で黄山がつぶやく。

そして白谷さんも今度は俺に聞こえない小声で話し返す。


分かってるぞ。女子が小声で話すときは、悪口を言ってるのだ。

二人の共通の知り合いは俺だ。

よって俺の悪口を目の前で言ってやがる。

せめて、俺のいないところで話せよ。泣くぞ。


心の中で泣いていると、小声で俺の悪口を言い終えた黄山が近づいてくる。

「そういえば先輩はいつの担当なんですか?」

「水曜日の放課後と、金曜日の昼休みだ。」

「把握です!また暇な日遊びに来ますね!」

満面の笑みでそう答える。あざといが、やはり可愛い。

不意の笑顔に、ドキッとしてしまった。


あざとい黄山に見惚れてると、白谷さんさんが俺の二の腕をつねる。

「いたたたたたたた!やめてくれ!!白谷さぁん!!!」

「なに見惚れてるの。早く仕事に戻るよ。ばか。」

白谷さん、怖い。けどなに今のばか、可愛い。

「じゃあ、くるみはそろそろ行きますね!次移動教室なので!」

「あ、ああ。また来いよ。」

黄山はまた満面の笑みを見せて、自分の教室へと戻っていった。


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