第二話 ②

真っ白な、殺風景で何も無い世界。


そこでは、俺はいつも子供の姿だった。


その世界の中心で、僕は蹲っていた。


そしたら遠くから歩いてくる。


もう一人の俺、かつての俺だった、元・佐々木隆也が。


どのタイミングで声をかけたらいいのかいつも分からない。


割と遠くから歩いてくるから。


だからいつも声をかけられるのを待っている。


「やあ、ぼく」


今気づいたように顔を上げる。


「ああ、お前か」


俺は俺の隣に、俺と同じように座る。


「調子はどう」


あいつは空を見ながら尋ねてきた。


「いきなりなんだよ」


「今日はいつも以上に寂しそうに見えて」


「別になんにもねえよ」


「そう。よかった」


本気で嬉しいように。


「じゃあ、なんでずっと俯いてるの」


本気で心配しているように。


「別になんにもねえよ」


「……そう」


「父さんは元気?」


「普通」


「父さんは怒りっぽいし、強がりけど、すぐ体崩すからね」


父さんにはもう3年も会っていない。


新しい家族をつくり、暮らしている。


こいつは今の父さんを知らない。


「綾はちゃんと母さんの言うこと聞いてる?」


「普通」


「そっか〜。綾はいつもわがまま言っていたからね。よかった」


綾はもう中学三年生だ。


俺よりしっかりしている。


こいつは今の綾を知らない。


「母さんは?」


「普通」


「母さんは父さんと違って、弱々しいくせに、どこか意地っ張りなところがあるからね。ちゃんと話し相手になってあげてね」


母さんは昨日、死んだ。


今はもう生きていない。


こいつは、今の母さんを知らない。


「……ごめんな」


「どうして謝るの?」


「……別に。何となく」


「……そう。じゃあ、そろそろ行くね」


足音が、ゆっくりとゆっくりと離れていく。

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