第6話 絶体絶命のピンチ⁉
「妹らしく、兄の入浴に侵入してみました。」
「とりあえず、出ていこうな、時雨。」
「兄さんが妹に劣情を抱くからですか?」
「そんな兄がいてたまるか。普通に落ち着いて入浴したい。」
「じゃあ、でていくね、兄さん。」
扉が閉まり、再び静寂が満ちる。変な妹、どうしたらいいものか考えながら、体が茹るまで湯船につかっていた。
「じゃあ時雨、おやすみな。部屋で携帯いじってるんじゃないぞ。」
「わかってるよ。おやすみ兄さん。」
妹も寝たし、自分も寝るか。自室に行くと、時雨がいた。
「時雨ー。自分の部屋で寝ろ。」
「お兄ちゃん。一緒に寝ようよー。」
こういう時だけお兄ちゃんと言ってくるのは、どこで学んだのだろうか。
「わかったよ。一緒に寝よう。」
「え。冗談のつもりだったんだけど。」
「あっそう。なら一人で寝な。」
「しょうがないから一緒に寝てあげるよ。兄さん」
「わかったよ。おやすみ。」
「おやすみ、兄さん。」
どうすれば自分の部屋で寝てくれるのか、眠気で回らない頭を使って、考えていた。
翌朝、けたたましいスマホのアラームで目が覚めた。
うっすら目を開けると、妹が規則正しい寝息を立てていた。
蒼が一足先に起きて、朝ご飯を準備してから妹を起こすのが日課だ。
朝ご飯を作り、妹を起こし、ご飯を食べさせ、洗い物をし、身支度を済ませて家を出た。
「時雨ー。僕学校に行くからな。遅刻するなよー」
「いってらっしゃい、兄さん。」
蒼は六時五十二分発の電車に乗った。入学式の日に、光樹と約束した電車に乗った。電車内には光樹がいた。当たり前だが。
「おはよ、蒼。」
「おはよう、光樹。おまえ、姉か妹いるか?」
「いきなりなんだよ。姉がいるけど。」
「その姉は、お前の入浴中にお風呂に侵入してくるか?」
「なんだよ急に。お前頭ぶつけたか?そんなのアニメとかの話だろ。」
「いや、やっぱ何でもない。」
家のことを安易に話すのはやめてやろうと思った蒼であった。
授業中、蒼はずっとあることを考えていた。昨日、朝霞に言われたあの言葉。
委員会決めで、朝霞と同じ委員になったとき、
「わかった。その代わり、テスト前は、私に勉強を教えてね。」
「嫌だけど。勉強できないの?」
「成績は真ん中くらい。蒼君は勉強できるでしょ?」
「一桁はとれる自信はあるけど。」
「教えてくれなきゃ言いふらすよ?」
うわ、うざこの女。弱みを握って脅すとか。
「わかったから言いふらすのはやめてくれ。」
「じゃあ、よろしくね。あーおーいー君。」
テストまであと一か月。この約束を忘れてくれないかな。
「お昼の時間だからと言って、ふざけた行動とるなよー。」
あれ?もうお昼?ずっと考えてて、全く聞いてなかった。まあいいけど。
「なあ光樹。」
「なんだ蒼。」
「わざわざ、ここでお昼ご飯を食べる必要ある?」
「ここって、ただの屋上だろ?誰もいないしいいじゃん。」
まあその通りだな。そういうことにしておこう。
「あとお前に伝えなきゃいけないことあるし。」
「なんだ?改まって。」
「お前の、よくない噂が広まってるぞ。」
ん?どういうこと?僕は何も変なことしてない。何を言われてるんだ?
「えっと、どんな噂だ。」
「蒼が複数人に告白したって。」
どういうことだ?告白した覚えがない。まず女が嫌いなのに告白するなんてありえない。
「どういうことだ?」
「俺も詳しくは知らない。だが、蒼のことを女たらしって言ってる。」
「明日から学校行くのやめようかな。」
「いや気にしなくていいだろ。信じてないやつのほうが多いし。そのうち消えるだろ。」
「光樹は、光樹は信じてるの?その噂。」
「誰が言ってるかわからない噂より、本人のお前が言ってることのほうが信憑性があるから、信じるわけないでしょ。」
「ありがとう。」
「さらにお前女子嫌いだからなおさらあり得ない。」
「うん。」
屋上でお昼を食べ終え、教室に戻る。今度は唯一話したことのある女子、朝霞に話しかける。
「あの、朝霞さん。聞きたいことがあるんだけど。」
「んー?どうしたの?蒼君。」
「なんか、僕のよくない噂が広まってるらしいんだけど、何か知らない?」
「噂か。あ、朝聞いたよ。蒼君が3人に昨日Lineで告白したっていう噂。」
「その噂、誰が流してるか知ってる?」
「知らないなぁ。また聞きだから。」
「わかった。ありがとう。」
話を終え、背を向け、自席に戻る。後ろから「私は信じてないよ。蒼君。」と聞こえたのは気のせいだろうか。
ーあとがきー
読んでいただきありがとうございます。
少しずつ物語が予想していた方向と違う方向へ進んでいってますね。
一日二話を目標に書いてますが、早くもネタが切れそうです。
完結までは頑張って書ききりたいです。次回作もお楽しみに!
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