鴇田颯太の報告書より一部抜粋したものです

おとーふ

"We are 2020 Survivers" by Sota Tobita

 2020年。


 この年は、よく歴史の教科書に登場する『人類の分かれ道』と呼ばれる重要な年号である。


 初冬に世界的なパンデミックに襲われ。


 4年ごとに開催される平和の祭典が史上初めて延期され。


 このふたつにより日本が『令和恐慌』に陥った。


 更に、追い打ちをかけるように海の向こう側の独裁国が軍事ミサイルを発射し、一触即発の外交も行った。2059年現在その国と戦争が起きていないことから、この時の日本国の対応は称賛されるべきものだろう――。

 



 これが、ありきたりな2020年の説明文である。


 今の中学生たちはこれらの文を丸暗記し、定期テストに臨む。「パンデミック」「延期」「『令和恐慌』」「軍事ミサイル」などが、よく出る穴埋め単語だ。


 しかし、これらは全て歴史の表側である。世の中、表よりも裏の方が数が多いのだから、当然これらにも全て裏がある。


 この報告書では、40年前に日本人の民族意識を強制的に変えるに至ったこれら4つの出来事について、歴史の裏側を中心に詳しく述べていこうと思う。


 なお、特定の個人や団体に偏った見方は可能な限り排除してあるが、やむを得ず報告書の都合上の問題で書かざるを得なかった箇所もいくつかある。そのため、それらの事情も理解したうえでこの報告書のページをめくって欲しい。筆者は、この報告書の結果生じるいかなるトラブルについても責任を負わないことを、ここに明記する。




 ①新型コロナウイルス感染症に関する事実と、考察


 まず初めに、時系列的に最も早く起こり、最も影響が強かった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症についての客観的な事実を述べさせてもらう。


 SARS-CoV-2は、前年の2019年12月中旬に中国武漢市付近で初めて確認され、その後半年余りで世界中に蔓延した。


 中国は当初隠ぺい工作を講じたものの、後にこれを撤回。新型ウイルスの存在を認め、国一丸となって取り組む姿勢を見せた。


 4月に入ってからは武漢市の封鎖を解除し、逆に他国からのウイルス流入を防ぐ水際対策へと転じた。この後中国は感染拡大の第二波に呑まれ、第一波の感染者数・死者数を大きく上回る6億7千万人・1200万人という最悪の数字を叩き出した。


 一方の我が国は、国内の感染者が確認されてから水際対策を強化するという奇行に走った。内側のことに目を向けず外ばかりを気にした結果、クラスターと呼ばれる感染者の集団が急増。感染者が1000人を超えた3月に入っても有効な感染症対策を打ち出せず、あまつさえ経済対策を優先するという暴挙に出た。これは後の『令和恐慌』にも関連するが、この順序を履き違えた対応により日本の経済は衰退の一途を辿る。


 世界規模に目を向けると、マスクをつける文化が根付いていなかった欧米諸国で急速に感染が拡大。特に米国では感染拡大状況が深刻になり、結果的に人口の4分の1を喪った。これが俗に言う『ファースト・インパクト』である。


 またアフリカの難民キャンプでもウイルスが蔓延し、推定でも3億人の感染者を数えた。


 新型コロナウイルスの蔓延はこれだけに留まらない。7月頃にウイルスの再活性化が指摘され、『セカンド・インパクト』が起こる。免疫を持った人でも罹ってしまうという絶望的なこの病に、全世界累計で数億人もの命が奪われた。


 一方、この危機的状況の中で中国と米国は舌戦を開始。互いに生物兵器だということを譲らない事態になったが、結局は、米国CDCから流出した人工的なウイルスだったという文書が2年後に発見され、終息した。


 以上が、事の顛末である。考察のページ数が限界なのでかなり省いたうえで述べさせてもらう。


 ――CDCマジ許さねえ。




 ②オリンピック・パラリンピック延期についての裏事情


 初冬に起きた①により未曽有の大混乱に陥った日本にとって、東京オリンピック・パラリンピックの延期の可否は重大な問題だった。なにせ開催しても他国の選手は絶対に集まらないし、国内で蔓延している状況で開催などしたら観客の混乱を招きかねない。


 そう考えた当時の日本政府は、IOC(International Olympic Committee)と協議を重ね、東京オリンピック・パラリンピックを翌年の2021年に延期することを決定した。


 当時のマスメディアは賛否両論だったものの、世論は大いに称賛していたようだ。これは、残存している資料からも裏付けられる。また、世界の声もおおよそ肯定的な意見が多数を占めていたとのことで、この英断は歴史に残った。恐らく、君たちの教科書にも重要事項として書かれていると思う。


 では、歴史の裏側をば。


 まず、日本政府は何も決断していないというのが真実である。当時の首相である安倍晋三はあたかも日本政府の決定のように伝えているが、後のIOCの内部告発により中国や米国など複数国の貿易制裁をタネに圧力がかけられていたことが判明した。結果的に貿易制裁は行われなかったものの、①による世界的な不景気により国内経済は大きく衰退した。


 また、2020年当時の日本にはスパイ対策に関する法律が制定されていなかったため、当時は複数国の密偵が中枢部まで入り込んでいたことも分かっている。彼らの暗躍により秋元司衆議院議員の逮捕がなされ、東京地方検察庁特別捜査部の内部に内通者が侵入したようだ。これについては2026年の東京地方検察庁検事正の不正情報取引についても大きく関わってくるので、また別の報告書にて述べさせてもらう。


 このように、東京オリンピック・パラリンピックには様々な思惑が絡んでいたことが、最近の研究で分かってきた。と同時に当時の一般人にとっては青天の霹靂だろう。国民たちがこのような事実を知らなかったことを祈るばかりである。




 ③『令和恐慌』について


 先述の①、②から、2020年の日本経済が大きく衰退したのは容易に想像ができるだろう。③では、先述の二つの出来事により2020年6月初旬に引き起こされた『令和恐慌』にスポットを当てる。


 まず初めに『令和恐慌』の基本的な情報は義務教育課程で習ったことだと思うが、改めて説明させていただく。『令和恐慌』は、主に新型コロナウイルスによる世界的な経済の後退とオリンピック・パラリンピックの延期により引き起こされたスタグフレーションのことである。この場合のスタグフレーションとは、供給が減少したにも関わらず需要が増加し物価が上がることである。


 『令和恐慌』の弊害としては、1990年前後に発生したバブル景気に似たような現象が起こった。例を挙げると、不動産価格の実態を伴わない高騰や、消費者の衝動的な買い占めである。またマスクの需要も高騰し、国内ではこれを簒奪するための暴行事件がいくつか発生した。更に、2020年3月にはSNSのデマに踊らされた国民がトイレットペーパーを買い漁り、混乱に陥ったということも考慮に入れなければならない。


 要するに、人間は何も変わらないということである。今でこそ改正個人情報保護法が施行されているのでこのようなデマは出回らないような仕組みが整っているものの、当時はまさにSNS黎明期だったこともあり根拠のない噂が広まってしまったと考えられる。


 全く、人間という存在は我儘だ。都合のいい事実だけを鵜呑みにし、都合の悪い情報については耳を塞ぐ。情報の発信元を確認しないで吹聴するから、根も葉もない噂に振り回される。


 そういう意味では、SNSという存在が世の中から消えて、結果的には良かったかも知れない。


 じゃあ、④に移ろうか――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鴇田颯太の報告書より一部抜粋したものです おとーふ @Toufu_1073

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ