第8話 残酷な悪戯のテーゼ

「梶谷。いつも勉強を教えてくれてありがとうね。」

「いいよこれくらい」

「お礼に、私が凄いこと教えてあげる。」

目の前にいる女の子が頬を赤らめる。そして唇を尖らせている。

この光景にひどく既視感があった。

「やめろ。やめろぉぉぉ。」


この声で一気に覚醒した。体が濡れている。かなり汗をかいていたようだ。

「よかった夢でよかった。」

思い出したくもないあの光景。思い出すたびに吐き気が襲う。


時雨のご飯を作り、身支度を済ませ、駅へ向かう。

「お、珍しいな。光樹がここにいるなんてな。」

「やっときた。今日からここで待つわ。」

改札前に光樹がいた。まあ特に意味はないのだが。

「どうした蒼。朝から疲れた顔してるぞ。」

「いや、ちょっとね。」

「夜更かしはほどほどにしろよ?」

「わかってるよ。」

夢の内容を言うのはやめておこう。言ったところで詮索されるだけだ。


「じゃあまたな。蒼。」

「じゃあね。光樹。」

二人が学校に着いたのは、七時五十分だった。学校についてすぐ、図書館に向かう。

「カウンターよろしくね。蒼君。」

「わかった。返却された本の整理よろしく。」

「わかった。」

図書館に来た理由はこれだ。委員会の仕事があるためだ。

「これ借りたいです。」

「わかりました......って笹部先輩じゃん。」

「暇だから来た。」

「そうなんですね。はい、返却期限は2週間です。」

一応仕事をして、本の貸し出し手続きを行った。次の人が来るまで笹部先輩としゃべっていた。


「そろそろ戻るか。」

「そうですね、先輩。」

委員会の仕事も終わり、先輩と教室へ戻る。

「じゃあさようなら、先輩。」

「じゃあね、蒼君。」

先輩と途中で別れ、教室へ入る。ほどなくして、担任が入ってきて、ホームルームが始まる。


「特に今日は行事がないけど、調子乗ってケガするなよ。」

担任は決まり文句を言って、教室から出ていく。緊張感が一気に抜け、騒がしい空気が教室を包む。

「蒼君。」

「なんだ?朝霞。」

「ここがわからないんだけど教えてくれない?」

「いいよ。断ったら痛い目に合いそうだし。」

「そんなことはしないよぉ。」

「その代わり、放課後、図書委員の仕事の時なら。」

「わかった。待ってるね。」


お昼になると、蒼は屋上へ向かう。

「やっと来た、遅いぞ蒼。」

「悪い、科学の実験が伸びてしまって。」

「まあいい。話があるんだ。」

「どうした?」

改まってどうしたんだろう。冗談とかだったらどうしようかな。


「お前、矢板先輩と付き合ってるって本当か?」

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