第一話 ②

家を飛び出した俺は、単車にまたがり、いつも溜まる場所として使っているコンビニに向かう。


コンビニにはもう六人集まっており、俺は最後だった。


「おいおい隆二、またせんなよ~」


喋りかけた男を中心にほかの者たちが囲んでいる。


その横には改造バイクが並んでいた。


「すいません、五郎さん」


磯貝五郎はこのグループの中のリーダーである。


ネンショ―上がり、つまり少年院上がりの磯貝五郎はこの辺りでは名の知れた不良だった。


そして隆二が不良になったのは、高校の先輩でもあるこの人の影響が強かった。


「じゃあ、今日もお前がパシリな」


俺は笑顔をしながら、コンビニに入る。




店の中には俺以外、客は誰もいなかった。


俺たちがいつもここで溜まるのを街の奴らは知っているのだ。


そのため、この時間はめったに客は来ない。


ビールを七本もってレジへ行く。


「553番、三つ」


一人しかいない店員は俯きながら、せっせと手を動かす。


このジジイは俺が未成年だというのを知らないわけではない。


それでも俺がタバコも酒も買えるのは、五郎さんのおかげだった。


少し脅しただけで何も言わなくなったらしい。


気持ちがいい。


ぞくぞくする。


自分の力ではないものの、俺はこの状況に優越感を抱いた。




「なぁ、今日はちょっと遠くまで走りに行くか」


五郎がタバコ片手に話し出すが、その言葉に反対する者などいない。


それを知っているため、五郎さんは間を開けずに続ける。


「今日、マブと連絡っとってんのよ」


五郎が言うマブダチとは、いつも少年院で知り合った仲間のことを指していた。


ここまでの大物と対等に接することのできる者も、またそれなりの経歴を持った大物である必要があるというわけだ。


つまりは行かなければただでは済まないということ。


今夜は家には帰れないだろう。


「おい隆二、電話なってんぞ」


仲間の声に我に返った隆二は慌てて、スマホを機内モードにする。


「すみません。続けてください」


誤って五郎さんの話をさえぎってしまった自分を責める。


行先は湘南らしい。


ここからはだいぶ距離がある。


喧嘩ではないが、五郎さんのマブダチをはじめとする、族たちと合同走行らしい。


一時間ほど屯した俺たちは、単車に又借り、湘南を目指した。






朝九時、俺は家に帰ってきた。


「ねえ、こんな時間までどこ行ってたのよ」


玄関を開けると、そこには仁王立ちをした綾の姿があった。


目が少し充血している。


「……」


確か今日は平日のはずだ。


酔っているが、そのくらいわかる。


いつもなら、学校に行っている時間だろう。


それに一晩家を空けることなどざらにあることだ。


俺は訳が分からず、綾を無視し、リビングに向かう。


「メシは?」


いつもならあるはずの朝食がおいていない。


「ないわよ、そんなの。だって……」


微かだが、綾の声が裏返っていた。


「……だって母さん、昨日死んだもの」




「……え?」

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