平穏な日々が…
第7話 もう嫌だ......
「蒼、凄いことになってるぞ。」
「そりゃ、大きくなるのも仕方ないだろ。」
「まあそうだよな。俺でも大きくなるのは仕方ないと思う。」
「僕どうすればいいかわからないよ。」
「僕に任せてくれ。」
「任せてくれって言ったって、何しても収まんないよ。」
「信じてくれる人はいるんでしょ?そいつらと仲良くなればいいでしょ。」
あの日から約一か月。中間考査が近づいてきている。だが、蒼の頭には中間考査という四文字など、欠片もなかった。その理由は、
蒼が複数人に告白した、という噂に悩まされている。
最初は三人に告白したという噂だったのに、約一か月たった今では二十人に告白したことになっていた。
「正直、否定したところで、信じてくれないからな。」
「そうだよね、信じてくれない人と無理に関わる必要はないと思うぞ?」
「まあ確かにな。友達なんて数が多ければいいってものじゃないもんね。」
昼休みも終わり、午後の授業を受けていた。午後の授業は、現国と物理だ。蒼は真面目にノートを取り、自前の問題集を解いている。
物理の授業も終わり、放課後になる。下駄箱で光樹と合流し、部活に行く。
テニスコートにつき、着替えを行う。練習内容は、ボレーボレー、サーブレシーブ、ゲーム形式を行う。
練習が終わり、部室で着替える。
「やっぱ光樹の腹筋すごいな。」
「だろ、毎日鍛えてるからな。」
意味のない会話をしながら、ウェアを脱ぎ、制服を着る。
「じゃあお疲れ様でしたー。」「先輩方、お疲れ様でした。」
「お疲れさん。蒼君、光樹君。二人とも気を付けて帰ってね。」
「わかりましたー。」
返事をしてくれたのは、一つ上の先輩、笹部先輩だ。身長が小さく155cmしかないのが特徴だ。本人はすごく気にしている。
笹部先輩と、僕たちはすごく仲がいい。物腰が柔らかく、弟みたいな感じなのだ。実際は先輩だけど。
「今日も疲れたな。」
「俺はあんまりだけどな。」
「違うよ。噂のせいで疲れてるんだよ。」
「毎日、お前告白した?とか、20人おめでとう。とか冷やかしてくる人多いもんな。」
「あぁ、噂の出所が分かったら教えてやるよ。蒼」
「やばい、惚れそう。」
「お前、女嫌いじゃなくて、男好きなんじゃない?」
「断じて違う。」
光樹に男好きと疑われながら、帰宅した。
「ただいまー。」
「おかえり、兄さん。随分と疲れてるね。」
「ああ。話を聞いてくれるか?」
「部活の疲れじゃないのね。話聞くよ。」
「ああ。実はな......。」
時雨に事の顛末を話した。
「......ってことがあったんだよ。」
「兄さん、何か変なことでもしたの?」
「するわけがないだろ。さらに女子に告白なんてするわけがないよ。」
「だよね。兄さんの女嫌いは筋金入りだもんね。」
時雨の言うとおりだ。蒼の女嫌いは簡単に治るものじゃない。それくらい根が深いのだ。
「どうすればいいと思う?今更拒否したって信じてくれる人いないよ。」
「信じてくれる人とかかわりを持てばいいんじゃない?」
「それ、友達にも言われた。でも、確かにその通りだな。」
「もしくは、私が兄さんの友達とかになってあげてもいいよ。」
「よし、夜ご飯にするか。」
「兄さん、無視とかひどい。」
妹を友達とかにする兄がいたら、世も末だ。まあ妹は妹だ。それ以上、それ以下でもない。
「お風呂に入るけど、侵入するなよ。時雨」
「それ、女の子のセリフ」
「お前は前科があるから信用できない。」
「そんなことしないから、ゆっくり入ってきなよ。兄さん。」
どうしたものか。どうすれば噂を消せるものか。どうすれば静かに高校生活を送れるのか。
湯船につかり始めて三十分。のぼせたことも気づかずに考えていた。
「苦しい。のぼせたかな。」
真っ赤な凧のように茹った体を見て、お風呂を出た。
外の空気が涼しく気持ちいい。少し涼んでから自室に向かった。
机に向かい、問題集を広げる。シャーペンの芯を出し、問題集を解いていく。
「兄さん、私寝るね。」
時雨の声で、一気に引き戻される。
「うん、おやすみ。」
声をかけるのと同時に、長いこと問題集を解いていたのだと気づく。そろそろ寝るか。ベッドに横たわる。なぜか温かい。
かけ布団をめくり、中を確認する。やっぱり、時雨が寝ている。
「時雨ー。自分の部屋で寝ろー。」
「兄さん。寒い。」
半分夢の状態で、時雨が返事をする。
「わかった。今日も一緒に寝るか。おやすみ。時雨。」
「おやすみ、兄さん。」
蒼も、目を閉じて眠りについた。
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